藤井聡太八冠の好影響で若手大躍進の一年に ー第82期順位戦を振り返るー
12日(火)の順位戦C級2組一斉対局をもって、第82期順位戦の全日程が終了しました。
A級では、豊島将之九段(33)が藤井聡太名人(21)への挑戦権を獲得しました。番勝負では久しぶりとなる二人の対戦で熱戦が期待されます。
藤井八冠の活躍に刺激を受けた若手の活躍が目立ち、昇級者の平均年齢が大きく若返りました。
今期は残留争いにも多くの注目が集まり、ドラマもありました。ここから順位戦全体を振り返ります。
若手大躍進
豊島九段はA級で開幕6連勝!そのままの勢いで挑戦権を獲得するかと思われましたが、そこから2連敗を喫してしまいました。
最終戦で豊島九段は菅井竜也八段(31)との直接対決を制しましたが、この対局も中盤までは劣勢に立たされており、ようやくの思いで獲得した挑戦権でした。
今期は特に若手の活躍が際立つ一年でした。全クラス通じて昇級者の最年長は大石直嗣七段(34)で、40代以上の昇級者はいませんでした。
さらに30代の昇級者もわずか3名と、若手大躍進と言える一年となりました。
ベテランで孤軍奮闘の活躍を見せた深浦康市九段(52)でしたが、ラスト2戦で連敗を喫して昇級を逃してしまいました。
今期は自力で迎えた最終戦に敗れた棋士が一人だけで、逆転で昇級を果たしたのは石井健太郎七段(31)だけでした。他の昇級者は、最終戦前に昇級が確定していたか、最終戦での勝利で昇級を果たしました。
これは、実力や勢いに勝る棋士が昇級を果たしたことが要因としてあげられそうです。そのため、昇級した棋士は上のクラスでも活躍することが期待されます。
往年のベテランの降級
A級から降級した2名は、いずれもここ2~3年でタイトル戦に出場していたため、降級という結果は意外でした。しかし、A級のメンバーが強力なので、どの棋士が降級しても同じような感想を抱くことになったと思います。
Bクラスでは、長年そのクラスにとどまっていたベテラン棋士の多くが降級の憂き目に遭いました。
降級と降級点の枠が広がった影響も大きいでしょう。屋敷伸之九段(52)は5勝7敗という成績ながら下から3番目の成績でやや不運な降級となりました。
B級2組から5名が降級したのは、降級点の枠が広がったことと、前期に降級者がいなかった2つの要因があげられます。4勝6敗ながら降級点を取ってしまい、2回目の降級点により降級となった阿部隆九段(56)も不運な降級と言えます。
名人挑戦やタイトル獲得の実績もある高橋道雄九段(63)は、2期前にはあと1勝で昇級できるところでしたが、その翌期から2期連続で降級点を取ってしまいました。これは各クラスの競争の厳しさを示していると言えそうです。
青野照市九段(71)がC級2組から降級したため、高橋九段が順位戦参加棋士としては最年長となります。
実力伯仲
今期のA級は、3勝6敗が2名、4勝5敗が4名と、大接戦の残留争いでした。7勝2敗で挑戦権を得た豊島九段の2敗は、降級した2名に喫したものであり、実力伯仲であることが窺えます。
また、B級1組でも、7勝5敗~5勝7敗に13名中9名がひしめき合っており、一つ星が変わっていれば結果が大きく変わっていた可能性がありました。これもまた実力伯仲であることが窺えます。
現在の将棋界は藤井八冠が全てのタイトルを独占していますが、A級とB級1組の実力伯仲ぶりは2番手集団の中で大きな差がついていないことを示唆しています。
藤井八冠を倒す棋士がこの中から抜け出してくるのか、それとも伊藤匠七段(21)や藤本渚五段(18)のように下のクラスから追い上げる棋士達が一気に勢力図を塗り替えるのか。順位戦を追うことでその答えも見えてくるでしょう。
そして、4月には名人戦七番勝負が始まります。
藤井名人と豊島九段のタイトル戦は、2022年夏の伊藤園お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負以来、約1年半ぶりとなります。
この間、豊島九段は振り飛車を取り入れたり棋風改造に取り組んでいます。
これは間違いなく藤井名人に勝つための戦略の一環でしょう。その成果がこの七番勝負で発揮されるでしょうか。
藤井名人は、名人戦のような2日制のタイトル戦で圧倒的な成績を残しています。最近行われた第73期ALSOK杯王将戦七番勝負で菅井八段を完璧に封じたインパクトは大きかったです。
注目の七番勝負は4月10・11日に開幕します。ぜひご注目ください。