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元タカラジェンヌ・大湖せしる、男役と女役を経験したからこそ見えたもの

中西正男芸能記者
元タカラジェンヌで女優の大湖せしる

5月に宝塚歌劇団を退団した大湖(だいご)せしるさんが退団後初の舞台となる「グレイト・ギャツビー」に出演します。2002年に入団し、男役として活躍。若手メンバー中心の新人公演で主演を務めるなど将来を期待される男役でしたが、2012年に新たな進化を求め、女役に転向。キャリア11年目での転向は極めて異例ですが「全ては積み重ね。これまでの全てが今に生きていると思います」とまっすぐな瞳で語りました。

男役のまま辞めていたら…

当たり前なんですけど、今までは男性と舞台に立つことはなかったですからね(笑)。まず、けいこ場で男の人と一緒にいるというところから、自分の体がどう反応するんだろう、緊張するのかなと。でも、おけいこが始まったら、本当に違和感がなくて、自分でもびっくりしました。

その時に思ったのが、もし、これが男役のまま辞めていたら、また違ったんだろうなと。自分が男役として日々男性を演じて、そこから外に出て、今度は自分が女側になったなら、また大変だったと思うんですけど、最後3年半くらい女役をさせてもらったことは非常に大きかったなと感じています。

とはいえ、退団後初めての舞台ですので、最初はどぎまぎすることも多かったんですけど、それが比較的早く慣れられたのも、今までの経験が活きたのかなと。男役から女役に転向する時も、最初は何が分からないのかも分からないくらい、分からないことだらけだったんです。それを経験しているから、今回もすんなり入っていけたのかなと思います。

積み重ねが続いている

ただ、女役と言っても、これもタカラヅカでの女役なので、また純粋な女優さんのお芝居とは違うということも実感しています。自分がタカラヅカでやってきたものの上に、新たに外で学んでいるものを積み重ね、積み重ねしている感じですね。

積み重ねということで言うと、11年男役をやってましたので、女役に転向してからも、自分が「可憐で、かわいらしい娘役さん」みたいな色合いではないことは分かってましたし、そっちに合わせていくのも自分の色を消してしまうことになる。なので、11年やってきた男役を捨てずに、そこに積み重ねをしていく。今まで築き上げてきたものを捨てるなんてことはしたくもなかったですし、自分の色を残しつつプラスアルファをと考えてましたね。だから、ずっと今もずっと上書きではなく、積み重ねが続いている感覚です。

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サラッと終わりたかった

タカラヅカを辞めた理由ですか?これはね、親にも誰にも相談せずに自分で決めたんですけど、一言で言うと“幸せだったから”。舞台を軸に生活するという時間がとにかく幸せすぎまして。タカラヅカでの生活はいつかは退団して終わる。だったら、幸せで仕方がない今の時期に終わりにしようと。

あと、最後の作品は「るろうに剣心」だった。これも大きかったんです。「るろうに剣心」は“一本もの”だったんです。というのは、普通、タカラヅカの公演というのはお芝居とショーの二本立てで、ショー部分でその公演で退団する人がフィーチャーされる場面があるというのが定番なんです。ただ、お芝居だけの一本ものということはショーがない。ということは、退団者がフィーチャーされる場面がないということ。

勝手な考えかもしれませんけど、それがよかったんです。私としては“作品の一部”として普通にサラッと終わりたかったんですね。最後まで、いち表現者として終わりたかったといいますか。

甘い考えっておっしゃる方もいるかとは思うんですけど、自分がやりたい、こうしたいと思ったことをやって、それが失敗に終わったとする。でも、それでもいいんです。私は失敗することよりも、やりたいと思っていたことをやらなかったということの方が怖くて。選んで失敗しても、自分が選んだことだから納得がいく。そして、その失敗で見えたことは自分に足りないところだから、次はそこを埋めることをしていけばいい。そう考えてるんです。

自分の時間は増えたけど…

一つ言えるのは、退団して、自分の時間は増えましたね。私は15年で辞めましたんで、だいぶ最後の方は自由にさせてもらっていたんですけど(笑)、それでも今“けいこ場にいる時間以外は全部自由”という感覚は新鮮です。

ただ、よくタカラヅカを辞めてから時間ができて英会話を習いに行ったりだとか、旅行に行ったりだとか、新たなことを始めたという話も聞くんですけど、私、本当に特に何もやってなくて…。「趣味は?」と聞かれたら「舞台です」と答えるんですよね。趣味というと軽くなっちゃいますけど、趣味であり、人生であり、生きる全てと思っているので。なんだか最後にカッコつけちゃいましたかね(笑)。スミマセン。

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■大湖せしる(だいご・せしる)

兵庫県出身。2000年に88期生として宝塚音楽学校入学。02年、宝塚歌劇団星組公演「プラハの春」で初舞台を踏み、同年、雪組に配属。08年には新人公演「マリポーサの花」で主演を務めた。2012年、入団11年目で男役から女役に転向。2015年には「ルパン三世」で峰不二子役を務めるなど女役として活躍し、今年5月「るろうに剣心」の東京宝塚劇場公演千秋楽をもって退団した。7月からはミュージカル「グレイト・ギャツビー」のジョーダン・ベイカー役で、退団後初の舞台に出演する。共演は内博貴、相葉裕樹、愛原実花、山口馬木也ら。東京公演(サンシャイン劇場、2日~10日)、名古屋公演(13日、名古屋市芸術創造センター)、京都公演(ロームシアター京都、15日~17日)、神戸公演(新神戸オリエンタル劇場、23日~24日)が行われる。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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