羽生九段&藤井七段の知的イメージと小学校への導入で子供への普及が進んだ平成の将棋史
平成を代表する将棋棋士といえば、七冠を制した羽生善治九段をあげる声が多数だろう。
その活躍は、将棋の取り巻く環境も変えた。羽生九段の知的なイメージにより、将棋は子供たちに親しまれるものになっていった。
将棋の歴史をひもといても、将棋がこれほど子供たちへ普及した時代は平成が初めてと言える。
羽生九段の知的イメージ
筆者がプロ入りしたのは平成17年。下部組織である奨励会に入会したのは平成5年だ。
将棋を本格的に学び始めたのはちょうど平成に入ってからだった。
当時、将棋を取り巻く環境は決して良くなかった。
学校で将棋を指す友人や先生はいたが、将棋部が盛んだった印象はない。
道場は煙草をくゆらせるおじさんだらけで、将棋盤の周りは煙で白く覆われている、そんなイメージだった。
そのイメージに変化が出始めたのは平成8年頃。羽生九段の七冠制覇に沸いた年だ。前年秋から放送された羽生九段出演の公文式のCMがキッカケだった。
知的なイメージを羽生九段が植え付けたことで世間の将棋を見る目が変わっていった。
小学校への導入と藤井聡太七段の登場
この流れを加速させたのは平成17年に将棋連盟会長に就任した故米長邦雄永世棋聖だ。
子供への将棋普及を旗印に、全国各地の小学校への導入を進めた。このときに出来た制度はいまでも将棋連盟における子供への将棋普及の根幹になっている。
小学校で流行すれば将棋教室に入る子供も自然と増える。そして教室が盛況になれば子供大会も盛況になる。大会参加人数は右肩上がりとなり、大会そのものの数も増えていった。成果は着実に出ていた。
子供が増えれば道場も教室も変わらざるを得ない。
禁煙の先駆けとなった道場は、昨年営業を終了した八王子将棋センターだろう。子供や保護者にとって将棋を指せる安心な場が増えていき、子供将棋ファンが増える環境は整っていった。
子供への普及が進んだ中で平成28年に藤井聡太七段がプロ入りし、デビューから29連勝という空前絶後の記録を達成して将棋史に残るブームがやってきた。
藤井(聡)七段は羽生九段と同様に知的なイメージを持っていたうえ、年齢がいまの子供たちに近いことも人気の要因だった。
子供たちはお兄さんとして藤井(聡)七段に憧れを持ち、保護者は自らの息子のような気持ちで応援した。
子供教室はどこも満員になった。後述する高野秀行六段の主宰する子供教室では、体験に半年待ちを要することもあるようだ。
子供教室そのものも激増した。子供大会はどこもかしこも大盛況になった。
長い期間をかけて蒔いてきた種に花が咲いたのだった。
令和における子供への将棋普及
そして以前ほどの熱はないにせよ、藤井ブームが続く中で令和に入る。子供への将棋普及を令和でより促進できるか。将棋の未来はそこにかかっていると言っても過言ではない。
子供から大人に至るまで継続して将棋を趣味として続ける人は少ない。
しかし子供時代に指した経験がある人ほど、大人になって将棋に再び興味を持つようになる。これは筆者の経験上間違いない。
だから子供たちへの普及をおろそかにしてはいけないのだ。
子供への将棋普及をおろそかにすれば、将来必ずファン減少の憂き目にあう。
子供への将棋普及に熱心だった米長邦雄永世棋聖の悲願は、将棋の義務教育への導入だった。
これは令和への宿題となっている。この達成には、将棋界があらゆる面で努力を重ね続ける必要がある。無理ではないか、将棋連盟内部ではそんな声も聞く。
しかし義務教育への導入は、将棋という文化の発展に不可欠なものだと筆者は考える。
子供に与える将棋の影響
さて将棋をやると子供にどんなプラスがあるのか。
10年近く子供教室を主宰し、プロ棋士の将棋教室として大成功している高野(秀)六段は、著書(こどもをぐんぐん伸ばす「将棋思考」- 「負けました」が心を強くする- (ワニプラス) )の中で
「こどもの脳と心にとって、将棋が素晴らしい体験であることを確信しました」と書く。
具体的には
- コミュニケーション能力が高まる
- 考える力が養われる
- 礼儀作法が身につく
- 頭を使って目の前の問題を解説するので知恵がつく
と書いている。これには筆者もうなづかされる。教えてきた子供たちで、将棋に熱心な子供ほどこれらのことが身についていたからだ。
また家族で一緒に将棋と触れ合うことも高野(秀)六段は推奨している。
将棋によるコミュニケーションで親子の距離が縮まるからだ。
さらには、子供とおじいちゃんという形で、世代を超えたコミュニケーションの輪が広がることも期待される。
最後に
この記事を読んだ読者の方には、GW期間中にお子さんやお孫さんと将棋に触れ合う時間を作っていただきたいです。
そしてお子さんが将棋に熱中し、令和時代の趣味として将棋を楽しんでいただければ、プロ棋士の筆者としてはとても嬉しく思います。
今後も皆様に楽しんでいただける記事を書いていきますので、令和時代もどうぞよろしくお願い致します。