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売上高25兆円のトヨタ、新幹線のJR東海、MRJの三菱重工。乗り物大好きな愛知の片隅で「おもてなし」

大宮冬洋フリーライター

●今朝の100円ニュース:三菱重に売却決定(読売新聞)

愛知県にプロの「おもてなし」は要らない、というより根付かない。そう感じたのはゴールデンウィークで訪れた奈良県でのことだった。吉野山や今井町、奈良市内を歩いた。人の手がほどよく入った自然に、古墳や神社仏閣が溶け込んでいる風景が心地良い。飲食店や雑貨店は、商品・内装・接客のいずれも繊細かつ気取りない店が多いのに驚く。色気を感じるほどの大人の観光地だと思う。

昨年に行った熊本県でも同じような印象を受けた。福岡からの九州新幹線がまず素晴らしい。実用一点張りの東海道新幹線とは違い、木材も使用した内装は旅気分を大いに高めてくれる。「早く安全に目的地に着けばいい」という発想ではなく、「乗っている時間も楽しんでほしい」というメッセージがはっきりと伝わってきた。阿蘇の雄大な風景を眺めた後で、黒川温泉近くの小さな温泉宿に泊まった。山奥なのに海鮮が出てくるような野暮はない。季節の野菜と良質な肉を使った料理を満喫した。もちろん、泉質にも文句はない。

両県に比べて愛知はどうか。海の幸にも農作物にも恵まれ、気候も穏やかだ。探せば、素敵な店も点在している。しかし、全体として観光資源は乏しく、旅人を丁寧にもてなしてお金を落としてもらうという姿勢は欠けていると感じる。旅館やホテルにもがっかりさせられることが少なくない。

東京に住んでいた頃、全国転勤を宿命づけられた金融機関に勤める友人たちから「名古屋転勤だけは避けたい」という話を聞かされた。堅実すぎる地元企業相手の融資は厳しいという側面もあるが、「名古屋では誰も遊びに来てくれない。家族も着いて来ない」という理由が大きい。那覇、福岡、広島、大阪、金沢、仙台、札幌などの都市のほうが転勤先としてはるかに人気だ。

一方で、愛知の「乗り物」産業はますます盛んである。営業利益で2兆3000億円に迫るトヨタを筆頭に躍進する自動車各社、東海道新幹線で最高益を出して車両システムの輸出も目指すJR東海、だけではない。国産初のジェット旅客機を2016年から生産するのも三菱重工の名古屋拠点だ。今朝の読売新聞によると、愛知県は小牧空港に隣接する県有地を三菱重工に売却し、同社を後押しするという。

もの作りと乗り物が大好きな愛知県で、観光産業のレベルアップを望むのが間違いなのかもしれない。新しい道路作りも好きなこの県は、県産の乗り物でどんどん通り過ぎてもらえればいいのだ。

ただし、心優しい友人知人がもしも立ち寄ってくれるならば個人的に全力で接待したい。観光地としての自信がないだけに、来てくれたことへの嬉しさは倍増なのだ。

観光客向けではなく、住民向けのおいしくて心地良い店ならばいくつもある。全国に誇れる食品スーパーもある。1泊ぐらいならば我が家のソファベッドで寝てもらえばいい。

愛知県においては、プロではなくて素人の僕たち住民が「観光」や「おもてなし」を担うべきなのかもしれない。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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