なぜバルサの“CEO電撃辞任劇“が起きたのか?メッシの退団と立ち込める暗雲。
トップの辞任は、衝撃的な一報として届けられた。
バルセロナは先日、フェラン・レベルテルCEOの辞任を発表。この夏、ジョアン・ラポルタ会長の下、同職に就いたばかりのレベルテルがこのタイミングでクラブを去るというのは、寝耳に水の出来事だった。
「個人的な問題と家庭の事情」がレベルテルC E Oの辞任の理由だとされているしかしながら、彼とラポルタ会長の間に意見の相違があったのは明らかだ。
大きかったのは、新たなスポンサー探しの一件だ。今季限りで楽天との契約が満了するバルセロナは、新スポンサーを見つけようとしていた。スポティファイとの契約締結が目前に迫っているようだが、ここでCEOと会長がぶつかった。
■長期スパンのプロジェクト
バルセロナは2021−2026シーズンの期間のプロジェクトをレベルテルCEOに一任する考えだった。エスパイ・バルサと呼ばれる新本拠地カンプ・ノウの資金集め、バルサスタディオの一部売却の検討、ラ・リーガが合意したCVCファンドとの契約締結拒否など、これまで熟慮を重ね必要に応じて決断を下してきた。
リオネル・メッシの退団も、そのひとつだ。バルセロナはサラリーキャップの問題に苦しんでいた。今季開幕の段階で、その額は9790万ユーロ(約128億円)。ラ・リーガで7番目の数字だった。規定を守るため、所属する選手たちの放出や減俸を考えなければいけなかった。メッシ、そしてアントワーヌ・グリーズマンがチームを去ることになった。その判断に、レベルテルCEOが大きく関与していたのは間違いない。
メッシの放出が過ちだった、というわけではない。それは経営的な視点での判断だった。そのジャッジに大きく関わった人物が、半年あまりでクラブを去るというところに、問題の本質は潜んでいる。
ラポルタ会長とレベルテルCEOは就任後、すぐにデューデリジェンスを行った。クラブの財政を洗い出す目的だった。
「我々は(ラポルタ会長が就任した昨年)3月の時点では状況を正確に把握していなかった。選手たちのサラリーが膨れ上がっているのも、少しずつ分かっていった。デューデリジェンスが終わったのは7月だった。サラリーキャップの問題もあった」とはその結果報告の際のレベルテルCEOの弁である。
「メッシに関しては、8月31日まで彼を待たせるわけにはいかなかった。イエスかノーか分からない状態で、マーケット最終日を迎えるわけにはいかなかった。それが完璧に状況を表している」
■再構築に向けて
再構築――。これは、現在のバルセロナにとって、大きなテーゼになっている。
ガビ、ニコ・ゴンサレス、アンス・ファティ、エズ・アブデ、イリアス・アコマック、アルバロ・サンス…。才能豊かなカンテラーノは、出てきている。メッシやネイマール、ルイス・スアレスらがいなくなり、カンテラーノにチャンスを与えられる舞台は整っている。
昨年11月には、ロナルド・クーマン前監督が解任され、シャビ・エルナンデス監督が就任した。「バルサの何たるや」を知る指揮官の帰還で、カンテラに賭けるという本来のフィロソフィーに戻れるはずだった。
バルセロナは今冬の移籍市場で4選手を獲得している。アダマ・トラオレ、ダニ・アウベス、フェラン・トーレス、ピエール=エメリク・オーバメヤンが新戦力として加わった。アダマがカンテラ出身とはいえ、外から選手を獲ってきたのは確かだ。
レアル・マドリー、ベティスと上位陣で今冬の補強がゼロだったクラブもある。そのなかで、バルセロナは移籍金5500万ユーロ(約71億円)でフェランを獲得して、3000万ユーロ(約39億円)の買い取りオプション付きのレンタルでアダマを引き入れている。彼らの加入がカンテラーノの成長に蓋をする可能性は否定できない。
下部組織から上がってきた選手であれば、基本的に移籍金はかからない。メッシ、シャビ、アンドレス・イニエスタが“移籍金ゼロ”だというのは、当時、よく指摘されたものだ。そして、カンテラーノはえてしてクラブ愛が強く、高年俸ではなくても新契約にサインをしてくれる。ウスマン・デンベレのようなケースも避けられる。
そう考えれば、費用対効果は抜群なのだ。
カンテラに賭け、なおかつ厳しく経営を見直すことが、バルセロナ再構築のベストな道だったはずだ。だが冬の補強が行われ、ポジティブな意味で“お金に厳しい”レベルテルCEOが去る運びとなった。これでは、逆方向に行っているような気がしてならないのである。