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アンカーが遠藤航の一択では危ない。U-23アジア選手権で活躍中の20歳MFを推す理由

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 ガーナ戦。森保一監督は、三笘薫のゴールで前半を2-1で折り返すと、吉田麻也をお疲れ様と言わんばかりにベンチに下げた。初戦のパラグアイ戦もそうだった。ベンチに下げたタイミングは2-0で前半を折り返した段だった。次戦のブラジル戦に備え、当初から予定していたかのような交代だった。

 パラグアイ戦=45分(前半のみ)、ブラジル戦=90分(フル出場)、ガーナ戦=45分(前半のみ)。これが吉田の過去3戦の出場時間だ。その日のデキに左右されない交代であることが一目瞭然になる。W杯本大会を34歳で迎えるベテランの主将を、大切に扱っていることがよく分かる。

 一方、出場時間を通して、森保監督から吉田とは別の意味で重用されている選手が遠藤航だ。3試合を消化した段階で、プレーした全24人中、最も長い時間ピッチに立っている。森保監督が高く評価している選手であることが、その出場時間から鮮明になるのだ。

 吉田と遠藤が森保ジャパンの中心にいることが、過去3戦で再確認された格好だ。

 吉田がCBであるのに対し、遠藤は4-3-3のアンカーだ。専守防衛の選手ではない。吉田より動きのベクトルは多方面に及ぶ。ディフェンスの要でもあるが、同時に、攻撃の起点としての役割をも担う。いわば攻守の要だ。森保ジャパンのサッカーにより強い影響力を持っているのは遠藤。チームは遠藤中心に成立している。

 たとえば4-3-3上にCBは2人いるのに対し、守備的MF(アンカー)は1人だ。操縦桿を握るという意味でのボランチ色は、守備的MFが2人いる4-2-3-1より4-3-3の方がはるかに高い。 

 ここまでの3試合で、遠藤と交代でアンカーを務めたのは板倉滉と田中碧だ。板倉がパラグアイ戦で45分間、田中がガーナ戦で21分間、それぞれプレーしている。後者は、昨年の東京五輪で遠藤とともに守備的MFを務めた経験があるが、この時、布陣は4-2-3-1で、ダブルボランチの1人だった。アンカーではなかった。一方の板倉も、東京五輪ではCBとして吉田とコンビを組んでいた。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 森保ジャパンが4-2-3-1から4-3-3に布陣を変更したのは、W杯アジア最終予選4試合目のオーストラリア戦以降になるが、遠藤に代わり他の選手がスタメンでアンカーを務めたのは、その最終戦(=ベトナム戦・3月29日)における柴崎岳しかいない。

 柴崎は先のガーナ戦で久々に先発を飾ったものの、久保建英の横で構えるインサイドハーフだった。遠藤航とポジションを争うライバルという扱いではなかった。

 定員1。にもかかわらず遠藤にライバルはいない。現状、選択肢を他に求めることが出来ていない。なによりその姿勢が見られない。遠藤がコケたら皆コケたになりかねない状況にある。6月14日に行われるチュニジア戦最大の見どころと言ってもいい。森保監督は遠藤を4戦連続、アンカーとしてスタメン出場させるつもりなのか。

 遠藤はどちらかと言えば守備的な選手だ。ブンデスリーガで2年連続デュエル王に輝いた実績が示すとおり、高いボール奪取能力を持つ。その一方でボールを繋ぐ力、捌く力も備えている。日本代表歴代の守備的MFの中でも1番の選手だとは筆者の見解だが、能力的には7対3ぐらいの関係で守備能力が勝っている。

 選択肢が遠藤しかなければ、その7対3の関係は6対4に変更できないことになる。5対5は絶対に望めないバランスになる。攻守のバランスやプレーの調子を変えることができにくい。遠藤一択の弊害はそこにある。

 ブラジル戦。日本は相手をPKの1失点に抑えた。健闘と捉える向きもあるが、決定機はゼロという厳然とした事実もある。惜しいチャンスも「惜しい度」をA、B、Cに分けたとき、最低ランクを意味するCが2、3度あった程度だ。枠内シュートはなし。ブラジルゴールを脅かすことはできなかった。

 日本の攻撃力が決定的に不足していることが白日の下に晒されたことになる。「守備はオッケー。あとは攻撃的精神を持って臨めば……」と述べたのは、2001年4月、スペイン相手にフラット5の布陣を採用し、なんとか0-1で収めたトルシエが試合後の会見で述べたコメントだ。攻める気など全くない守り倒す作戦だったにもかかわらず、そこを誤魔化し、0-1という善戦風のスコアを拠り所に、トルシエは惜敗を最大限演出しようとした。当時の日本のメディアもその言葉を、そのままオウム返しさながら見出しに据えた。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 0-1で敗れたブラジル戦の報道を見て、想起したのは21年前のスペイン戦だった。トルシエのように守備的サッカーを意図的に演じたとは言わないが、惜しいチャンスさえろくに作れなかった理由を考えたとき、遠藤という存在に辿り着くのだった。ブラジル戦は、よくも悪くも遠藤というアンカーのキャラクターが反映された試合となった。遠藤は先述の通り90分間フルタイムプレーした。替えはいない。他に選択肢はなかった。試合の途中から流れを変えるべく、攻守のバランス感覚が7対3の遠藤に代え、6対4の選手、5対5の選手を投入して欲しかった。しかし、森保ジャパンの現状を眺めれば、それが無い物ねだりであることも明らかだった。

 選手交代5人制。登録選手枠も26人に拡大される見込みであるにもかかわらず、アンカーが遠藤の一択であるところに、森保ジャパンの限界を見る気がする。W杯本番でドイツ、スペインに勝とうとしたとき、これでは可能性を感じないのである。

 状況に応じて4-2-3-1に移行する手もある。守備的MFを2人にすれば、色は変化させやすい。7対3の関係をコンビで調整することができる。選択肢は膨らむ。もちろん、高い位置からプレスを掛ける作戦なら4-3-3の方が適しているが、要はバランスだ。試合の流れに則した臨機応変な対応が不可欠になる。

藤田譲瑠チマ
藤田譲瑠チマ写真:築田純/アフロスポーツ

 遠藤に足りない要素を具体的に言うならば、シュアーな球さばきだ。ケレンミなく球を散らす力。その不足分を残り5ヶ月余りでいかに補うか。

 現在U-23アジア選手権を戦っている日本には、4-2-3-1の2にいい人材が揃っている。

 中でも横浜F・マリノスの藤田譲瑠チマは、代表級に到達しているかに見える逸材だ。ナイジェリア出身の父親と日本人の母親の間に生まれたハーフだそうだが、筆者はアフリカというよりブラジルの匂いを感じる。両手をだらりと下げたフォームからマイボール時、相手ボール時の境界なく、滑らかに動き出す姿に、かつてのマジーニョ(チアゴ・アルカンタラの父)やマウロ・シウバの面影を垣間見ることができる。

 従来の日本サッカーには存在しなかった、新しい感覚を備えた選手であることは間違いない。このいまが旬な20歳。筆者は遠藤と競わせたら面白いと考える。

 戦い方に幅が見いだせない遠藤一択は避けるべし、なのだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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