チームSEAジャパンは見た! 東京パラ、木村潤平の世界への飽くなき挑戦
10月1日、東京パラリンピック期間中のお昼に開催されたYouTubeライブ「パラフォトLive」が復活した。「パラフォトLive 番外編 現地記者・ボランティアと振り返る世界への挑戦!」として行われ、パラフォトカメラマン、記者が見守るなか、東京パラリンピック日本代表、トライアスロン男子PTWCクラス(座位)6位の木村潤平と、チームSEA(Swim Exit Assistant)ジャパン・リーダーの陣川学士氏、メンバーで実際に木村選手を担当した下方純代氏らがオンラインで再会した。8月29日の試合から1ヶ月ぶりだった。
トライアスロンは、スイム・バイク・ランを順に行い速さを競う競技。木村潤平は2004年アテネパラリンピックから競泳選手として北京、ロンドンと3大会挑んだ後、トライアスロンを目指した。2016年リオ大会、そして東京とトライアスリートとして2度目の出場。5度目の大舞台への挑戦となった。
トランジッションを支える要、SEA(Swim Exit Assistant)
SEAは、トライアスロンにおいて下肢に障害のある選手のスイム終了後のサポートを担う、選手を抱え上げて運ぶ16名の専門チームである。日本のSEAは、国内外の選手からの評価が高く「世界で一番訓練されているチーム」と言われている。
リーダーの陣川氏は、2014年から本格化したワールドトライアスロンパラシリーズ横浜大会でSEAを担当、「キープ・スマイリング、ノー・ラッシュ(笑顔で急がずに)」をモットーに、安定した運び方にこだわり工夫と改良を重ねてきた。
メンバーの下方氏も2014年からのベテランで、東京のレースでは直接、木村潤平をサポートした。毎年木村の姿を見てきた下方氏は、東京大会でのがっしりした木村の上半身に着目し、「体づくり」と「世界と戦う戦略」がどんなだったか、木村に投げかけた。
「とにかく、食べ物に配慮しながらトレーニングしました。食事自体がトレーニングですよね、僕はお米が好きで、太るのは簡単ですけど、米は食べないで朝はオートミールだけ、昼プロテイン、夜は肉と野菜だけとかにして、日常的に意識して筋肉量を増やすようにして、10kg体重を増やした。そういう体重コントロールをして、東京にのぞみました」と木村。
「日本のSEAと海外のSEAの違い」について関心をもっていた陣川氏がつっこんで聞くと、木村は、「海外のSEAは体格や技術にばらつきがあるが、日本のSEAは驚くほど均一。誰が担当してもスムーズで違和感を感じない」と。さらに、下半身の麻痺のため体重が軽い木村は、戦略として「体格の良いSEAを試合前からよく見て選び、運ばれる間に海外選手を抜かすことも戦略にいれている」と手の内を明かしてくれた。
3位でスイムアップした木村だが、バイクでコーナーが多いコースを攻めた結果、ブロッキング違反をとられ10秒のペナルティが結果に響いた。「それも含め今の自分の実力」と受けとめ、「コーナーが上手くなりたい」と前を向く。
2014年から木村の挑戦を撮影する中村真人カメラマンは、リオ大会での木村のフィニッシュも撮影していた。当時の表情と、今回、東京大会で秋冨哲生カメラマンが撮影したフィニッシュの木村の写真を比べて「納得のいくレースをされたんだろうと拝見し、嬉しかった」と。結果は1時間4分50秒でフィニッシュ、初出場のリオ(10位)から6位入賞と大きく前進した。
ライバル選手とのつきあい
毎年5〜6戦を戦うトライアスロンで選手同士の交流はあるのだろうか? それは、クラスごとで雰囲気が異なるようだ。「PTWC(座位)クラスは、一匹狼が多い。挨拶はするけど、PT4(立位)の宇田選手たちのような楽しそうな交流っていうのはないかなぁ」という。
木村が目標としている選手は、イェツェ・プラト(オランダ)だ。「誰もが認めるスーパースター」である。リオ大会から優勝を繰り返し、横浜でも毎年戦い、東京大会では自転車競技にも出場して金メダルを獲得している。「すごい相手だ」と、木村は話す。コロナ禍で5年となった練習期間中も、プラトのインスタでの練習自慢が木村に刺激を与えていたようだ。
練習へのこだわり
木村「僕って、特に秀でたところないんです。フィジカル特別強くもなく、ちょっとスポーツが得意なくらいで平凡。ただ、コツコツやる能力はある。そこは、唯一こだわっています。だから、僕より練習している人がいると困っちゃいますよね(笑)。プラト選手とか、練習しなくても勝てるんじゃないか? ってくらい強いんだから、どうか、バカンスとかで遊んでいてほしいってね(笑)」
木村「でも、インスタのシェアとかで、彼(=イェツェ・プラト)の練習内容見てると、やっぱり半端なく練習しているんですよね。コロナ禍で、練習しづらくなっていた時、アスリートたちがインスタで練習公開していた時あったでしょう? プラトもアップしていて、僕も見ていましたけど、誰もが限られた練習環境のなか、例えばスイムする場所がないとか、外行っちゃいけないとか。そういうなかで、俺はこんなふうに練習してるぜ! とかアップしてくれて、それは励みになった。今回は、ああいったアスリートの練習情報の発信で、交流というか、お互い高めあえたところがあったと思います」
車いすレーサーで競技環境づくり
木村「僕自身は、選手としてチャレンジを続けていくことが重要。ただ、僕のクラス、トライアスロンの中でも車いすレーサー使用って一般の大会にはまだまだ出れないんです。(出場に)制限があって。これから、そういうところに僕が出て、(車いすでも)出れるよってことを証明し、環境づくりをやりたい。一般の大会と交渉して、せっかく東京パラがあって、土台ができつつあるところなので、いろんな障害のある選手が出ていける機会をつくりたい。一般の大会で、僕が一般のトライアスリートに負けないパフォーマンスで泳いで、走っていく姿を印象づけたい。そのために、ロング(ディスタンス)をやったり、その先に、また次のパラがあるのかもしれない」
「アイアンマン(トライアスロンの元祖。究極の長距離だが、常に障害者も含め多くの市民アスリートも挑戦する)へは?」と、自身もトライアスリートの中村真人カメラマンが聞くと、木村は、「出たい、ただ、出るからには練習して、ある程度の結果を出したい!」と、思わず負けず嫌いの本音をのぞかせた。
共生社会への願い
木村はベテランらしくつぎのようにも話した。「パラリンピックを見てもらうことによって、こういう障害があってもスポーツできるのか、と気づいてもらえた。東京パラ開催で広がったけど、どこでできるのか、どうやって? というのはまだわからない。そのあたりを具体的に解決していかなければならない。ボランティア、SEAの皆さんに関わっていただいて、スポーツの裾野を広げたい。障害者だけじゃなく、他にも、スポーツやりたい高齢の人とかに波及できるようにしたい。東京で終わらずに、これからも力を貸していただきたい」
陣川氏も木村の言葉をうけて、「我々SEAは、審判員がきっかけでなったんですけれど、パラの選手が出るチャンスが増えていくことが大事。わたしたちのようなSEAメンバーが全国に増えることが大事だと思います。各地のトライアスロン連合でSEAの練習会を大会ごとにやって、地域ごとに練習の機会を作ることが大事。実際にレースでサポートして、経験を積んでいきたい。そうすれば、選手も増やしていけるでしょう」と話していた。
佐々木(記者・パラフォト代表)「SEAの前向き、研究熱心さ、そういう気持ちで選手に接していたんだということがわかり勉強になりました。東京が終わって1ヶ月、これからどうしていくのかがより大切」
久下(記者・MC)「皆さん、今日はありがとうございました! 楽しかったです」
(このZoom懇談会は、東京パラリンピック・フィールドキャストで参加した石野恵子の呼びかけ、久下真以子がMCを務めた。協力・PARAPHOTO/秋冨哲生、中村真人、鈴木賀津彦、森田和彦 この記事は、2021年10月5日にPARAPHOTO に掲載されたものです。)