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初優勝に天を仰いだ霧馬山 本割と優勝決定戦で見せつけた強さとしなやかさ

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
初優勝し、八角理事長(左)から賜杯を受け取る霧馬山(写真:日刊スポーツ/アフロ)

手に汗握った千秋楽のラスト2番

大相撲春場所千秋楽。怒涛の展開に興奮を抑えることができなかった。

2敗でトップを走る大栄翔と、3敗で追う霧馬山が結びの一番で対峙した。勝てば自身2度目の優勝を手にする大栄翔。元来あまり緊張しない性格で、引き締まった表情も落ち着いて見えた。対する霧馬山は自身初優勝をかけ、本割での勝利と優勝決定戦への持ち込みを狙う。

立ち合い。大栄翔は得意の突き押しで相手を突き放していく。霧馬山も簡単には押されないが、土俵際で上体が柔らかくしなる。このまま大栄翔が突き切る――かと思われたが、霧馬山が土俵際でしなやかな足腰を生かしていなした!大栄翔がそのまま土俵外に飛び出し、逆転の突き落としが決まった。館内は拍手喝采。結末は優勝決定戦にもつれ込んだ。

決定戦は、きっとどちらも思い切っていくだろう。大栄翔は同じ失敗はしないだろうが、霧馬山の対応力の高さは目を見張るものがある。どちらが勝ってもおかしくない。そんなふうに考えながら筆者もその瞬間を待っていたが、結末はまったく予想できなかった。気迫を内に秘めながらも、落ち着いた表情の両者。この大舞台で素晴らしい精神力である。

決定戦の立ち合い。両者思い切って当たり、大栄翔が激しい突き押しで攻める。またも土俵際で霧馬山が大栄翔をかわして大栄翔が前に倒れる。本割と似た流れになったが、霧馬山の足も飛び出し物言いがついた。土俵下で協議を見守る両者だったが、審判長の説明は「霧馬山の足は残っており、霧馬山の勝ちといたします」。天を仰いでほっとした表情の霧馬山。自身最高位の関脇で、ついに初優勝を果たした瞬間だった。

霧馬山、大関昇進への期待

初場所から2場所連続の技能賞も受賞した霧馬山。昨年、拙著『日本で力士になるということ』でインタビューした際には、「優勝が夢ではなく現実的な目標になってきた」と語っていたが、先月のインタビューでは「(次期大関の呼び声も高いが)勝ちたいと思いすぎたらプレッシャーになるので、負け越してもいいんだからって、それくらいの気持ちで臨みたい」と落ち着いたコメントも残している。

足腰や運動神経のよさといった素質に加え、相撲の技術と力、さらには精神面まで強く磨かれてきた。直近3場所は8勝、11勝、そして12勝での優勝。現在貴景勝の一人大関という現状も鑑みて、来場所彼を大関に上げてもらいたいとすら個人的には思う。が、どうやら難しそうなので、来場所もまた好成績で文句なしの昇進を決めてほしい。

何はともあれ大盛り上がりで幕を閉じた大相撲春場所。霧馬山のほか、最後まで自分の相撲を貫いて優勝争いを盛り上げた大栄翔や、初日から10連勝で大注目を浴びた翠富士、新入幕で敢闘賞受賞の金峰山、そして惜しくも三賞受賞はならなかったが小結で11勝を挙げた若元春ら、土俵を沸かせたすべての力士たちに感謝の意を表したい。

十両の土俵も熱戦

朝乃山や逸ノ城、栃ノ心といった実力者がひしめき合い、さらには新十両の落合ら若い力が台頭した十両の土俵。連日見応え十分だったこの15日間を制したのは、圧倒的な強さを見せた逸ノ城だった。千秋楽は對馬洋にいい体勢で寄られるもそれを問題とせず、左上手を引いて豪快に投げて堂々の14勝目。2敗で追いかけていた朝乃山の追随を許さず、自らの手で十両優勝を決めた。来場所はまた、幕内の土俵で大暴れしてほしい。

さらに、筆者が注目したのは大阪府寝屋川市出身の豪ノ山。ご当所の今場所は、6枚目で11勝を挙げた。成績はさることながら、連日前に出る素晴らしい相撲を見せており、来場所での新入幕も夢ではない。あの朝乃山をして「実際に胸を合わせて強いと思った力士」と言わしめた豪ノ山。今後の飛躍にも期待したい。

綱取りに挑んだ貴景勝が負傷で休場。春場所は中盤から横綱大関不在となり、寂しさがあったものの、それを感じさせないほどの奮闘を、土俵に立ち続ける力士たちが見せてくれた。今場所の力士たちが見る者を魅了し続けたことは、満員御礼の垂れ幕が連日下りた館内が証明している。来月からは春巡業だ。徐々に日常が戻りつつある大相撲の世界。大阪場所の余韻に浸りながら、角界の春を待ちわびたい。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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