KDDI大規模通信障害 社長の謝罪会見がお手本にならない3つの理由
7月2日に発生したKDDIの大規模通信障害。SNSで記者会見が絶賛されているといった報道に危機感を持ち、急いで原稿を起こすことにしました。危機管理広報(クライシスコミュニケーション)とは、危機発生時にダメージを最小限にするコミュニケーション活動であり、タイミング、手法、表現が要になります。この視点から見た場合、KDDIの危機管理広報は決してお手本にしてはいけないのです。
今回の通信障害は、7月2日夜中の午前1時35分に発生し、高橋社長が把握したのは2時。ここで事故対策本部を立ち上げており、第一報は2時52分にウェブサイトに障害情報を掲載。高橋社長が対策室に入ったのが7月2日の朝7時。その後、サイト上では、1時間ごとに状況を説明する内容が掲載されたものの、記者会見はしないまま。総務省はいつまでも記者会見をしないKDDIの周知の手段に不満を募らせ、7月2日の夕方幹部をKDDIに派遣する事態になりました。KDDIによる最初の記者会見は7月3日の11時。発生から30時間以上経過してからでした。なぜ、7月2日の朝、記者会見をする、といった判断ができなかったのでしょうか。
この点について、高橋社長は3日の会見で「慎重な広報」の結果と説明。総務省のアドバイスにより、記者会見をする判断となったことを明かしています。つまり、総務省に言われなければ開催の判断ができなかったということ。これは致命的な判断ミスです。通信障害が、救急搬送といった人命にかかわる事態を引き起こすことへの想像力不足。危機管理広報マニュアルにおいて記者会見開催基準が明確になっていないことを露呈しています。
7月3日の会見においては、最初のタイトルが「逃げ」の姿勢でした。表示された言葉は、「2022年7月2日の音声・データ通信サービスが利用しづらい状況について」。実際には「利用しづらい」ではなく、「利用できない」でした。すでにクレームを受けて状況を把握していたにもかかわらず、「利用しづらい」では、事実に向き合っていない姿勢と見えます。「通信障害の発生と復旧作業の遅れ」、あるいは、「お詫び」といった言葉を入れる方が、会見の内容からいえば、より適切な表現であったといえます。もっと言えば、大規模に及んでいることから、「早期復旧のためのご協力のお願い」として、アクセスが集中しないよう、別の通信手段を選択するお願いをするなど社会全体で復旧を支えてほしいと呼びかける発想も欲しかった。自然災害など大規模災害では、マスメディアを活用して、避難行動など人の行動を変えるための呼びかけが重要な危機管理広報として定着しているからです。
冒頭の説明においては、いきなり「輻輳(ふくそう)」の専門用語を使う。障害が発生した地域を固有名詞で出し「ああ、言ってしまいました」とうっかり発言。4日の会見では「ほぼ復旧」と曖昧な表現を使い、記者から「意味がわからない」と繰り返し説明を求められる場面があり、不十分さが目立ちました。
さらに、小さいことではありますが、高橋社長は謝罪会見なのに、カジュアルなボタンダウンシャツ。しかも黒のボタンでカジュアルさが倍増。「です」「ます」といった語尾を押すからやたらと元気で明るい印象にやや違和感。評価できるのは、表情は引き締まり、記者からの厳しい指摘に真摯に向き合っていたこと。3日以降、4日、5日と継続して記者会見を開いたことも適切な判断でした。
記者の質問には、「サイトに状況掲載しても高齢者は見られない人もいる。そういった発想がなかったのか」「周知について課題があったと何度も説明がある。われわれ報道機関を活用して、周知する、利用者がどう対応したらいいのか選択肢を示したり、協力を呼び掛けたりする方法もある」など。彼らの盲点を突く鋭い内容もあり、記者会見は生産的で、KDDIにとっても有意義な場になったように見えました。
危機管理広報の視点からの教訓をまとめます。通信障害が利用者にどのような結果をもたらすのか想像力を豊かにすること、被害拡大を最小限にするための広報をどうすればいいのか記者会見開催基準を明確にすること、わかりやすい表現、的確な言い方を平時から研究しておくこと、報道機関は対立軸だけではなく協力機関として位置付けをし直すこと。
動画解説【メディアトレーニング座談会】(石川慶子MTチャンネル)