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実家捜索で泣くガーシー氏 常習的脅迫罪で立件の訳と「奥の手」使う警察の狙いは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 警察がガーシー前参議院議員の実家を捜索した。動画配信で得た収益を親族名義の預金口座経由で受け取っていたとみている模様だ。ガーシー氏は「ほんまにうちのオカンは勘弁してください」と泣きを入れているという。

常習的脅迫罪で立件の訳

 ここにきて、なぜ警察が単なる脅迫罪ではなく、あえて暴力行為等処罰法の常習的脅迫罪でガーシー氏を立件したのか、また、なぜ警視庁の捜査1課ではなく、経済事件を得意とする捜査2課が捜査を担当しているのか、その理由が垣間みえてきた。

 すなわち、マネー・ロンダリングなどを規制している「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」は、財産上の不正な利益を得る目的で罪を犯し、報酬などを得た場合、これを「犯罪収益」と規定した上で、その隠匿や収受などを禁止し、没収や追徴、保全のための起訴前の口座凍結などを認めている。

 ただ、すべての犯罪がその前提となっているわけではなく、法定刑が長期4年以上の重罪か、特にリストアップされている犯罪に限られている。単なる脅迫罪だと懲役2年、逮捕状の罪名のうち名誉毀損罪や威力業務妨害罪、強要罪も最高で懲役3年どまりだから、たとえ再生回数に応じて得られる広告収入の分配金が目当てでも、得られた報酬は「犯罪収益」には当たらない。

 しかし、暴力行為等処罰法の常習的脅迫罪は最高で懲役5年だから、恫喝動画の配信で得た報酬は「犯罪収益」にほかならない。そうすると、これを親族など他人名義の預金口座に振り込ませていれば、本人を犯罪収益隠匿罪に問うとともに、親族ら協力者を収受罪に問うことが可能となる。さらには、関係する預金口座を凍結でき、没収や追徴による収益のはく奪までできることになる。

 捜査2課による「奥の手」ともいえる親族方への捜索は、ガーシー氏を巡る資金の流れを徹底的に洗うことで、こうしたマネー・ロンダリングのほか、脱税など金絡みの余罪を掘り起こすことが狙いだろう。結局は金目当ての犯行にすぎないということになれば、「事実を述べただけだ」といった弁解がかすむことになるからだ。

本人の覚悟次第

 併せて、警察のもう一つの狙いは、日本にいてネット中傷などをそそのかした人物や、逃亡を手助けした人物らにまで捜査の範囲を広げ、親族ら協力者の立件をも視野に入れ、逃亡資金を枯渇させることで、側面から本人の帰国を強く促すことにあるのではないか。

 国外逃亡犯の身柄を確保する手段としては、旅券失効に伴う不法滞在を原因とした強制送還やICPOを介した国際手配なども考えられるものの、手間と時間がかかる。最も簡単で効果的なやり方は、日本にいる親族や友人、知人らの身辺を探り、そこから本人に圧力をかけることだ。

 令状を取り、関係者の自宅などを幅広く捜索するとともに、電話会社から通話記録を、プロバイダーからメールのやり取りなどを押収し、分析することで、本人と接触しているのが誰で、その内容なども把握することができる。

 最終的には、親族や友人らを通じ、本人に帰国や出頭を説得させることになる。ガーシー氏の弱みが身内だということになれば、警察はこれからも徹底的にこの弱みをつくはずだ。母親だけは勘弁してほしいと述べるものの、警察はこれを「煙幕」と考えており、ガーシー氏の協力者として目をつけているのは別の親族らではないか。

 身内や友人、知人らにこれ以上の迷惑をかけたくないという思いを実行に移すのか、それとも時効が成立しない不安定な状態のまま資金が尽きるまで異国の地で逃げ続けるのか、本人の覚悟次第ということになるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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