「暗殺」が衝撃だった作品は? 主人公&人気キャラが“凶弾”に倒れ…
米国のトランプ前大統領が銃撃された暗殺未遂事件で、大騒ぎになっています。歴史を振り返ると、暗殺は対立者を葬り去る手段の一つであり、血を見ずに政権交代を実現できるシステムの民主主義にとって、根幹を揺るがす暴挙。そして「暗殺もの」は、創作意欲を刺激されるのか、マンガやアニメ、ゲーム、小説などでは、よく使われているようです。
「暗殺」を扱った人気マンガと聞いて、真っ先に思いつくのが、すご腕の殺し屋が世界をまたにかけて活動する「ゴルゴ13」でしょうか。教師になった謎の生物と、暗殺術を学ぶ生徒たちの交流を描いた「暗殺教室」もありますね。天才の殺し屋が平和な日常を過ごす「ザ・ファブル」、スパイと殺し屋、超能力者の疑似家族をコミカルに描いた「SPY×FAMILY(スパイファミリー)」などを思い浮かべる人もいそう。「シティーハンター」「るろうに剣心」もアリでしょうか。いずれもアニメ化されていますし、ゲームでも闇討ちするものは多くあります。このように暗殺を思わせるテーマを扱う作品が多いのは確かです。
ただし、「暗殺」という言葉の正確な意味を踏まえると、少し違うものが見えてきます。岩波国語辞典(岩波書店)によると「(政治・思想などで対立する立場の)人をひそかにねらって殺すこと」とあります。ニュースを見てもお気づきの通り、普通の人が襲撃されても「暗殺」というワードは言いません。主に政治家や、影響力のある社会的地位の高い人が、襲撃されたときに使われているのです。
「ゴルゴ13」は問題なしで、「るろうに剣心」は幕末時代を考えると当てはまるという感じ。「暗殺教室」の「殺せんせー」は国家にマークされているから、政治的な意味を持つ要人と解釈できそう? まあ、政治家のような要人が出る作品は限られるので仕方のない面があります。
そして主人公や主要キャラクターが「暗殺をする」ことはあっても、「暗殺をされる」というのは、さらにぐっと少なくなります。理由は簡単で、「暗殺」は一瞬でそのキャラクターをその作品から退場させてしまうから。特に主人公や人気キャラクターが暗殺されると、衝撃度は半端ありませんが、その後の展開に影響が大きく、作品の人気低下につながりかねません。
その中で「暗殺される」状況が何度も出る人気作品があります。アニメ化もされた小説「銀河英雄伝説」で、主人公の一人・ヤン・ウェンリー、もう一人の主人公の盟友・キルヒアイスは志半ばにして“凶弾”に倒れます。作中では「暗殺される側は暗殺されずとも名を残す」「気の毒に。いい人ほど早く死ぬ」などと言うセリフで伏線が張られ、おまけに両者とも屈指の人気キャラ、かつ作中きっての戦上手。戦争では無敗なのに、暗殺で命を落としてしまうわけで、読者の心をえぐりました。ただしそのインパクトゆえに、警告めいたものになっているわけですが、人気キャラが“凶弾”に倒れるようなことは、なかなか真似できるものでないでしょう。
もちろんキルヒアイスはあくまで、ラインハルトをかばって死んだ形になったため「暗殺されたわけではない」という考え方もできるでしょう。ただし陣営のトップクラスの要人が、襲撃者から殺意を向けられて殺されたのも確かです。このあたりは判断が割れるかもしれませんが、いずれにしても衝撃的なシーンだったりします。
ちなみに同作は、未来の国家の興亡を描いていることもあり、キャラクターは要人ばかり。そして他にもテロに巻き込まれて暗殺された重要キャラもいますが、それにもかかわらず人気を保ち、再度のアニメ化もされたわけです。
史実をベースに虚構も取り込んだ小説「三国志演義」でも、少年皇帝が権力者に葬られたり、劉備の義弟・張飛が就寝中に部下の手にかかったり、諸葛孔明の後を継いだ要人が降伏した敵の将軍に刺されたりと、これまた暗殺がちらほら。クーデターが発生して殺されたのは暗殺なのか、戦死なのか判断に迷うケースもありますが、歴史ものならではでしょう。
他にも探せばいろいろ出てくるでしょうが、「暗殺」は扱いが難しいことが分かります。そして創作だけのことであってほしいと願う次第です。