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タイ記録55号のバレンティン、新記録は「母の前で」  ~56本塁打への挑戦~

菊田康彦フリーランスライター

出ました! 日本プロ野球タイ記録。東京ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティン選手が11日の広島東洋カープ戦で今季55号本塁打を放ち、1964年の王貞治(巨人)ら3選手が持つシーズン最多本塁打の日本記録に並びました。ただし、今日のホームランはこれ1本だけ。新記録達成は12日の広島戦以降に持ち越しとなりました。

「ココ・メーター」には55本の数字と共に「日本タイ記録達成!」の文字も
「ココ・メーター」には55本の数字と共に「日本タイ記録達成!」の文字も

この日も試合前の練習のため、15時頃にグラウンド入りしたバレンティン選手。手にしていたバットはダークブラウン、履いているシューズは赤。いずれも昨日までとは違います。本人に言わせると、「昨日、2回も三振したからね」。前日もホームランは打ったものの、春先から三振を減らすことを意識していたという今シーズンのバレンティン選手らしいゲン担ぎということでしょう。ただし、フリーバッティングではあまり快音が聞かれず、池山隆寛打撃コーチも「今日はあまり良くなかったね。そんなに力を入れてなかったのかなぁ」と首をひねっていましたが、どうやら下ろしたばかりのダークブラウンのバットがしっくりこなかったようです。本番では前日までと同じ白木のバットに戻っていました。

記念の一発は燕党の待つ右翼席へ

ところが試合では相性の良かったはずの広島の先発・大竹寛投手の前に、1、2打席ともショートゴロ。チームも序盤からリードを許し、苦しい展開となります。迎えた6回裏の第3打席は、2死走者なしで回ってきました。初球、2球目とも変化球でカウントは1-1。ここで広島バッテリーが選んだのは、バレンティン選手が試合後「狙っていなかったし、ちょっと驚いた」と振り返った147キロの外角へのストレート。これを逆らわずに右方向に弾き返すと、打球はそのままヤクルトファンの待つスタンドへ。なんと記念すべき今シーズン55号は、ここまで8本しかなかったライトへの一発となりました。

なおも新記録への期待がかかる中、8回の第4打席はストレートのフォアボール。ボールが2球続くと場内は騒然となり、広島ファンが陣取るレフトスタンドからもブーイングが聞こえてきたのが印象的でした。9回の攻撃は打席が回らず、今日のところはこれで打ち止め。ヤクルトが2対6で敗れたため、バレンティン選手がお立ち台に立つことはありませんでしたが、試合後は「最高の気分。これだけ試合数を残して、しかも神宮でヤクルトファンの待つライトスタンドに打てたんだから、これ以上うれしいことはない」と喜びを口にしました。

「母に新記録達成を見せることができたら」

実はこの日の試合前、バレンティン選手の母アストリットさん(64歳)が12日の広島戦を観戦に訪れることが明らかになっていました。現在はオランダ在住のアストリットさんは、バレンティン選手がシンシナティ・レッズ傘下のマイナーAAA級ルイビルに在籍していた2010年にも試合に足を運んだことがあったそうですが、息子のプレーを生で見るのはそれ以来とか。試合後の会見で、バレンティン選手は「母が明日来日するので、(新記録を)達成する瞬間を見せることができたらうれしい」と話していましたが、日付変わって今日12日の試合で実現することができれば、最高の親孝行になりそうです。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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