「昆虫食」の給食利用における課題 国の昆虫食の拙速な推進への疑問
日本初となった昆虫食の学校給食への利用が話題となっている。世界人口のピークと推計される2050年の食料危機問題への対策を名目とし、国は昆虫食を含むフードテックを急速に推進させている。フードテックは、生産から加工、流通、消費へとつながる食分野の新しい技術を活用したビジネスモデルを指す。国は人口増加に対応する食料供給や環境保護等の社会的課題の解決につながる新たなビジネスとしてビジョン案とロードマップ案を作成しており、政策としては途上の段階にある。
昆虫食は、国と民間双方における期待があり、フードテック官民協議会の中で昆虫ビジネス研究開発ワーキングチーム(以下WT)が設立されている。同WTは、昆虫ビジネス発展に向けて、持続可能な昆虫ビジネスの実現への課題とその解決策を検討し、「昆虫利用に対する社会受容性、理解度を高める情報発信と昆虫利用に係わるルール作りを行う(※1)」としている。
同WTの事務局は、昆虫ビジネス研究開発プラットフォーム(大阪府立環境農林水産総合研究所)が担当し、今年7月にコオロギの生産ガイドラインが公表されている。しかしそのガイドラインはいまだ生産に特化したものであり、その利活用についての方向性は定まっていない様に見える。その中での給食の利用は慎重に行うべきだったのではないだろうか。学校教育関係者それも生徒を関わらせるのであれば、配慮が必要ではなかったか、というのが率直な感想だ。同様の問題としてゲノム編集トマト苗の福祉施設・学校への配布問題がある。国や関係者は新技術の普及に対して、きっちりとした段階と合意の手続きを経て進めるべきではないだろうか?
昆虫食やフードテックは本当に食料問題を解決するのか
実際、日本初の昆虫食の給食利用に対しては識者からアレルギーの心配などの声が出ている。昆虫と同じ節足動物の甲殻類が食物アレルギーの一つの原因となってきたからだ。海外でも昆虫食のアレルギーが起こりうるという研究結果も出ている。
また欧米における昆虫食の利用は、大量に生産し養殖した場合にはまだ課題が多いという指摘が根強い。そこでは誤放出という誤って生産工場から自然界に出た場合の地域の生物多様性への影響や生産に適した種、住居や飼料の要件など生産に関する情報が決定的に不足しており、その環境的利点は研究結果から不明とされている。
また昆虫食やフードテック推進で繰り返される食料不安や環境保護の観点についても欧米では大きな議論がある。食料不安については、例えば現在は世界人口を養う十分な食料生産がされており、十分な生産量があっても食の消費の格差があるため平等に食料が行き届かないという食消費の不平等の問題があるとされる。
後者の環境保護については、気候変動の視点から課題とされる畜産は糞尿を通じて循環に役立つと評価されている。前者の食料格差については、フードテックでは問題解決にならない、また後者の循環機能についてもその代替にはならない。
フードテックの課題は、解決主義にあると指摘されている。つまり気候や環境問題を解決するという美辞麗句の裏でその導入における検証が十分にされずに推進されていくという課題である。私たちはその利活用や進捗を国内外の視点から注視していく必要があると言えるのである。
(引用・参考文献)
(※1)フードテック官民協議会事務局「フードテック官民協議会2022年度第2回総会/提案・報告会」資料、2022年10月25日
Geoffrey Taylor, Nanxi Wang (2018)“Entomophagy and allergies: a study of the prevalence of entomophagy and related allergies in a population living in North-Eastern Thailand” Bioscience Horizons: The International Journal of Student Research, Volume 11, 2018, hzy003
Matan Shelomi(2015)“Why we still don't eat insects: Assessing entomophagy promotion through a diffusion of innovations framework“/Trends in Food Science & Technology 45 (2015) 311-318
小田志保「欧米で進む昆虫食の産業化」『調査と情報』79号、農中総研、2020年7月