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藤井聡太棋聖への挑戦権獲得!山崎隆之八段、躍進の原動力は?

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 4月22日(月)、第95期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦が行われ、山崎隆之八段(43)が佐藤天彦九段(36)に勝利し、藤井聡太棋聖(21)への挑戦権を獲得しました。

 佐藤九段の振り飛車に急戦で対抗した山崎八段は、奔放な序盤戦で主導権を握りました。
 中盤は苦戦に追い込まれましたが、辛抱が実を結び逆転に成功。最後は自陣に駒を打ち付ける手堅い指しまわしで勝利しました。

奔放な序盤戦

 山崎八段は、今回の棋聖戦では二次予選から登場しました。
 二次予選では、盟友とも言える同門の糸谷哲郎八段(35)に勝利し、予選決勝では同世代の松尾歩八段(44)との激戦を制して決勝トーナメント進出を果たしました。

 決勝トーナメントでは、1回戦で森内俊之九段(53)に勝利し、準々決勝に進出。準々決勝では、渡辺明九段(40)に勝利しました。
 渡辺九段との一戦でも奔放な序盤戦を披露し、話題を集めました。

「第95期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント準々決勝 主催:産経新聞社、日本将棋連盟」 ▲渡辺明九段ー△山崎隆之八段 16手目△3三金まで
「第95期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント準々決勝 主催:産経新聞社、日本将棋連盟」 ▲渡辺明九段ー△山崎隆之八段 16手目△3三金まで

 角換わりで先手の歩交換を防ぐためには△3三銀と指すのが常識ですが、山崎八段は△3三金!と指しました。奔放な山崎流が発揮された場面です。
 角換わりにおいて3三に金が来る形は、先日のタイトル戦で藤井棋聖も披露しましたが、それでも3三に銀が来る形と比べて圧倒的に少数派です。

 この奔放な序盤戦で主導権を握った山崎八段は、中盤での失敗で苦戦に陥りましたが、粘りが実を結んで逆転勝ちをおさめました。

 準決勝では、永瀬拓矢九段(31)に勝利しました。この対局でも序盤早々に歩を2つも損をする奔放な指しまわしを見せました。構想自体は失敗だったものの、相手の攻めにうまくカウンターを当てて快勝しました。

山崎スタイル

 そして昨日の挑戦者決定戦では、佐藤九段に勝利して挑戦権を獲得しました。
 この対局でも序盤戦で奔放な指しまわしを見せました。

「第95期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦 主催:産経新聞社、日本将棋連盟」 ▲佐藤天彦九段ー△山崎隆之八段 26手目△4五歩まで
「第95期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦 主催:産経新聞社、日本将棋連盟」 ▲佐藤天彦九段ー△山崎隆之八段 26手目△4五歩まで

 相手の振り飛車に対して、後手の山崎八段は居玉のまま駒組みを進めています。そして△4五歩が大胆な一着でした。常識的には△4一玉と玉を3二へ持っていくところですが、玉を囲わずに位を張ったのが山崎八段らしい一手でした。

 ただ、結果的には中盤戦でこの4筋の位を奪還されて、苦戦に陥ります。
 しかし、そこからが山崎八段の真骨頂です。

「第95期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦 主催:産経新聞社、日本将棋連盟」 ▲佐藤天彦九段ー△山崎隆之八段 95手目▲6八同飛まで
「第95期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦 主催:産経新聞社、日本将棋連盟」 ▲佐藤天彦九段ー△山崎隆之八段 95手目▲6八同飛まで

 図から、△7六歩▲同歩△7七角▲6九飛△6八歩▲8九飛△3三角成と進めたのがいい粘りでした。
 図では▲5五角が両取りとなる絶好の一着なので、この手順はそれを防いでいます。
 さらに相手の飛車をそっぽにおいやり、馬を自陣に引き付けることで、形勢はともかく、容易には負けない形を作りました。
 そして、ねじり合いに強い佐藤九段を相手にジリジリと形勢を挽回し、いつしか逆転に持ち込んで勝利をつかんだのでした。


藤井棋聖との戦いや、如何に

 山崎八段は筆者と同世代で、長い間一緒に棋士生活を過ごしてきました。
 若い頃からスター街道を走り、実力も認められているだけに、いまだにタイトルに手が届かずにいるのは不思議とさえ言えます。
 43歳の今、藤井棋聖からタイトルを奪って初の戴冠となれば、将棋界にまた一つ快挙が生まれると言っても過言ではありません。

 五番勝負は6月6日(木)に千葉県木更津市で開幕します。

山崎八段にとって15年ぶりとなるタイトル戦は、千葉県木更津市で幕を開ける
山崎八段にとって15年ぶりとなるタイトル戦は、千葉県木更津市で幕を開ける


 15年という歳月を経て再びタイトル戦に出場する原動力として、山崎八段の奔放に見える指し手が実は理にかなっているケースが多いことがあげられます。
 最初の図の△3三金は、将棋AIも推奨する一手です。山崎流の奔放さに時代が追いついてきたのかもしれません。
 加えて、中盤での粘り強さが増しているようにも見えます。これは心身ともに充実している証拠でしょう。
 タイトル戦でも、相手や舞台を意識しすぎず、山崎八段らしい将棋を見せて欲しいです。

 ここ最近は力戦調の指し方も好む藤井棋聖なので、意外と波長が合うかもしれません。どのような戦いになるか、筆者も楽しみにしています。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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