Yahoo!ニュース

「なでしこのReスタート」。3人のスペシャルゲストが語る、日本女子サッカーの今までとこれから(後編)

松原渓スポーツジャーナリスト
参加者からの質問に答える澤穂希さんと高倉麻子監督(写真:朝日新聞社提供)

9月28日に都内で「and Sports.気ままにトークセッション」(朝日新聞社主催)が開催された。

「なでしこのReスタート」というテーマで、3人のスペシャルゲストを迎えたトークセッションの一部を、朝日新聞社の許可を得て一部掲載する。

登壇者はJFA(日本サッカー協会)女子委員長の今井純子さん、なでしこジャパンを率いる高倉麻子監督、20年以上にわたってなでしこジャパンの中心で活躍した澤穂希さんの3人。

前編はこちら

後編では、ゲストと参加者による質疑応答の一部をお伝えする。

会場には日頃から女子サッカーを応援しているサポーターをはじめ、大学で部活のマネージャーをしているという女性や、指導者をしている方などが参加し、質疑応答では次々に手が挙がった。

今井委員長への質問

ーー中学生年代の(登録選手数が減少してしまう)問題で、今、具体的に検討されている対策は、何かありますか?

今井委員長「今まで、普及面ではいろいろなプログラムを日本協会から(各地域に)提示していたんですけれども、やはりそれぞれの地元の状況や持っている資源に合わせて、一つ一つ繋げて形にしていくことが大事だなと思いましたので、今年から来年にかけて、47都道府県の中に『普及コーディネーター』を置いて、その人たちとJFAが連携を取る形で、チームを増やしたり、指導者と現場をつなげることを考えています。もう一つはやはり、目標となる試合が(あることが)非常に大事だと思いますので、どんな年代のどんなレベルの人たちにも、自分たちが頑張って目指そうと思えるような大会をバランス良く配置していくことは非常に大事だと考えて取り組んでいます。」

ーー先ほど、組織と個という言葉が出てきましたが、フィジカルの部分で逃げていたら浮上はできないと思います。日本人ならではのフィジカルの高め方があると思いますが、それを強化するための取り組みを教えてください。

今井委員長「今のご質問は、女子だけでなく、男子サッカーとも共通することだと思います。他の国のやり方をコピーするのではなく、日本は日本の強みで戦っていきたいという考え方を持っています。1つは、体格も含めて、運動能力の面では、プレーする選手の人数が増えて層が厚くなればなるほど、そういったところで秀でた選手も増えると思っています。もう一つは、フィジカル要素というのはいろいろあって。日本人の選手に優れた面、たとえば持久力であったりアジリティーであったり。そういった、日本人のフィジカルの強みがあると思いますので、そこを高めていったり、うまく活用したいと考えています。リーグとの関わりで言うと、やはり、フィジカル要素はすごく大事だと認識していますので、代表のフィジカルコーチと相談して、なでしこリーグの日常に少しでも共有できるように、担当者で集まって研修をしたり、私達(JFA)がトレーニングの現場を訪問して情報共有をしようと準備しています。」

高倉監督への質問

ーー中学生の女の子を(指導者として)教えていて、個性の強い選手をできるだけチームに生かしたいと思っていますが、なかなかうまくいきません。今までに失敗談やどう対応してきたかというお話があれば、ぜひ聞かせてください。

高倉監督「いっぱい失敗しているので忘れてしまいました(笑)たしかに多感な年頃だと思いますし、すねたり泣いたり、かと思ったら急に怒ったり、今日は気分が乗らない、機嫌が悪い、ということもありますよね。大変だと思いますが、それに負けないように、自分も笑ったり怒ったりっていう、人間同士の付き合いだと思うので。自分が監督だからということではなく、同じ人間、同じ女性の先輩として、思ったように選手にまっすぐ接していけば良いのかなと私は思って、頭にきたらきつく言う時もあります。私のやり方ですけれど、嘘をつかないでまっすぐ接していたら良いのかな、と思います。」

ーー就任してから幅広く、なでしこリーグ2部の選手も積極的に招集していますが、選手を招集する上で一番大事にしている基準を教えてください。

高倉監督「やはり、日本のサッカーをやっていく上で、ベースにテクニックがあることは外せないと思っています。その上で、心・技・体のどの要素においても、何か光るものを持っている選手を見ています。たとえば心だったら、この試合にかける思いがものすごく強いということが見える選手とか、テクニックでも、相手をしっかり見てコントロールできたり、キックがいいな、という選手や、フィジカル的にとっても強いものがある、そういうことを注意して見るようにしています。もちろん、トップリーグ(1部)と2部とチャレンジリーグ(3部にあたる)でやっている試合の内容は違いますので、2部で光っていても、1部の選手とやると、少し力が足りないこともあります。逆に、上に入れてみたら、もっと良いものが出てくることもあるんです。そういったものは、同じ土俵に上げないと分からないんですよ。それは選手の未知数な部分でもありますし、私自身のチャレンジでもあります。長く育成にも関わっていたので、すごく伸びている選手もなるべく呼ぶようにして、限られた時間の中で積極的なトライをしたいなと思っています。」

ーー海外でプレーするということについてどう考えていますか?

高倉監督「海外に行くことによって、人間的に成長できる部分はあると思います。ただ、昔は武者修行で海外に行く、という考えがあったと思いますけれども、今、日本のサッカーはちょっとスタイルが違って、世界の中でも確立したものがあると思うんです。海外で、当たりの強さとかメンタル的な強さは身につくと思うんですけれど、逆に、(日本とは)サッカーのスタイルが違って、ボールが蹴り込まれるサッカーで自分のところにボールが来ないことがある。その中でテクニックや状況判断が上がらなければ、それはもったいないな、と。ですから、行く時期も含めて、行った方が良い選手、国内でもうちょっと磨かれた方が良い選手もいると思っています。海外に行ってみたいという選手は数多くいるので、周りにいる監督やコーチを含めて話をして、行ったことによって失敗してしまうということが起きないように注意しながら、選手の背中を押してあげたいですね。」

ーーワールドカップやオリンピックに向けて、メンバーをいつ頃までに絞り込むのか、大体の目安を教えてください。

高倉監督「今は新しくいろんな選手に扉を開けて、いろんな選手を試している段階ですが、どこかで線引きをして、チーム作りを本格的にやっていく時には、中心選手は絞っていかなければいけないとは思っています。それが具体的にいつか、というと・・・今ははっきりとはお答えできないですね。ただ、2019年のフランスワールドカップの予選がまず18年にありますので、その時ぐらいまでには選手は絞られてくると思いますし、急激に伸びてくる選手もトライを重ねて組み込んでいきたいと考えています。今はもちろんベテランの選手にも扉を開けているつもりですし、とにかく選手には競争をしてもらいたいと言っています。グラウンドで、練習で、リーグで結果を出し続ける選手にチャンスを与えて、ゲームを重ねながら選手を絞っていきたいと考えています。」

澤穂希さんへの質問

ーー大学で部活のマネージャーをしています。澤さんは日本代表で長くキャプテンをされていましたが、コミュニケーションを円滑に進める上で、まずどうやって信頼関係を築くように意識しましたか?

澤さん「全員に好かれようと思っても、たぶん無理なことだと思っています。上からああだ、こうだっていうことはなくて、その選手が今どういう思いでやっているのかな?って聞くことが大切で。喧嘩になってもいいし、泣くことがあってもいいと思うんですけれど、そういうところの殻を破っていかないと、本当の信頼関係って作れないと思うんですよね。だから、相手に嫌われちゃうから言えない、とかじゃなくて、その人のことを分かりたいと思ったら自分が思っていることを、自分の殻を捨てて話す、ということはやってきたつもりです。良いことも悪いことも含めて何でも話し合う、それが一番、うまくコミュニケーションが取れた方法ですね。」

ーー海外でプレーするということについてどう考えていますか?

澤さん「私も20歳の時にアメリカに一人で行きました。その時はお給料も出なかったので自分のお金で行って、もちろん通訳もいなかったので、言葉も勉強しないと人とコミュニケーションが取れなかったんです。今まで両親やいろんな人に支えられて助けてもらったことをすべて、自分で英語でやらなければいけないという意味では、とにかくメンタルが強くなりましたね。プレーの面でもアメリカは身体能力も高いですし、そういう場所で毎日トレーニングできたことは本当に自分のサッカー人生の中で良い経験だったなと。だからと言って、すぐに海外に行った方が良いということではなくて、日本である程度経験を積んでから海外に行く方がいいのではないかな、とは思います。でも、海外に行きたいと興味を持っている選手に対しては、いろんなことを経験して、一回りもふた回りも大きく成長して帰ってきて、経験したことをたくさんの選手に伝えていってほしいですね」

(朝日新聞デジタルによるイベントページはこちら

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

松原渓の最近の記事