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「アメリカが報復すれば、イランはもっと激しく報復」革命防衛隊  責任は100%トランプ氏に

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ政権は、イランの報復に対して報復するのか?(写真:ロイター/アフロ)

 報復合戦の始まりなのか?

 イランがスレイマニ司令官を暗殺した米軍に対し、「殉教者ソレイマニ」という軍事作戦の名の下、報復攻撃を始めた。

 現地時間午前1時20分、イラクにある米軍の2つの空軍基地を弾道ミサイルで攻撃したのだ。発射した15発のミサイルのうち、11発がターゲットに命中した。この攻撃により、アメリカ人が死傷したことは今のところ報じられておらず、米軍は迎撃を行わなかった。

 ちなみに、ミサイルを発射した午前1時20分というと、米軍がスレイマニ司令官を空爆で暗殺したのと同じ時刻だというから、まさに「目には目を」の報復である。

 以下は発射された弾道ミサイルの映像である。

もっと激しい報復に

 イラン革命防衛隊は米軍によるスレイマニ司令官殺害に対する報復として、アサド空軍基地にミサイル攻撃を行ったとの声明を発表、さらに、イラン国営テレビを通じてこう警告した。

「アメリカに警告していた通り、もし、アメリカがイランのミサイル攻撃に報復してきたら、イランの報復はもっとひどい、広範囲に渡る激しいものになるだろう」

 司令官暗殺に際し星条旗をツイートしたトランプ氏に対抗するように、イラン高官はイランの国旗をツイート。

 報復に対し、トランプ氏はこうツイートして米国民を安心させた。

「万事順調だ。イランがイラクにある2つの基地にミサイルを発射した。死傷者や被害の状況を調査中だ。今のところ、大丈夫だ。我々には、世界最強で優れた装備の軍事力がある」

 トランプ氏としては、大統領選を前に、国民の不安を掻き立てるわけにはいかないのだろう。

イラン系アメリカ人も憂慮

 この事態を、アメリカ最大のイラン系アメリカ人団体「全米イラン系アメリカ人評議会(NIAC)」も憂慮し、声明を出した。以下、全訳である。

「全米イラン系アメリカ人評議会は、イランがイラクにある米軍基地をミサイル攻撃したという報道を聞き、非常に懸念している。我々は、我々を悲劇的で回避できない地点に導いたイランとアメリカ両政府の軍事的激化を非難する。本格的な戦争から撤退するのに遅すぎることはない。

 しかし、撤退するチャンスはすぐになくなる。議会は、戦闘を止めさせ、イランの文化遺産への爆撃を含めて大規模報復をするというトランプという脅威を防ぐために、迅速に行動しなければならない。責任は100%トランプにある。彼は、核合意、それにイランとの緊張はあるが安定している状況を引き継いだ。

 彼(トランプ氏)は、アメリカ政府とイラン政府の間で、数十年ぶりに初めて交わされた重要な外交イニシアティブを深く傷つけ、イランの司令官を暗殺するよう彼を説得したイデオロギーの信奉者に従った。彼は、戦争への道へと後戻りするリスクがあると絶えず警告されてきた。今、その日が来たのかもしれない。

 無意味で不必要な争いで傷つくすべての人々の心痛をお察しする。傷つくのは、普通のイラン人であり、イラク人であり、そして、正当化できない重大な犠牲を払う、その地にいる人々だ。また、冷淡な指導者たちに押しつけられた戦争の影響を被る米兵や米兵の家族も傷つくだろう。

 我々は、すべての地域で戦争が起きる前に、国際社会と国連が、戦闘を外交的に解決するために全力を尽くすよう呼びかけたい。

 我々はまた、国家遺産と我々のコミュニティー(イラン系アメリカ人社会)に対してさらなる差別的行為が起きるのを根拠に、トランプ政権が国境でイラン系アメリカ人を拘留することを非常に懸念している。我々は、戦争という迫り来る恐怖の中、警戒し、我々のコミュニティーの権利を守り続ける」

報復の終わりの始まりか?

 アメリカとイランの衝突は激化するのか?

 救いは、イランのザリフ外相がツイートで「戦争や事態の激化を求めていない」と以下のように主張したことだ。

「イランは、国連憲章第51条の下、イラン国民と高官に対して卑劣な武力攻撃を放った基地をターゲットに、相応の自衛措置を取り、完了した。我々は戦争や事態の激化を求めていないが、いかなる攻撃に対しても自衛する」

 米メディアはこのツイートを「報復の終わりの始まりだ」と解釈している。

 しかし、同氏のツイートがイラン政府の全派閥を代表しているかは不明であるという指摘もある。ザリフ外相は革命防衛隊の関係者からよく非難されているからだ。その意味では、「報復の終わりの始まり」と考えるのは時期尚早なのかもしれない。

 イランの報復に対し、アメリカはどんな動きに出るのか?

 イスラム政治を専門にしているシンクタンク「センター・フォー・グローバル・ポリシー」のフェイサル・イタ二氏は米紙ロサンゼルス・タイムズでこう話している。

「アメリカ人の死傷者が出ず、イランの報復がこの限りあれば、アメリカとしては事態をエスカレートさせる必要はない。イランはミサイルを撃ちえる。司令官殺害が大きな打撃を与えたからだ」

 つまり、イランが報復したことは当然であり、イランがこれ以上報復をしなければ、アメリカも報復はしないのではないかという見方だ。

 しかし、イランの報復により、少なくとも80人の「米国のテロリスト」が死亡したという報道もある。

 ただただ、報復の連鎖が起きないことを祈りたい。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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