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世代を超えた持続的な民主主義の国・社会・地域を、日本に構築するには

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
民主主義の運営は容易ではない(写真:イメージマート)

 元英首相ウィンストン・チャーチルは、「民主主義は最悪の政治形態といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」と発言したとよく引用される。このことからもわかるように、民主主義は、少なくとも現時点までではそれよりも良い政治制度はないといえるが、なかなか扱いの難しいものなのだ。

 そのことは、現在の世界中にある民主主義と採用している国や地域・社会の混乱や低迷にも表れている。

 民主主義社会では、基本的にその国・地域・社会の国民・市民・住民が主権者であり、最終決定者であり、最終責任者である。そして、社会主義や共産主義を採っている国などのような理想社会や望ましい形態・体制があるわけではない。また専制国家などのように特定の個人や集団に、権限と責任があり、それが代われば体制を変更したり、責任を負わせたりすることのできる仕組みでもない。

 要は、そこの国民・市民・住民などという、個々の構成員は変化するが、基本的には変化のない集団が権限と責任を持つ仕組みだ。それは、現在のその構成員が、自身の所属の社会への権限と過去および将来・未来の構成員である国民・市民・住民への責任を自覚しながら、その社会を運営していかないといけない仕組みであることを意味するのだ。

世代の利害を超えて民主主義を運営するには工夫が必要だ
世代の利害を超えて民主主義を運営するには工夫が必要だ写真:アフロ

 他方、民主主義、特に代表民主主義では、選挙を通じて主権者(特に有権者)によって選ばれた議員などが政治や政策の決定等を行うようになっている。議員・候補者は、選挙で選ばれない限り、その決定プロセスに参加し、決定権限を行使することはできない。そこで、彼らは、議員に選ばれるために、現存する主権者の関心を引いたり誘惑的で魅力的だったりする政策や政治の話などをする傾向になる。

 その結果が、高齢者に有利な施策が行われる「シルバー民主主義」(注1)や有権者にとり短期的には聞き心地がよく有利でありそうな政策がとられることで政府の予算が膨らむことでもたらされる国家財政の赤字の拡大などのような、さまざまな国や地域等で起きている問題・課題を生んできているのだ。それらの施策等は、将来・未来世代への負担を増大させたり、採用できる政策の幅やオプションの幅を狭めたりするような将来世代にとり厳しい状況を作り出してきているのである。

シルバー世代も大切。だが、持続的社会の構築の工夫が必要だ
シルバー世代も大切。だが、持続的社会の構築の工夫が必要だ提供:イメージマート

 上述のことからもわかるように、現役の主権者や有権者は、本来は過去および将来・未来世代のカウンターパートや彼らの社会状況を考慮・構想しながら、それらにも責任をもち、選挙での判断・選択や生活・活動していく必要がある。だが、現実は筆者も含めた現役の主権者や有権者も、日々の生活や仕事等があり、理想とするその必要性を自覚するのは難しい(注2)。そのゆえから、彼らの意向に影響される議員・候補者は、自分の立場を有利にするために、バイアスのかかった対応や意見・政策をとることになる。そのことが、国・社会の将来における持続可能性を低下させ、将来世代に不利になりがちな状況を生みやすいのだ。

 では、そのような事態を抑制したり、回避したりするために、私たちは一体どうしたらいいのだろうか。

今のような状況だからこそ、若い世代や将来世代の意見や考えが重要になってきている
今のような状況だからこそ、若い世代や将来世代の意見や考えが重要になってきている提供:イメージマート

 一つ目は、若い世代(主権者ではあってもいまだ有権者ではない世代)の意見を聞くことだろう。ただ、行政や政治が彼らに単に意見を聞いたりアンケートをとったりしてみても、国や社会の将来にとり、必ずしも有用で有意義な意見や考えが得られるわけではない。彼らに、十分な政治・有権者・市民教育が提供される環境が整備されたうえで、彼らに聞く必要があるのだ。

 日本でも、選挙権年齢の引き下げに伴い、政治教育や主権者教育の重要性が主張され、徐々に環境は整備されている(注3)。だが、日本では、基本的にこのような教育は、所属の教育機関を中心に提供されており、学校教育の枠を超えていず、社会や別環境のなかで彼らが独自かつ主体的に学んだり、考えたりする場にはなっていない。ましてや、若い世代の意見や考えが実際の政策や社会における決定に絡むようにはなっていない。

 その意味でも、日本でも、別の環境で、若い世代が学んだり、考えたりできたり、それらの活動が実社会にリンクするような仕組みづくりが必要であろう。

 その際に参考になるのが、たとえば、スイスの「青年議会」やスウェーデンの「若者協議会」という団体だ。前者は、参加も若者の意思で、企画や啓発を若者自身が行うもので、15歳から25歳の若者が政治に参加するノウハウやスキルを身に付け、政治教育を補う仕組みだ(注4)。後者は、予算もあり、若者世代の声を反映させ、まちづくりを若者自らの手で行う仕組みである(注5)。

新しい仕組みを構築していく必要がある
新しい仕組みを構築していく必要がある写真:イメージマート

 次に、社会には、工夫なしで若い世代の意見や考え等を聞くことに反対な意見も根強くある。その指摘に対して、次のような考え方や対応がある。

 まず、「ドメイン投票法」という考え方である。これは、人口問題の専門家であるポール・ドメイン氏が1986年に提唱したもので、子どもを持つ親に子どもの分まで投票権を付与する投票制度である。これにより、親が子どもに代わって、政治や政策的な判断を表明できるという制度である(注6)。なお、本投票法については、世界中でさまざまな議論がなされてきているが、これまでに実際に導入された国はない。

 また、「フューチャーデザイン(FD)」という手法がある。これは、ロールプレーのように現在の主権者が過去や将来の世代の立場や視点から考察する機会を設けることで、持続可能な社会を実現していくための政策決定の手法である。参加者が、意識的に過去の世代や将来世代を意識し彼らになり切って、その世代の立場を学び、考え、現役世代に提言等をするものである。このFDは最近注目や関心を集めてきており、その研究所がつくられたり、自治体や財務省などでもその取り組みがなされ始めたりしている(注7)

 それらの仕組みや手法・アプローチには一長一短があると共に、その一つだけで、民主主義における世代間における全ての問題・課題等が解決できるわけでもない。今後議論やトライアルがなされ、またさらに新しいやり方も生まれてくるだろうが、国や社会・地域の特性に応じて、それらのいくつかを組み合わせて、当該の国や社会が独自の対応を工夫し、過去・現在・将来の世代にベターなやり方(それ自体、社会の変化に応じて絶えざる改善・改良が必要だ)を通じて、持続的な環境が構築されていく必要があるだろう。

 このような従来とは異なる、さまざまな新しい試みが実践され、新しい社会や政治の仕組みが生まれてくることを期待したい。

(注1)シルバー民主主義とは、「少子高齢化の進行に伴って、有権者人口に占める高齢者(シルバー世代)の割合が増加し、高齢者層の政治的影響力が高まること。若年層や中年層の意見が政治に反映されにくく、高齢者向けの施策が優先されがちになるといった弊害が指摘されている。シルバーデモクラシー。老年民主主義。」(出典:デジタル大辞泉(小学館))

(注2)それでも、民主主義の国・社会では、そのような自覚に努めないといけないのだが。

(注3)次の資料などを参照のこと。

「令和4年度主権者教育(政治的教養の教育)に関する実施状況調査の結果について」(文部科学省、2023年5月19日)

(注4)次の資料を参照のこと。

「青年議会 若者が自力で政治スキルを習得できる場所」(SWI/swissinfo.ch、2023年5月22日)

(注5)次の資料を参照のこと。

「スウェーデンでは12歳が『税金で170万円のウォータースライダーをレンタル』を決められる」(両角達平、PRESIDENT Online、2021年8月6日)

(注6)次の資料を参照のこと。

「『ドメイン投票法』の衝撃」(総合研究開発機構、2011年5月)

「ドメイン投票方式はいかに支持されるか 政策と政党に関するアンケートから」(青木玲子、NIRAモノグラフシリーズNo.36)

(注7)次の資料等を参照のこと。

「フューチャー・デザインとは」(高知工科大学フューチャー・デザイン研究所、2023年6月17日閲覧)

「フューチャーデザイン」(松本市HP、2021年12月20日更新)

「特集 持続可能な選択をするために 将来世代の視点で考える財務省の新しい取組 ―フューチャーデザイン―」(財務省HP、2023年6月17日閲覧)

「将来世代の視点で考える財務省の新しい取り組みーフューチャーデザインー」

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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