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長野五輪金メダリストのヤロミール・ヤーガは44歳になっても活躍中! そんな彼にはもう一つの顔がある

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
長野オリンピックでチェコに初めての金メダルをもたらせたヤロミール・ヤーガ(写真:ロイター/アフロ)

1998年に開催された「長野オリンピック」

日本で二度目の冬季オリンピックは、アイスホッケー界にとって、二つの大きなトピックスがありました。

一つは、「初めて女子アイスホッケーが開催されたこと」

もう一つは、「初めてNHLの現役選手が参加したこと」です。

▼長野オリンピックの金メダルメンバーで、ただ一人の現役選手

長野オリンピックは、NHLが初めてレギュラーシーズンを中断し、現役選手たちのオリンピック参加をサポートした大会になりました。

それによって、カナダ、アメリカ、ロシア、スウェーデン、フィンランド、チェコといった各国のスタープレーヤーが勢ぞろい。

「ドリームチームvsドリームチーム」と呼ぶべきカードが数多く見られ、世界中のアイスホッケーファンが熱狂する中、金メダルを手にしたのはチェコでした。

その日から既に18年半もの歳月が過ぎましたが、チェコの金メダルメンバー23人の中で、今でも現役でプレーを続けている選手が、一人だけいるのをご存知でしたか?

その選手とは、ヤロミール・ヤーガです!

▼NHL史上3人目の通算750ゴール!

長野で26歳の誕生日を迎えたヤーガは、この年から3年続けて100ポイント(82試合のレギュラーシーズンで記録したゴールとアシストの合計)以上をマークするなど、文字どおりの絶頂期。

身長189cm 体重104kg のヤーガのプレーが、「強く印象に残っているなぁ」という人も多いでしょう。

そのヤーガは、今でも現役で! しかもNHLで!! なおかつチームの主力選手として活躍しています !!!

昨年2月末のトレードによって、ヤーガはフロリダ パンサーズの一員になりましたが、「干支は同じだけど、二回り(24歳)も年下」というDFの看板選手をはじめ、若手が多いチームの中で精神的な支柱として君臨。

氷上でも主力FWとしてフロリダを牽引しているヤーガは、昨夜(現地時間)の試合で、NHL史上3人目の通算750ゴールをマークしました!

▼ヤーガが作ったもう一つのNHL記録

動画でご覧いただいた得点によって、ヤーガはもう一つNHL記録を作りました。

それは「23季目の得点」です。

昨夜のゴールで、レギュラーシーズンで得点を記録したシーズンが「23季目」になったヤーガは、ピッツバーグペンギンズで2連覇を達成した時にチームメイトだったロン・フランシス(現カロライナハリケーンズGM)らとともに、NHL歴代3位タイに!

44歳になってもヤーガのプレーぶりからは、全く衰えが感じられないだけに、マーク・メシエ(元ニューヨークレンジャーズFW)の「25季連続得点」。

さらには「ミスターホッケー」と呼ばれ、6月に亡くなったゴーディ・ハウ(元デトロイト レッドウィングス)が持つ「26季連続得点」のNHL記録更新の期待が、高まります!

ただ、ヤーガのキャリアを振り返ると、2008年から3季にわたってKHL(ロシアをはじめとする29チームが加盟)のチームに在籍。

もし、この3季もNHLでプレーをしていたら「26季連続得点」の記録に肩を並べていたのは、間違いないでしょう。

▼NHLより先にチェコ代表からは引退

44歳になってもNHLのトッププレーヤーとして活躍しているヤーガの近況を知ると、長野オリンピックでのプレーを思い出して、「チェコ代表でも活躍してるのだろうなぁ」と思う方が多いかもしれません。

ところが、先月に開催された「ワールドカップ」や「世界選手権」などの国際大会で、ヤーガがチェコ代表のジャージを着てプレーする姿は、もう見られません。

なぜなら、一昨季(2015年春)の世界選手権をもって、

「チェコ代表でのプレーにピリオドを打つ」

と宣言したからです。

最後のチェコ代表でのプレーとなった一昨季の世界選手権では、大会最年長得点記録(43歳89日)を更新して、MVPと得点王に輝き「ヤーガ健在」をアピールしました。

しかし、それでも意思は変わらず、チェコ代表のジャージに別れを告げたのです。

大きな決断に至った理由は、ヤーガのもう一つの顔である

「チームオーナーの仕事を果たす」

ことが目的でした。

▼ヤーガには、もう一つの顔がある

生まれ故郷のクラドノにあるチームは、チェコの2部リーグに加盟しています。

アイスホッケーが盛んな土地柄だけに、ヤーガに限らず多くの選手を輩出してきました。

しかし首都のプラハをはじめ、他のチームのホームタウンに比べると小さな町とあって、シビアな財政事情を強いられ続けています。

そのため、地元の選手を育ててから他のチームへ譲渡し、見返りの移籍金(レンタル代)を柱にチームを運営。日本リーグ時代の古河電工に在籍した外国人選手も、このシステムを利用して、移籍金と引き換えに派遣された選手でした。

しかし、それでもチームの財政状況は安定しないことから、ヤーガは故郷のチームを買い取って筆頭オーナーに就任。自らが育ったチームを、今も支え続けています。

世界選手権は例年5月に開催されるため、NHLのプレーオフで勝ち進まない限りは、世界選手権でプレーをするのは可能ですが、ヤーガは、スポンサーの獲得などをはじめ、オフの間にクラドノのオーナーとしての職務を果たすため、チェコ代表のジャージと別れを告げたのです。

そんなヤーガも、アイスホッケーシーズンになれば、プレーヤーに専念。

チェコ代表でのプレーは見られなくなっても、フロリダの・・・、もとい、NHLの看板選手として、まだまだファンを沸かせてくれそうです。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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