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W杯開幕! この4年間で8強経験国に2勝9敗1分けのジャパンは「ベスト8」に到達できるのか?

永田洋光スポーツライター
開幕前日会見に臨むリーチ・マイケル キャプテン(写真:ロイター/アフロ)

 待望のラグビーW杯日本大会開幕まで、あと数時間だ。

 今夜19時45分には、日本対ロシアのキックオフを告げる笛が吹かれ、11月2日の決勝戦まで、6週間にわたって熱戦が繰り広げられる。

 ジャパンの目標は「ベスト8」だ。

 前回大会では、南アフリカを逆転で下した「世紀の大金星」を含めて3勝1敗と史上初の好成績を残しながら、勝ち点差でスコットランドに上回られて、これまた史上初の「3勝を挙げながら決勝ラウンドに進めなかったチーム」となった。

 ほんのわずかな差で届かなかった8強の座が、今回の到達目標なのである。

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ以下、キャプテンのリーチ・マイケルはじめ、選手たちは「いい準備ができている」と手応えを口にする。7月から8月にかけて行なわれたパシフィック・ネーションズ・カップでは3連勝で優勝を遂げ、9月6日には4年前の因縁の相手、南アフリカともガチンコで戦った。結果は7―41と大敗したが、“フィジカルバトル”で当たり負けしない手応えはつかんだ。

 ベスト8へ視界は良好――というわけだが、果たして本当にそうなのか。

 その実相を検証する。

“8強常連国”と、チャレンジャーの間に横たわる「壁」

 ベスト8の常連は、現在のワールドラグビーの前身である国際ラグビー・ボード(IRFB=後のIRB)を運営してきた、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、フランス、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの伝統国だ。これらの国(地域)以外にこの高みに到達したのは、フィジー、カナダ、サモア、アルゼンチンの4カ国だけ。しかも、1次リーグが、5チームで1つのプールを構成するようになった03年オーストラリア大会以降でこの壁を破ったのは、フィジー(07年)と、アルゼンチン(07年、11年、15年)だけだ。見方を変えれば、アルゼンチンが常連となって、9カ国が8つの椅子を争う図式ができあがりつつある。

 今大会で日本が8強入りを果たすためには、この壮絶な“椅子取りゲーム”に勝たなければならない。

 そのために、ジャパンはどう戦えばいいのか。

 ベスト8に残るには、プール戦で2位以内に入らなければならない。

 そのためには全勝するか、3勝1敗の成績を残すことが求められる。

 11年ニュージーランド大会では、フランスがトンガと2勝2敗で並びながら勝ち点差で2位抜けをした例もあるが、これはあくまでもレアケース。つまり、ロシア、アイルランド、サモア、スコットランドの順に戦うジャパンに当てはめれば、現在のランキングで上位のアイルランドかスコットランドのいずれかを倒さなければならない。

 その上で、前回大会で南アフリカ、スコットランド、ジャパンの3チームが、すべて3勝1敗の“三すくみ”となったような場合に備えて、ボーナスポイントをしっかり上積みすることが求められる。

 前回大会のジャパンは劇的な逆転勝ちで南アフリカを破ったが、このセンセーショナルな勝利も、勝ち点という視点から見れば、獲得ポイントはジャパン4―2南アフリカだ。ジャパンは、カーン・ヘスケスの逆転トライや五郎丸歩の美しいトライなどを披露して世界を魅了したが、合計のトライ数は3。ボーナスポイントとなる4トライに届かなかった。

 一方、南アフリカは、敗れたもののしっかり4トライを挙げて1ポイントを獲得。逆転で敗れたものの、7点差以内だったため、これにも1ポイントがついた。

 そしてジャパンは、中3日で迎えたスコットランド戦で10―45と完敗。7点差以内負けのボーナスポイントを獲得できず、逆にスコットランドに5トライを奪われて、ライバルにボーナスポイントを与えてしまった。

 この時点で、ジャパンは2試合戦いながら獲得した勝ち点は4。スコットランドが1試合だけで5ポイントを挙げて首位に立った。しかも、3戦目のサモア戦で、ジャパンは彼らの高い身体能力から繰り出されるカウンターアタックを警戒し、26―5と勝利しながら奪ったトライは2。またもやボーナスポイントを得られずに、3試合終了時点での勝ち点は8にとどまった。

 私はここでサモア戦の戦い方を批判しているわけではない。

 キャプテンのリーチが、テレビの解説者が「トライを狙うべき」と断言する場面でもPGを選択し続けたのは、サモアに勝つための最善の策だったと考えている。なにしろ、この時点でジャパンは、W杯の場でサモアに勝ったことがなかったのだ。対戦成績でも分が悪い。だから、3点ずつ加算してスコアを伸ばすのは正解だ。

 けれども、最善手を打ったにもかかわらず、ベスト8には到達できなかった。

 そこに見えない“壁”がある。

 その壁とはなにか。

 勝利を重ねた経験だ。

 この大会までジャパンは、91年大会でジンバブエを破った1勝を挙げただけだった。南アフリカ戦は24年ぶりの勝利だ。当然、最優先されるのは、まずW杯の舞台で「勝つ」ことだ。リスクを冒して5ポイントを取りに行くことではない。だから、サモア戦でもそのプライオリティに従った。その結果の4ポイントの勝利だ。

 対するスコットランドは、これまで8強入りに黄信号がともったことは何度もあったが、8強入りを逃したのは、アルゼンチンに12―13、イングランドに12―16と敗れた11年大会だけだ。15年大会でも、最終戦がベスト8をかけたサモア戦となったが、この試合も、サモアに4トライ奪われながら36―33で勝ち切り、日本の8強進出の望みを絶った。日本戦とアメリカ戦で5ポイントの勝利を挙げて、最終戦を勝てば大丈夫というところまでポイントを積み上げたことが、最後に生きたのだ。

 今回のW杯で同組になったアイルランドも、過去8大会中2大会で8強を逃しているが、99年大会は、この大会だけ設けられた準々決勝プレーオフという一発勝負でアルゼンチンに敗れたもの。プールステージで3位になって8強を逃したのは、07年大会でアルゼンチン、フランスに連敗したときだけだ。

 つまり、今大会のジャパンのライバルたちは、決勝ラウンドはともかく、プール戦を勝ち抜くことに関してはしたたかであり、経験を積んでいる分、ノウハウを蓄積しているのだ。

 対するジャパンは、前回大会を経験した選手がスコッドに10名残ったとはいえ、1次リーグで勝利を挙げることが最優先であることにかわりがない。

 この4年間、ジャパンは、サモアを除く8強経験国すべてと戦った。

 そのなかで勝利を挙げたのは、16年のカナダ戦(26―22)と、今年7月のフィジー戦だけだ(34―21)。カナダ戦はトライ数が両チームとも2つずつで、勝ち点に換算して4―1。フィジー戦は5―0の完勝だったが、あとはフランスに23―23と引き分けた以外は全敗。7点差以内の負けも、16年のスコットランド戦(16―21)、ウェールズ戦(30―33)の2試合があるだけだ。つまり、4年間でベスト8経験国と12試合戦って2勝9敗1引き分け。獲得した勝ち点は13ポイントにとどまっている。

 これが、ジャパンの現実的な立ち位置なのである。

ベスト8到達に必要なのは、したたかにポイントを積み上げるタフさだ!

 さて、ここからジャパンは目標に到達するためにどうすべきなのか。

 まずは今夜のロシア戦で4トライ以上奪って勝ち、5ポイントを獲得することがマストの条件になる。

 その上で、対戦相手の勝ち負けや獲得ポイントを計算しながら、したたかに1ポイントでも上積みするような戦い方が、残り3試合に求められる。

 5ポイント獲得を目指して戦いながら、それが難しくなったときに、ゲームプランを変えてでも4ポイントの勝利をものにできるか。

 4ポイントの勝利が危なくなったときに、引き分けの2ポイントか4トライ以上奪っての7点差以内負けで2ポイント獲得を目指せるか。

 それさえも危うくなったときに、7点差以内負けか4トライ以上奪っての敗戦に目標を切替えられるか。

 ベスト8を目指すということは、そうしたシビアな計算を常に働かせながらタフにゲームを戦うことだ。それは、相手と対等に戦える力を身につけたジャパンだからこそ背負わされる宿命でもある。

 同時に、相手と対等に戦うことと、勝利を挙げることの間に横たわる壁を乗り越えなければ、目標に届かないことも肝に銘じるべきだ。どんな強豪とも五分に渡り合うことと、勝つことは、まったくの別物なのである。

 この、越えられそうでなかなか越えられない壁こそが、ベスト8到達を目指すジャパンの前に立ちはだかる壁だ。

 果たしてジャパンは今回、その壁を乗り越えられるのか。

 健闘を祈る!

 

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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