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えっ、このダンディなおじさまが!? 驚きのドキュメンタリー『ホームレス ニューヨークと寝た男』

杉谷伸子映画ライター

えっ、この人がホームレスなの? 

洒落たスーツを着こなしたイケメン紳士が写った試写状には驚きました。

『ホームレス』とはあるけれど、サブタイトルは「ニューヨークと寝た男」。ホームレスと言っても、あえて家を持たずにホテル暮らしを続けるおしゃれドキュメンタリーを想像してしまっても不思議はないビジュアルです。

実際、元モデルで、現在はファッション・フォトグラファーとして活動する彼の暮らしぶりは、一見すると人生の成功者。けれども、彼が帰る場所は瀟洒なマンションではなく、アパートメントの屋上。彼は住人たちに気づかれないように、そこにある寝ぐらに忍びこむ。そう、彼は路上生活者ならぬ、屋上生活者なのです。

トーマス・ヴィルテンゾーン監督の『ホームレス ニューヨークと寝た男』は、そんなマーク・レイに3年間も密着したドキュメンタリー。街角でモデルたちにカメラを向ける姿といい、カフェで食事をとり、スポーツジムで汗を流す姿といい、彼の日常は私たちが「ホームレス」という言葉から連想するイメージとはまるで違うもの。けれども、ジムのロッカーに所持品を押し込み、洗面所で洗ったシャツをハンドドライヤーで乾かす姿からは、マンハッタンで家を持たずに生きるための知恵が徐々に浮かび上がってきます。

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こう書くと、彼が好んで 家なし生活を送っているような印象を与えるかもしれませんが、もちろんそんなはずはありません。家を持たない生活はいかにプレッシャーとは無縁かを時に自嘲気味に語る彼ですが、将来への展望が開けないまま、住む家がないことはもっと大きなプレッシャーを背負っていることになるのですから。

彼が家なし生活を送るようになった経緯は簡単には語られますが、映し出されるのは、仕事はあっても部屋を借りて暮らしていけるだけの稼ぎがないという厳しい現実。それなら食える仕事を探せばいいじゃないかという話ですが、マークはそんなことを考えたこともなさそうですし、(家賃を払わなければ)なんとか生きていけるだけの稼ぎはあるとなったら、マンハッタンでファッション・フォトグラファーとしての人生が諦められないのもわかります。

お気に入りの名言を皮肉交じりにアレンジして、「無上の喜びを追及せよ。ただし、悪夢を生きる覚悟で」と、自分の現状を語るマークの言葉が彼の心情を物語って印象的。そして、そう言いながらも「恋愛もキャリアを築くのも諦めた」という彼の姿には、経済的不安から結婚できないという若者や、老後の不安を抱く人がたくさんいる日本社会が重なってくるのです。

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とはいえ、俳優のはしくれでもある彼がエキストラとして出演する作品が超話題作だったり、クリント・イーストウッドの息子カイル・イーストウッドと、彼とともに『ジャージー・ボーイズ』の音楽を手がけたマット・マクガイアが提供したジャズナンバーのかずかずが イケメンおじさまとニューヨークの風景にぴったりと、シンプルに映画として楽しませてくれるのも魅力的。

でも、この作品の最大の魅力は、彼の日常によって、仕事を持ち、社会と繋がっていることがいかに大切なことなのかに改めて気付かせてくれること。原題が『Homeless』ではなく『Home Less』であるように、彼は家がないだけ。仕事もあって、友人もいる。

だからこそ、映画の公開によって、この家なし生活が友人たちやファッション業界の人々に知られたら、イメージが重要そうな業界だけに仕事がやりにくくなるのではないかと、心配になってくるのも事実。

今の時代なら、ファッショニスタたちを撮ったブログを開設するのも良さそうだけれど、既にそうした人気ブログがあるなかでは後発組には成功は望めないのか? などと、頼まれてもいないのに、彼が成功への扉を開ける手段を考えている自分に気づいてしまいました。これも同じ しがないフリーランスの身だからでしょうか? 結果、自分こそ、不安だらけの老後に備えて今何をしておくべきか考えないといけないと自分を叱咤激励することになったのですが。

さて、現在は日本でも仕事を探しているというマーク。彼の生き方は、皆さんの眼にはどう映るのでしょう?

『ホームレス ニューヨークと寝た男』 1月28日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

(c)2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『SCREEN』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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