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完食無料のチャレンジメニュー 所持金ゼロで挑戦して成功しても罪になる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 制限時間内に完食したら無料になり、賞金までもらえるチャレンジメニュー。島根の飲食店で大盛りカツ丼に挑み、失敗して店から逃げた男が詐欺容疑で逮捕されたが、所持金ゼロで挑戦し、成功した場合でも罪になるか。

参加資格がなければアウト

 こうしたチャレンジメニューは、通常の無銭飲食と異なり、食べきったら代金を支払う必要がなく、賞金も得られるという特殊性がある。それでも、所持金ゼロで挑戦していれば、たとえ完食しても、カツ丼と賞金に対する詐欺罪が成立する。

 というのも、飲食代分以上の所持金がなければ挑戦できないルールになっており、挑戦者もこれを十分に認識しているからだ。成功率は極めて低く、飲食後の体調の変化などにも左右されるから、たとえ完食できると考えていたとしても、絶対確実な成功が保証されているものでもない。

 この店でも、代金の前払いこそ求めていないものの、事前に挑戦者に「現金3000円を準備出来ていないお客様の挑戦はお断り致します」と記された同意書を示してルールの説明を行い、サインを得ていた。成功率は3%程度だったという。

 もし所持金が3000円未満、それこそゼロであれば、あたかも3000円以上あり、失敗したら直ちに代金全額を支払えるかのように装って参加の申し込みをし、カツ丼を注文したことになる。

 したがって、そう信じ込んだ店員にカツ丼を提供させた段階で、カツ丼に対する詐欺罪が成立し、既遂に達する。ただし、完食して代金の支払いを免れたとしても、財産犯としてはカツ丼の詐欺で評価し尽くされており、カツ丼代に対する詐欺罪の成立までは認められない。

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

チャレンジメニューは「代金前払い」がベター

 もっとも、賞金については別だ。この店の賞金は1万円だったが、所持金が3000円未満だと挑戦できない仕組みになっている以上、店員をだましてチャレンジメニューのカツ丼を注文することが賞金獲得のための大前提となっている。

 完食したからといってこれが消えてなくなることはないから、参加資格があるかのように装って申し込み、だまし取ったカツ丼を食べ、それによりさらに賞金1万円までだまし取ったということで、賞金に対する詐欺罪も成立する。

 とはいえ、これらはあくまで理論的な話であり、完食していれば事件化には至らなかっただろう。失敗して所持金ゼロがバレたとか、店から逃げたといった場合と異なり、店員としてもだまされたとは気づきようがないからだ。警察に被害を届け出ることも考えがたい。

 だからこそ、所持金がゼロでも奇跡的な成功を目指して挑戦してみようという動機付けにつながる。再発防止のためには、代金分を「参加料」として前払いさせ、成功したら賞金と一緒に返金するといったやり方がベターだ。現にチャレンジメニューについてそうしたルールを採用している飲食店もある。(了)

【参考】

 拙稿「完食すれば代金無料で賞金1万円の大盛りカツ丼 食べきれず逃げたら何罪か?

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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