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さあ、日本選手権。社会人野球・監督たちの野球哲学/7 日本新薬・吹石徳一

楊順行スポーツライター
開催地・京セラドーム。日本新薬は7日の第1試合で新日鐵住金鹿島と対戦(ペイレスイメージズ/アフロ)

○…吹石さんといえば近鉄時代の"江夏の21球"や"10・19"の当事者でいらっしゃいました。1979年、勝ったほうが優勝の広島との日本シリーズ第7戦は9回裏、1点を追う近鉄が、無死満塁のチャンスから後続なく敗退。打者・石渡茂のスクイズが外されたとき、吹石さんは代走で出た二塁走者でした。88年10月19日、連勝すれば逆転優勝のロッテとのダブルヘッダー第1試合は逆転勝ちし、シーズン最終試合の第2試合は、吹石さんのホームランなどで一時リードした近鉄ですが、結局負けはしなかったものの引き分け。優勝を逃した劇的な2試合の当事者でいらした……。

「ええ、ですから"9回が終わるまで、ゲームセットになるまで、なにが起こるかわからんのが野球"というのが私の考えです。79年は、1点差のノーアウト満塁。最悪、同点やと思いますよね。88年は、負けて優勝を逃すのならまだ納得もしますけど、引き分けやからね。そしてその翌年は、やっと近鉄がリーグ優勝してシリーズも3連勝したと思ったら、そこから巨人に4連敗とかね。野球はむずかしい。勝つむずかしさは、イヤっちゅうほど知っています(笑)。だからおもしろいんだけど」

野球の神様はほうびをくれる

○…引退後はプロでコーチやスカウトを経て、2013年からは古巣・日本新薬のアドバイザーやコーチ、そして今季から古巣の新監督です。。

「野球がむずかしいのは、とくにアマチュア。プロなら年間100何十試合ありますが、社会人は負けたら終わりやからね。1球ジャッグルした、バントを1回失敗した、それだけで全員の1年間が終わってしまうんです。ただ、野球の神様は必ず上から見ている、とも思いますね。努力がすべて報われるわけではありませんが、努力しない人にごほうびはありません。素質はないけど努力する人なら、とてつもなく素質があるのに努力しない人と同じ水準までは到達できると思いますよ。

 私自身も、社会人時代は3年間で都市対抗に1回、補強選手で出ただけ。しかも、出たとはいえ守備だけで、打席には立っていません。ですが、会社には"成功せえへん"と反対されながら、"プロに行きたい"という気持ちで人一倍練習しました。だからこそ、都市対抗の打席に一度も立っていない人間が、プロで14年間も現役を続けられたと思うんです」

※ふきいし・とくいち/1953.4.2生まれ/和歌山県出身/南部高→日本新薬→近鉄など→日本新薬

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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