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抗生物質と皮膚トラブル:知っておくべき副作用のリスクと対策

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【抗生物質による重度の皮膚副作用とは】

抗生物質は私たちの生活に欠かせない薬ですが、時に重大な副作用を引き起こすことがあります。特に注意が必要なのが、重度の皮膚副作用、いわゆる薬疹とよばれるものです。

重度の皮膚副作用(cADRs)は、薬剤性過敏症反応の一種で、皮膚だけでなく内臓にも影響を及ぼす可能性がある深刻な症状です。代表的なものに、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)があります。

これらの症状は、抗生物質の服用後に発症することがあり、高齢者ではより注意が必要です。なぜなら、高齢者は若い世代と比べて抗生物質を処方される機会が多く、また複数の薬を併用していることも多いからです。

【抗生物質の種類による皮膚副作用リスクの違い】

カナダで行われた大規模な研究によると、抗生物質の種類によって重度の皮膚副作用のリスクが異なることがわかりました。

この研究では、66歳以上の高齢者を対象に、20年間にわたって抗生物質使用後の皮膚副作用による救急外来受診や入院を調査しました。

結果、以下の順でリスクが高いことが判明しました:

1. スルホンアミド系抗生物質

2. セファロスポリン系抗生物質

3. ニトロフラントイン

4. ペニシリン系抗生物質

5. フルオロキノロン系抗生物質

特にスルホンアミド系とセファロスポリン系抗生物質は、マクロライド系抗生物質と比較して約3倍のリスクがあることがわかりました。

日本でも同様の傾向が見られる可能性があります。ただし、日本人特有の遺伝的要因や生活環境の違いにより、リスクの程度が異なる可能性もあるため、日本での研究も必要でしょう。

【安全な抗生物質使用のための対策】

この研究結果を踏まえ、私たちはどのように抗生物質を安全に使用すればよいのでしょうか。

1. 医師との相談:抗生物質を処方される際は、皮膚副作用のリスクについて医師に相談しましょう。特に高齢者や過去に薬剤アレルギーの経験がある方は、より慎重な対応が必要です。

2. 症状の観察:抗生物質を服用中は、皮膚の変化に注意を払いましょう。発疹や痒み、発熱などの症状が現れたら、すぐに医師に相談してください。

3. 適切な抗生物質の選択:医師は、患者の状態や感染症の種類に応じて、できるだけリスクの低い抗生物質を選択するよう心がけます。

4. 不要な抗生物質使用を避ける:ウイルス性感染症など、抗生物質が効かない病気に対しては使用を控えましょう。

抗生物質は適切に使用すれば非常に有効な薬ですが、その副作用リスクを軽視してはいけません。特に高齢者の方々は、抗生物質の処方を受ける際に、皮膚副作用のリスクについて医師とよく相談することをおすすめします。また、医療従事者も、患者の状態を十分に考慮し、可能な限りリスクの低い抗生物質を選択するよう心がけるべきです。

この研究結果は、抗生物質の安全な使用に向けた重要な一歩となりますが、日本人を対象とした同様の研究も必要です。それにより、日本人特有のリスク因子や安全な使用法がより明確になるでしょう。

私たち一人ひとりが抗生物質の適切な使用について理解を深め、医療従事者と患者が協力して、より安全な治療を目指していくことが大切です。

参考文献:

Lee EY, et al. Oral Antibiotics and Risk of Serious Cutaneous Adverse Drug Reactions. JAMA. doi:10.1001/jama.2024.11437

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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