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ヤマハ五郎丸歩、復帰後初の東京。王者サントリー戦の見どころは?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
写真は2015年度シーズン。いまは心身の充実を強調する。(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

 7月22日にチケットが売り出されるや、一部の指定席前売り券は一時「売り切れ」となった(現在は一般発売の幅を広げたからか、空席あり)。2015年のワールドカップイングランド大会の日本代表として知名度を上げた五郎丸歩が、2季ぶりの日本復帰を果たしてから初めて都内での試合に挑む。

 9月2日、東京・秩父宮ラグビー場。最後尾のフルバックを務める花形擁するヤマハが、ディフェンディングチャンピオンのサントリーと激突。昨季は12月24日に全勝対決をおこなうなど優勝を争った者同士の合戦だ。五郎丸の出場可否に関わらず、注目の80分となろう。

 トップリーグのシーズン序盤は夏場とあって、どのチームも汗などで滑ったボールの扱いに難儀。まして当該カードの開催日は小雨の予報もあり、落球はつきものとなるか。もし、互いの攻撃にエラーが増えるのならば、敵陣への侵入とその後の防御の精度が勝敗に関与するか。この両者が機能すれば、相手がひとつミスをするだけですぐに得点機が生まれる。

 エリア獲得の際に効きそうなのが、ヤマハのウイング、ゲラード・ファンデンヒーファーのロングキックだ。昨季の正フルバックだったファンデンヒーファーは、五郎丸とともに長距離弾道の使い手として最後尾に屹立。ダブルタックルを柱とするヤマハの防御網を、より前にせり出すだろう。

 サントリーの黄色い壁としては、この涼しい顔をした影のキーマンに圧力をかけたいところ。タックル後の素早い起き上がりで防御網の人数を保ち、相手ボールの行方を余裕を持って追いたい。スクラムハーフの流大キャプテンやスタンドオフの小野晃征のキックを再獲得するなどし、ファンデンヒーファーに蹴る機会そのものを与えない展開も望まれるか。

 防御が奏功すれば、敵陣での攻撃機会を得られる。ヤマハが天候や陣地を問わず左右にパスを振ろうとするのに対し、サントリーの沢木敬介監督は「スペースにアタックするという、僕らが目指すラグビーで必ず勝ちたい」と言う。

「ヤマハさんのシンプルなアタックに対し、しっかりと相手の強みを消して、ボールを持った時にスペースをどう作るか。それをもう1回、準備をしていきたいと思います」

 球の扱いが難しそうな状況下、攻める側は攻撃システムの運用とキックのバランスを熟慮し、守る側は最後まで防御網を崩さず深いエリアでの攻撃機会を探る。そんな我慢比べが予想されるこのカードにあって、もうひとつ注目されるのがスクラムだろう。軽い反則が起こった後にフォワードが8対8で組む、プレーの起点だ。

 ヤマハは2011年度の清宮克幸監督就任以来、長谷川慎フォワードコーチが8人一体型のスクラムを提唱。円熟期に入ったここ数年は、大概の相手をドミネートしてきた。

 日本代表へ入閣した長谷川コーチからバトンを受け継ぐのは、田村義和スクラムコーチ。現役時代は国内有数のスムラメイジャーだったこの人は、今春、フランスの複数クラブで武者修行をしてきた。開幕後は強いプロップのいる相手にやや手こずるも、フッカーの日野剛志ら日本代表勢が試合中に修正能力を発揮。特にメンバーの入れ替わる終盤以降は、2戦連続で強烈なプッシュを披露している。

 かたやサントリーも元日本代表スクラムコーチのマルク・ダルマゾ氏らを定期的に招へい。自軍の型をベースとしながら、昨季チーム全体で高めた「ラグビーナレッジ(知識)」もフル活用する。相手の組み方への具体的な対処法を、自らの手で作り出す。2戦連続でベンチ入り中である34歳のフッカー、青木祐輔の存在が渋く光るか。

 ファーストスクラムからノーサイド直前の1本まで駆け引きの物語も、興味を惹きそうだ。

 昨季に比べ、多くの主力をサンウルブズ(国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦)などの他チームへ派遣してきた両軍。レギュラー選手同士の連携をどんどん深めているところだ。

 サントリーの沢木監督は第2節終了時に「今日も、選手のフォーメーションの確認のために(先発要員には)長い時間プレーさせたかった。コミュニケーションではある程度、合ってきている」と証言。なかでも現日本代表フルバックの松島幸太朗は、俊敏性や機動力といった五郎丸とは異なる色を放つか。勝敗を追うのとは別に、互いのスタイルの完成度、スタイル遂行に関わる強い個性を観るのも楽しそうだ。

<第2節私的ベストフィフティーン>

1=左プロップ

アレックス・ウォントン(リコー)…サントリー戦の後半から登場。グラウンドに立った途端に肉弾戦でボール奪取。スクラムでは再三の強烈なプッシュ。

2=フッカー

臼井陽亮(NEC)…コカ・コーラを相手にスクラム、ラインアウトモールで優勢に立つ。突進役としても。

3=右プロップ

浅原拓真(東芝)…タックルとその直後の起立で防御網を引き締める。スクラムでは終盤に痛恨の反則を取られるも、それ以外は概ね優勢。

4=ロック

松田圭祐(東芝)…肉弾戦に腕を突っ込み相手の球出しを遅らせ、攻めては防御の壁に身体を当てて簡単に倒れない。開幕前から好調。

5=ロック

アンドリース・ベッカー(神戸製鋼)…膠着状態の前半は自陣防御網で持ち前のパワーを発揮。接点に肩や腕を差し込み、対するサニックスが得意とする幻惑的な攻めを断った。

6=ブラインドサイドフランカー

姫野和樹(トヨタ自動車)…キックオフ早々のキックチャージ、倒れてもすぐに起き上がっての先制トライ、再三のタックル。コンタクトシーンに何度も登場し、競り勝つ。

7=オープンサイドフランカー

リーチ マイケル(東芝)…何度もボールをもらいに行く姿勢。実際にパスを受ければ防御と防御の間を突っ切る。

8=ナンバーエイト

アマナキ・レレイ・マフィ(NTTコム)…ランナー、タックラーとしてビッグヒットを連発。

9=スクラムハーフ

田中史朗(パナソニック)…バーンズ(後述)のキックなどで敵陣での攻撃権を得れば、密集近辺のランナーに緩急をつけながらパスを配す。チャンスをスコアに直結させる球さばき。

10=スタンドオフ

ベリック・バーンズ(パナソニック)…酷暑のグラウンドで、数種類のキックを蹴り分け陣地を獲得。前半28分ごろにはハイパントで相手の落球を誘うと、チームはこぼれ球からを拾っての連続攻撃で反則を誘発。ディグビー・イオアネのトライを引き出した。

11=ウイング

ゲラード・ファンデンヒーファー(ヤマハ)…自陣深い位置から敵陣中盤以降まで蹴り返す。スピードと相まって脅威。フルバックに入っていた試合終盤には、インゴール手前左隅に回り込み相手のトライを防ぐ。

12=インサイドセンター

マット・ギタウ(サントリー)…前半34分、ハーフ線付近左。リコーの鋭く前に出る防御の裏へ鋭くキックを放ち、弾道を追って自ら日本初トライを決める。球を持たぬ折のハードワークが光る。

13=アウトサイドセンター

マリティノ・ネマニ(NEC)…守っては強烈なタックルでハイテンポなコカ・コーラの攻めを未然に防ぐ。後藤輝也の計3トライの1本目のきっかけは、この人のラインブレイク。軽いフットワークと強靭なぶちかまし。

14=ウイング

山田章仁(パナソニック)…防御の隙間があれば定位置以外の場所でもパスを受け取り、ゲインラインを破る。「味方が作ったチャンスに敏感でいたい」という信条通りのトライもマーク。

15=フルバック

松島幸太朗(サントリー)…後半はアウトサイドセンターに入り2トライ。球を受け取るや、柔と剛を織り交ぜる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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