藤井聡太叡王への挑戦。伊藤匠七段の勝利への戦略 ー叡王戦第2局は20日にー
藤井聡太叡王(21)に同学年の伊藤匠七段(21)が挑戦する第9期叡王戦五番勝負は、4月7日(日)に第1局が行われ、藤井叡王が先勝しました。
伊藤七段は3回目のタイトル挑戦ですが、ここまで藤井叡王に一度も勝利を収められていません。
20日(土)に行われる第2局は伊藤七段の先手番でもあり、シリーズの流れを引き戻すために、何としても白星をあげたいところです。
絶対王者の藤井叡王に伊藤七段が勝利するには何が必要なのか、ここから解説していきます。
第一段階
この二人は「研究最先端三羽烏」と呼ばれており(あとの1名は永瀬拓矢九段)、研究の深さで将棋界のトップを走っています。そのため、この二人が対戦すれば、必然的に最先端の戦いとなります。
事実、この二人が対戦すると解説者を置いてきぼりにしてドンドンと局面が進んでいくことが定番化しつつあります。
さて、両者の研究のどちらが勝るか、という点でいくと、これはほぼ互角と言って差し支えないでしょう。どのような戦型に進んだとしても、研究だけで決まることはないと思います。
問題は研究から外れた時の対応です。現代将棋において難易度が高いのが、この「研究から外れた瞬間」です。
例えるならば、スマートフォンのマップアプリで歩みを進めてきたら、突然電池が切れて使えなくなった、そんな状況です。そこからは自身の羅針盤を頼りに歩みを進めるよりありません。
この場面で伊藤七段が正しい歩みを進められるか、それが藤井叡王に勝利するための第一段階となります。
第二段階
これまでの対戦で、伊藤七段は藤井叡王に対して中盤戦を互角にわたりあってきました。しかし、そこから抜け出すのが難しく、藤井叡王に勝つためには「理外の理」を拾う必要があります。一つ例をあげます。
これは叡王戦の挑戦者決定戦(▲永瀬拓矢九段―△伊藤七段)での一場面です。
伊藤七段の手番で、7七の成桂で金か銀のどちらを取るか。
こうした場面において、通常は金を取るべきとされています。金の方が銀よりわずかに価値が高いからです。
さらに言えば、△8七桂▲6九玉と進んだ形では△7八成桂▲同玉△9九桂成、と進めるのが常識でもあります。実戦もそう進みました。
しかし、将棋AIによると△6七成桂と銀を取る手もかなり有力だったようです。筆者の経験では、こうした場面で金ではなく銀を取る方が良いのは、10回中1回程度しかありません。
それでも、このような場面において理外の理を拾えなければ、藤井叡王を相手に中盤で抜け出すのは難しいと言えます。
最後の試練
対戦成績に差がつくと、ある程度リードしていても勝ちへ持っていけるか不安になってしまうのが人間の心理です。
伊藤七段はそうした不安にも打ち克つ必要があります。平常心を保つのは、人間である以上どんな人でも大変です。
ここでも挑戦者決定戦より、例をあげます。
次に▲7五歩とされると、香を取られながらと金での攻めを見せられます。しかも、入玉の恐れも出てきます。
焦りを呼びそうな場面で伊藤七段の指し手は△2六歩!でした。
悠然と反対側にと金を作りにいったのです。▲7五歩ときても△2七歩成の方が厳しいと見たわけで、この冷静さが勝利をもたらしました。
もし△2六歩に代えて△7七歩成と焦って攻めていたら、永瀬九段の粘り強さに屈する結果になったかもしれません。
藤井叡王を相手にリードを奪えたとして、冷静さを保てるかどうか。それが初勝利に向けた最後の試練です。
伊藤七段がいくつもの関門をくぐり抜けて初勝利をあげるのか。
それとも藤井叡王がまたしても跳ね返すのか。
果たして結末は?!叡王戦第2局にご注目ください。