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ジュラ紀の海岸で「恐竜」に踏みつぶされた「カメ」のお話

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:アフロ)

 カメはなじみ深い生物だ。カメといえば甲羅だが、その甲羅も大型肉食獣の強力な咀嚼力には抵抗できず、ゾウに踏まれて死んでしまうこともある。最近、ジュラ紀後期の地層から恐竜に踏みつぶされたと考えられるカメの化石が発見された。

カメの甲羅はいつできたか

 カメの進化はゲノムによる分子系統学の研究で、ワニや鳥類、恐竜に近い進化を遂げてきたことがわかっている(※1)。この研究によれば、進化分岐の順序は哺乳類と爬虫類に分かれた後にトカゲが分かれ、その後にカメが分かれた直後にワニと鳥類や恐竜が分かれたという。

 カメが甲羅を持つようになったのは、カメがワニや鳥類、恐竜と分かれた直後の約2億4700万年前から2億4100万年前頃の三畳紀中期のようだ。化石の研究によれば、甲羅は肋骨が変形することでできたらしい(※2)。

 ということは、三畳紀の後のジュラ紀には、カメの甲羅はかなり進化していたと考えられる。三畳紀末にも大絶滅があり、多くの生物種がいなくなったがカメと恐竜の祖先は生き延びた。つまり、カメと恐竜は、ジュラ紀と白亜紀という同じ時代を生きていたことになる。

 両者の間にはどのような接点があったのだろう。最近、ジュラ紀の地層から発見されたカメの化石が、首の長い巨大な竜脚類に踏みつぶされたカメだったのではないかという論文(※3)が発表された。

 ジュラ紀の名前は、フランス東部からスイス西部にまたがるジュラ山脈の地層に由来する。地層年代としてのジュラ紀は約2億130万年前から約1億4500万年前だが、そのカメの化石は2007年の調査でクルテドゥー(Courtedoux)というフランスの国境に近い地層から発掘されたものだ。

 中生代のカメの分類はまだはっきりと整理されていないが、このカメはジュラ紀後期のプレシオケリス(Plesiochelys)の仲間である「Thalassochelydia」という水棲カメだったのではないかと考えられている(※4)。現在のウミガメの祖先は白亜紀に出現したと思われるが、プレシオケリスの仲間が進化した可能性もあるらしい。

 スイスのジュラ紀の地層からは、恐竜の足跡(フットプリント)化石が数多く発見されている。また、この地層にはカメの化石も多く含まれるが、恐竜の「けもの道」とカメの化石の発掘エリアは重複しない。

その後もカメは生き延びた

 この論文を発表した研究グループは、ジュラ紀の地層の調査で発見されたカメの化石の中に不思議な形に変形した化石を発見した。甲羅の前縁部は形を保っているのに、真ん中がまるで何かに押しつぶされたように平たくなっているのだ。

 この化石を詳しく調べてみると、かなりの重量物が加重し、約7度の角度でねじりながら押しつぶされていることがわかった。さらに、このカメの化石が発見されたのはあまり化石のないエリアであり、わりに珍しい事例だったという。

 研究グループは、もしかするとカメはすでに死んでいたかもしれないが、カメが産卵場所を探すうちに迷い、恐竜も普段は通らない新たな道へ入り込み、両者が出会って不幸な事態になったのではないかと推測している。

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研究グループによる推定イラスト。数トンにもなる巨大竜脚類がカメを踏みつぶし、それが化石になったのではないかという。Via:Christian Puntener, et al., "Under the feet of sauropods: a trampled coastal marine turtle from the Late Jurassic of Switzerland?" Swiss Journal of Geosciences, 2019

 過去には、フラミンゴの死骸がラクダの隊列に踏みつけられ、その後に化石になって発見されたことがあった。だが、研究グループはその報告より今回のカメの化石のほうが、よりはっきりと何者かに踏みつぶされたことがわかると主張している。

 カメはその後の白亜紀末の大絶滅を生き延びた。首の長い巨大な竜脚類は絶滅した。ジュラ紀の段階でカメの甲羅はまだあまり堅牢ではなかったのかもしれないが、いくら踏まれても彼らの子孫は生き延びたというわけだ。

※1:Zhuo Wang, et al., "The draft genomes of soft-shell turtle and green sea turtle yield insights into the development and evolution of the turtle-specific body plan." nature genetics, Vol.45, No.6, 2013

※2-1:Tatsuya Hirasawa, et al., "The endoskeletal origin of the turtle carapace." nature COMMUNICATION, DOI: 10.1038/ncomms3107, 2013

※2-2:Tyler R. Lyson, et al., "Evolutionary Origin of the Turtle Shell." Current Biology, Vol.23, No.12, 1113-1119, 2013

※3:Christian Puntener, et al., "Under the feet of sauropods: a trampled coastal marine turtle from the Late Jurassic of Switzerland?" Swiss Journal of Geosciences, Vol.16, Issue46, 2019

※4:Jeremy Anquetin, et al., "A review of the fossil record of turtles of the clade Thalassochelydia." Bulletin of the Peabody Museum of Natural History, Vol.54(2), 317-369, 2017

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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