【エイジテック革命】第8回 高齢期を安全にすごすための「スマート・ウェルネス・ホーム」
高齢期にどこに住み、どのように老いるかは、今後高齢期を迎える人々にとっても極めて関心の高いテーマです。おそらく多くの人は、自分が今まで暮らし続けた場所で最後を迎えたいと考えているでしょう。
しかし実際には、多くの日本人は、自宅ではなく病院や介護医療院で終末を迎えているのが現状です。人口動態統計によると、自宅で最後を迎える人の割合は8.5%に過ぎず、病院や診療所、介護医療院などで亡くなる比率が76%を占めています。
高齢期の安心できる在宅生活をテクノロジー面で支援するのがエイジテックのテーマです。住まう家そのものが高齢者の健康状態をモニタリングするの仕組みの構築は、今後重要なテーマとなってくるでしょう。そこで今回は、スマート・ウェルネス・ホームの動きを紹介していきたいと思います。
スマート・ウェルネス・ホームの現在
日々の健康状態をチェックするために、毎回、血圧計や体温計、体重計などを使用しなくとも、さまざまなバイタルデータが取得可能な設備やセンサーが設置され、健康管理が自然に可能となる住宅、スマート・ウェルネス・ホームの実現は多くの人々が望むことでしょう。
住宅内で、バイタルデータを最も自然な形で入手できる場所は、なんと言っても浴室やトイレなどでしょう。入浴や排泄の機会を通じて、日常のバイタルデータが入手できれば、わざわざ測定する手間が省けます。
スマートバスルーム
スマート・ウェルネス・ホームに関して、グーグルは2016年にいちはやく、「心臓の健康状態と他の機能的状態と人体生理学的システムの動向を非侵襲性に判定(Noninvasive Determination of Cardiac Health and Other Functional States and Trends for Human Physiological Systems)」する特許を提出しています。このグーグル・バスルームは、超音波バスタブ、色彩感知ミラー、マットなどで構成されるもので、これによりバイタルデータを取得し、健康状態を評価しようとするものです。マットは、心臓の電気伝導系を測定し、それを波形に変換。ミラーは肌の分析から、内臓状態まで測定できるというものです。グーグル・バスルームに関する特許は、いまだ実現には至っていませんが、いずれこうしたスマートバスルームが実現するかもしれません。
グーグルのスマートバスルームのコンセプト
スマートトイレ
そして、もうひとつのスマート・ウェルネス・ホームの可能性はトイレにあります。
スマートトイレの開発については、国内外で各社がしのぎを削っていますが、米国カリフォルニアのトワ・ラボ(Toi Labs)社が開発する「トゥルーロー(TrueLoo)」は、ビデのように数分で設置できるスマート便座を開発しています。
トゥルーロー(TrueLoo)
トゥルーローは、画像センサー技術を用いて排泄物を分析し、高齢者のさまざまな泌尿器系や消化器系の疾患を検知するのに役立ちます。これによって、明らかにできる疾患情報は、脱水症状、尿路感染症やノロウイルスなどで、これらの病気は、高齢者の間では大きな問題で、しばしば入院につながることもあります。
トゥルーローの便座には、画像センサーが設置されており、これが排泄物を測定します。AIを活用した画像データ分析から病気や障害の兆候を発見するのです。トゥルーローは高齢者施設での使用が想定されており、測定されたデータは介護スタッフのスマートフォン上のダッシュボードに送信される形になっています。
「トゥルーロー」を開発したトワ・ラボの共同設立者兼CEOであるヴィック・カシャップ氏は、「私たちは未来のバスルームを作っている」と語っています。
スマートトイレの開発は、トワ・ラボ社以外でも行われています。
ロチェスター工科大学を起点とするカサナ(Casana)社が開発するスマートトイレ、ザ・ハート・シート(The Heart Seat)は、心拍数、血圧、酸素濃度、心拍出量などのヘルスデータを収集し、その内容を分析することで、健康状態や時系列の傾向を独自に把握しようとするものです。
また、シカゴ大学のグループが設立したスタートアップ「バイオームセンス(BiomeSense)」は、腸内マイクロバイオームのデータを収集するためのスマート便座を開発しています 。
現在開発されつつある浴室やトイレは、いずれこの数年内に実用化されていくことでしょう。そうした暁には、今までとは異なるより精度の高い健康管理システムが、私たちの日常に訪れてくることになるに違いありません。