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「原宿系」アイドルの可能性はどこまで広がっていくのだろうか――天晴れ!原宿ワンマンライヴレポート

宗像明将音楽評論家
天晴れ!原宿(提供:株式会社TAKENOKO)

インディー出身のアーティストが駆けあがる瞬間

いわゆる「大物」と呼ばれるアーティストと仕事をしていても、ふと自分はやはりインディーなアーティストが好きなのだと気づくことがある。そうしたアーティストがメジャーになる過程を追いかけているときが一番楽しい。

7人組アイドル・グループである天晴れ!原宿が、2019年6月7日にZepp DiverCity(TOKYO)で開催したワンマンライヴ「天晴れ!原宿全国ツアー2019ツアーファイナルZepp DiverCity」は、そうした胸の高鳴りを予想外なほどに感じさせてくれるものだった。

天晴れ!原宿は「原宿系」アイドルのなかでもなぜ生き残れたのか

天晴れ!原宿は2016年7月にデビューしたグループ。グループ名の通り、当時数多くシーンに登場していた「原宿系」のアイドルの一組だ。彼女たちの着る衣装のヴィヴィッドな色合いもそれを物語っていた。

そんな天晴れ!原宿の知名度を押しあげてきたのは、「ピンチケ」と呼ばれる若いファンが起こしてきた数々の騒動だった。是非はさておき個人的に好きな騒動は、2017年10月のライヴ中にファンがピザを食べはじめ、プロデューサーのカノウリョウが「僕もピザ好きだけど、ライブ中にピザはダメだよ」と注意した後、メンバーがピザを食べている写真を掲載するというウイットに富んだ一件だった。とにかく天晴れ!原宿は、この手の話題に事欠かない存在として急速に知られていった。

とはいえ、天晴れ!原宿がそれだけの存在だったなら、多くの原宿系アイドルがすでに解散しているように、彼女たちもとうに消えていただろう。なぜそうならなかったのか? ひとつの理由には楽曲のクオリティの高さがある。2016年12月にリリースされたアルバム「APPARE! WORLD」には、「原宿サニーデイ」というYunomiが作詞作曲した名曲がすでに収録されていた。Yunomiは現在は中田ヤスタカとも親交が深い。

さらにこの時点で、NOBE、ミナミトモヤ、村カワ基成、CHEEBOW、KOJI oba、Dr.Usuiといった優れた作家陣が楽曲提供をしていた。でんぱ組.inc周辺の作家が多いことも、原宿系へのアキバ系の影響の強さを感じさせる。2017年のシングル「君の眼球ごし救いたまえアイドルよ」では、ゆるめるモ!に数多くの楽曲を提供している小林愛が作詞、ハシダカズマが作曲を担当。MVでは、それまでとは一転して色素が薄いヴィジュアルを押しだしてみせた。こうしたクリエイティヴ面では、原宿系の枠にはまらないアプローチも展開していた。

フロアの騒ぎに言及されがちな天晴れ!原宿だが、ヴォーカルの実力も見逃せない。朝比奈れいという破格のヴォーカリストの存在は、天晴れ!原宿を特別なものにしてきた。2019年5月からの一時期、朝比奈れいが休養したこともあったが、その間も成実みくを筆頭とするメンバーたちがステージで歌いあげていた。2019年5月23日に渋谷TSUTAYA O-WESTで開催された「APPARE! WORLD SPECIAL 2MAN LIVE」では、朝比奈れい不在の天晴れ!原宿が、真っ白なキャンバスの「SHOUT」のカヴァーを披露したが、2018年に加入した藍井すずの歌声の力強さには驚愕したものだ。

朝比奈れい。19歳。オリジナル・メンバーにして天晴れ!原宿の中心となるヴォーカリスト。ソロ写真集「あした晴れるかな」も発売中。(提供:株式会社TAKENOKO)
朝比奈れい。19歳。オリジナル・メンバーにして天晴れ!原宿の中心となるヴォーカリスト。ソロ写真集「あした晴れるかな」も発売中。(提供:株式会社TAKENOKO)
成実みく。18歳。オリジナル・メンバーにして、グループのプレイングマネージャー的存在。(提供:株式会社TAKENOKO)
成実みく。18歳。オリジナル・メンバーにして、グループのプレイングマネージャー的存在。(提供:株式会社TAKENOKO)
藍井すず。17歳。2018年12月8日お披露目。闇感を求めているところに中二病感があるが高校3年生なので誤差の範囲内。(提供:株式会社TAKENOKO)
藍井すず。17歳。2018年12月8日お披露目。闇感を求めているところに中二病感があるが高校3年生なので誤差の範囲内。(提供:株式会社TAKENOKO)

天晴れ!原宿のライヴの楽しさ、面白さとは、こうした要素が組み合わさった結果によるものだ。

篠笛と和太鼓の生演奏によるライヴの幕開け

2019年6月7日の「天晴れ!原宿全国ツアー2019ツアーファイナルZepp DiverCity」のオープニングは、Yunomiが制作した和風の「Overture」で幕を開けたが、なんと篠笛と和太鼓による生演奏。ダンサーもいる。巨大なダルマが置かれたセットの豪華さや、会場を飛び交うレーザーに、予算のかかり方がこれまでとは違うと驚かされた。

Zepp DiverCity(TOKYO)のステージに立つ天晴れ!原宿(提供:株式会社TAKENOKO)
Zepp DiverCity(TOKYO)のステージに立つ天晴れ!原宿(提供:株式会社TAKENOKO)

最新シングル「アッパライナ」でライヴはスタート。天晴れ!原宿が、現在の朝比奈れい、成実みく、藤宮めい、永堀ゆめ、七瀬れあ、工藤のか、藍井すずという体制で初めてリリースしたシングルだ。オリコンの週間シングルランキングでは2位を獲得した。

7曲目に披露された「センチメンタルプリズム」は、2018年のシングル「パレリラパレリラ / センチメンタルプリズム」の楽曲だ。Yunomiが作詞作曲した「センチメンタルプリズム」は、EDMマナーを踏襲しつつメランコリック。シングルのタイトル曲に選んだ見識にうなったものだ。

藤宮めい。17歳。2018年3月18日お披露目。幼く見えるがヴォーカル面で急成長を遂げている。(提供:株式会社TAKENOKO)
藤宮めい。17歳。2018年3月18日お披露目。幼く見えるがヴォーカル面で急成長を遂げている。(提供:株式会社TAKENOKO)

3回目のメジャー・デビュー発表

「センチメンタルプリズム」が終わるとメンバーがステージから去り、ステージのモニターに「重大発表!!」の文字が。それは「遂に3度目のメジャーデビュー決定!!」というものだった。何度メジャー・デビューすれば気が済むのか……。これまで所属していたOTODAMA RECORDS、日本コロムビアに続いて、次はキングレコードからデビューするとのことだった。

キングレコードからのメジャー・デビュー(4か月ぶり3回目)を発表する天晴れ!原宿(提供:株式会社TAKENOKO)
キングレコードからのメジャー・デビュー(4か月ぶり3回目)を発表する天晴れ!原宿(提供:株式会社TAKENOKO)

そして新曲「あっぱれサマーっ!!」のMVが流されると、ファンは初めて聴いたはずなのに、フロアからはMIXやワールドカオスと呼ばれる掛け声が沸きおこっていた。なぜそうしたことが可能なのか? 若いファンたちは無意識にJ-POPの構造をよく理解しているのだ。

永堀ゆめ。17歳。2018年3月18日お披露目。金髪にした際に理由を聞いたところ「お人形さんになりたい」と言われて一瞬言葉に詰まったために「引いてる、悲しい」と言わせてしまった。(提供:株式会社TAKENOKO)
永堀ゆめ。17歳。2018年3月18日お披露目。金髪にした際に理由を聞いたところ「お人形さんになりたい」と言われて一瞬言葉に詰まったために「引いてる、悲しい」と言わせてしまった。(提供:株式会社TAKENOKO)

ライヴ後半の「キミだけのワンダーランド」では、イントロからファンがフロアを駆けめぐる状況になり、さながら運動会に。シンプルに馬鹿馬鹿しい光景ほど強度が高いものだ。

七瀬れあ。16歳。2018年3月18日お披露目。加入時点では14歳だったが、その段階で起業しそうなほどしっかりしていた。(提供:株式会社TAKENOKO)
七瀬れあ。16歳。2018年3月18日お披露目。加入時点では14歳だったが、その段階で起業しそうなほどしっかりしていた。(提供:株式会社TAKENOKO)

「Our Music」では、何度ものメンバー・チェンジを経てきた天晴れ!原宿をめぐる出会いと別れに思いを馳せてしまった。アンコールの最後の「バンチャラ」では、銀テープが発射されてフロアに舞い落ちた。

工藤のか。16歳。2018年12月8日お披露目。日本と中国のハーフ。真面目だけれど勉強はできないという。(提供:株式会社TAKENOKO)
工藤のか。16歳。2018年12月8日お披露目。日本と中国のハーフ。真面目だけれど勉強はできないという。(提供:株式会社TAKENOKO)

こうして天晴れ!原宿のワンマンライヴは笑顔のまま終わった。メンバーは取材の場でも常に明るい。この年代のアイドル・グループにしては珍しいほど、メンバーが誰も泣いたことがない。そんなタフな天晴れ!原宿が、今後どこまで駆けあがってくれるかを楽しみにしたい。移籍先のキングレコードには、AKB48もももいろクローバーZもいるのだ。

Zepp DiverCity(TOKYO)のステージに立つ天晴れ!原宿(提供:株式会社TAKENOKO)
Zepp DiverCity(TOKYO)のステージに立つ天晴れ!原宿(提供:株式会社TAKENOKO)
音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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