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静かな夜の不思議な現象

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
本所の七不思議「タヌキばやし」(イメージ)(写真:アフロ)

静かな夜の不思議な現象

秋から冬にかけて、しんしんと冷え込んだ夜に、いつもは聞こえないはずの音が聞こえることがあります。たとえば、遠くの電車の音や車の音、船の汽笛、サイレンなど。

古くは本所(現在の東京都墨田区)の七不思議のひとつ「タヌキばやし」があります。夜更けに、どこからともなくお囃子の音が聞こえてくる。殿さまがお囃子の正体を知りたいと家来に音の出どころを探させたが、見つからず。さてはタヌキのお囃子だろうと話し合ったというお話。

21世紀の現代で、正体不明の音をタヌキのしわざと思う人はいないでしょうが、ふと遠くの音が聞こえて、驚くことがあります。この静かな夜の不思議な音は気象現象によって起こるのです。

逆転層のいたずら

天気予報では「あすの朝は放射冷却が強まり、冷え込むでしょう。」というフレーズをよく使います。放射冷却とは地面付近の熱が大気中に逃げる現象で、夜間、気温が下がる原因のひとつです。

とくに、よく晴れた夜は雲に邪魔されず熱が逃げるため、気温が下がりやすく、地面付近に冷たい空気が溜まります。通常、気温は上空に向かって低くなるので、地面付近の空気は暖かく、上空の空気は冷たいとなるのですが、放射冷却が強まると、これがさかさまになるのです。

これを気温の逆転層(ぎゃくてんそう)といいます。音はこの逆転層の中を反射しながら伝わるため、思わぬ方向から音が聞こえたり、遠くの音が聞こえたりと不思議な現象が起こります。

また、逆転層は低気圧によって上空に暖かい空気が流れ込んだときにもできるため、不思議な音は天気が崩れる兆しともいわれます。

今となっては「タヌキばやし」を聞くことはないけれど、昼夜を問わず音に囲まれた今の世を顧みるきっかけになりそうです。

【参考資料】

宮澤清治:霜夜に冴える鐘の音,防災科学総合センター季刊誌「消防科学と情報」1997年秋号

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは128冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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