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アフリカから迫るバッタ巨大群の第二波――食糧危機は加速するか

六辻彰二国際政治学者
ケニアで発生したサバクトビバッタの大群(2020.2.21)(写真:ロイター/アフロ)
  • 東アフリカで大発生したバッタの大群はアジア各地にも飛来し、各地で農作物への被害が出ている
  • 6月にはインド洋一帯が雨季になると、バッタがさらに大繁殖する危険がある
  • バッタが飛来していない中国でも、コンテナなどに紛れたバッタの侵入への警戒が高まっている

 バッタの巨大な群がアフリカから波状攻撃のようにアジアに迫っており、6月にはさらに大繁殖することが警戒されている。

バッタ巨大群の第二波

 国連は4月、アフリカでのバッタ大発生が食糧危機をもたらしかねないと「最高度の警戒」を各国に促した。

 東アフリカでは2月初旬、サバクトビバッタの大群が発生。サバクトビバッタは定期的に大発生し、1平方キロメートルにおさまるサイズの群でも約4000万匹がおり、これだけでヒト3万5000人とほぼ同量の食糧を食べるといわれる。

 2月の大発生は25年に一度ともいわれる規模で、食糧危機への警戒からエチオピア、ソマリア、ケニアなどで緊急事態が宣言された。

 今回、国連が警告したのは、この第二波だ。サバクトビバッタは大群で移動しながら繁殖を繰り返す。国連によると、今回の大発生は2月のものの約20 倍にものぼる規模という。

コロナへの追い打ち

 バッタ巨大群の第二波に見舞われた土地では、食糧危機が表面化している。例えば、東アフリカのエチオピアでは20 万ヘクタール以上の農地が損害を受け、100万人以上が食糧不足に直面している。周辺国を含めると、その数は2000万人にのぼるとみられる。

 ただし、その影響はバッタが現れた土地だけに限らない。

 世界ではコロナ蔓延により、生産や物流の停滞、所得の低下が広がっていて、すでに食糧危機が懸念されている。世界食糧計画(WFP)はコロナ蔓延以前に1億3500万人だった世界の飢餓人口が2億5000万人を上回ると試算。今後数カ月で3000万人以上が餓死する危険すらあると警鐘を鳴らす。

 このうえ数十年に一度の規模でバッタが大量に発生すれば、その襲撃を受けた地域はもちろんだが、市場での農産物の流通量が減少することで、世界全体に影響を及ぼしかねないのだ。

「6月に大繁殖」説

 サバクトビバッタは風に乗って海を渡り、2月の時点で南アジアにまで迫っていた。特にパキスタンでは農業被害が拡大しており、食糧農業機関(FAO)の推計によると、このままでは小麦などの15%が被害を受け、農業損失額は13億ドルにものぼるとみられる。

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(出所)FAO

 パキスタンが早くから被害にさらされていたのに対して、その南東のインドでは2月当初バッタがほとんど確認されなかった。

 しかし、インドでも4月半ば頃から北部ラジャスタン州などで被害が拡大。ドローンで殺虫剤を空中から散布するなど対策を強化しているが、バッタはそれを上回るペースで勢力を広げており、ラジャスタン州は4月25日、中央政府に8億4000万ルビー(約12 億円)の追加支援を求めた。

 その損失をさらに悪化させかねないのが、6月からインド洋一帯にやってくる雨季だ。サバクトビバッタは降雨量が多いときに大量発生することが知られている。2月の大発生は、昨年末に東アフリカで例年にない大雨が降ったことが原因だった。

 その第二波がすでに大繁殖しているため、FAOは6月までに東アフリカだけでバッタの数が400倍に増える可能性があると試算しているが、6月に大繁殖すればさらに爆発的に増えることが懸念されているのである。

中国が熱心な理由

 このバッタ大発生は世界の食糧価格にも影響をもたらすとみられ、FAOは各国に1億1000万ドルの協力を求めている。しかし、コロナ蔓延にともなう経済停滞により、支援の動きは鈍い。

 そのなかで例外的に熱心な国の一つが中国で、とりわけパキスタン支援に積極的だ。中国は2月末にはパキスタンに専門家チームを派遣。3月には5万リットルの殺虫剤と15基の噴霧器を送っていたが、バッタの群の第二波がパキスタンに迫った4月半ばにはこれに30万リットルの殺虫剤と50基の噴霧器を追加した。

 これに加えて、中国有数のネットプロバイダーの一つチャイナ・エコノミック・ネットは、両国の専門家が遠隔会議と情報共有を行うためのプラットフォームを提供する計画を進めている。

 中国が熱心な理由の一つは、パキスタンがもつ地政学的重要性にある。パキスタンは中国からインド洋に抜けるルート上にあり、「一帯一路」の拠点国の一つだ。このタイミングでパキスタンを支援することは、パキスタンの安定が中国にとっても利益になるからだけでなく、パキスタンに恩を売り、中国の影響力を強める効果もある。

「一帯一路」を駆けるバッタ

 その一方で、パキスタンでのバッタ対策には、中国自身を守る意味もあるとみてよい。パキスタンで大繁殖すれば、中国にもサバクトビバッタがやってきかねないからだ。

 サバクトビバッタは風に乗って1日に150キロ近く飛ぶが、標高の高いヒマラヤ山脈を超えることは難しく、パキスタンから中国に直接飛来することはこれまでも稀だった。

 しかし、南米原産のヒアリが日本で繁殖しているように、ヒトやモノの移動が虫の移動を促すことは、これまでにもあったことだ。上海税関は4月24日、梱包用木箱からサバクトビバッタが初めて発見されたと発表した。

 この荷物の出発地は「西アジアの国」としか発表されておらず、パキスタンとは限らない。

 しかし、中国が猛烈にアプローチするパキスタンからは、中国に年間18億ドル以上の物資が輸出されているため、今後サバクトビバッタが人間によって中国に持ち込まれる可能性は否定できない。

 だとすると、中国がパキスタンでバッタ対策を強化することには、自衛の意味があるとみてよい。サバクトビバッタは「一帯一路」によって移動を促されているのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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