あの名作を超えたのは、キャノンロールの回転数だけじゃない!? 女性の自己実現も描く『フォールガイ』
個人的には2024年のエンタメアクション大作部門 No.1、ほぼ確定です。
ライアン・ゴズリングとエミリー・ブラントというシリアスもコメディもいける二人の顔合わせにはそそられるけれど、昨今のアクション大作のお約束である、めちゃくちゃ長いカーチェイスやバトルシーン(が待っているだろう作品)に向き合う体力にも集中力にも、年齢的に自信がなかったのですが…。
それは全くの杞憂でした!
ブラット・ピット演じる殺し屋が東京発・京都行きの超高速列車の車内で次々と襲いかかる殺し屋たち相手にバトルを繰り広げる『ブレット・トレイン』('22)のデヴィッド・リーチ監督の最新作。
撮影中に大怪我を負い、リタイアしていた凄腕スタントマン、コルト・シーバーズが、元恋人ジョディの監督デビュー作『メタルストーム』のために復帰。しかし、コルトが長年スタントダブルを務めてきた人気スターである主演俳優トム・ライダーが、行方不明に。その行方を追うことになったコルトは、ヤバい事態に追い込まれていく。
次々と襲いかかる絶体絶命の状況で役に立つのが、スタントマンとしてのスキルの数々。
リーチ監督がスタントマン出身だけあって、『007/カジノ・ロワイヤル』('06)の7回を抜く、8回転半という回転数でギネス記録を達成したド派手なキャノンロールもさることながら、バトルにしてもドライビングテクニックにしても、随所に繰り出される技の数々が、「なるほどスタントマンって、リアルワールドでも最強かも!」と納得させるカッコよさ。
でも、本作を格別のものにしているのは、エミリー・ブラントが演じるジョディの存在。
撮影監督としてキャリアを重ね、遂に監督デビューのチャンスを掴んだ彼女が手がけるのは、人気スター主演のSF大作。
長編第2作にして『ドント・ウォーリー・ダーリン』(’22)を監督したオリビア・ワイルドという例もあるけれど、女性が監督デビュー作で超大作を任せられるという設定に、“現在”を感じずにいられません。
これは単に『フォールガイ』チームの意識の高さだけでなく、ハリウッド全体の意識の変化も反映しているはず。
(ちなみに、このSF大作『メタルストーム』の見せ方も、劇中映画とは思えないくらいお金かかってます)
そのジョディを、自立した女性の強さを体現した『オッペンハイマー』('23)の妻キティ役も印象的だったブラントが演じていることで、ポップなロマコメの魅力が溢れつつも、キャラクター像に人間的な深みが増すことに。
突然引退して自分の前から姿を消したコルトとの再会を素直に喜べないジョディと、彼女に再び受け入れてもらいたいコルト。
そんな二人の恋のやり取りが、『メタルストーム』の監督からスタントマンへのハードルの高い指示という体裁をとりながら、撮影スタッフやキャストらの面前で繰り広げられるシーンが、たまらなくキュートで愛おしい。
原案である80年代のドラマ『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』に、ロマコメ要素を加えた脚本は、大成功です。
そして、本作でも大きな売りの一つである、カーチェイスシーン。これも、スタントマンが主人公だからこその離れ業的なスタント連発に目を見張らせ続けさせるだけじゃなく、ラブストーリー要素をしっかり絡めているのがお見事。
コルトが繰り広げる超絶カーチェイスと、ジョディがラブソングを熱唱するカラオケシーンを交錯させて、アクション映画としてもラブストーリーとしても、観客にアドレナリンを湧き出させまくり。
夢の実現まであと一歩というジョディのために一肌脱ぐべく、愛を原動力に満身創痍で頑張るコルト。その愛に支えられて、夢の実現に向かうジョディ。
ただただ痛快なエンタメ大作としても素直に楽しませてくれつつ、愛すべき大人のキュートなラブストーリーとしても胸が熱くなる。なにより、監督になるという夢を叶えたジョディには、デヴィッド・リーチ監督自身の想いも託されている。これがまた胸アツじゃありませんか。
本作がギネス記録を塗り替えた『007/カジノ・ロワイヤル』もラブストーリーとしても人気が高い作品ですが、本作もまたラブストーリーとしてもイケてるアクション大作として、愛さずにいられません。作品のテイストも、主人公のタイプも全く違うとはいえ。
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『フォールガイ』
8月16日(金)より全国公開中
配給:東宝東和