70代生保レディに言われるまま…被害は1000万円超 悪質な勧誘手口とは ひょっとしてあなたも?
保険の契約は複雑でわからないことが多いものです。それゆえに、営業社員にすべてお任せしてしまってはいないでしょうか。
しかも、長年、付き合いのある人だから安心と思って「はい」「はい」と、契約書をほとんど見ずに、ハンコやサインを次々にしていたとすれば、すでにあなたは被害に遭っているかもしれません。
25件以上の過剰契約、そして銀行での現金手渡し
「89歳の第一生命保険会社の生保レディが、19億円を詐取した疑いがあると、2020年に大きく報道されました。私はそれを見て心配になり、長年、担当してくれていた女性の営業担当に『うちは大丈夫ですよね』と聞いたことがありす。その時、彼女は『私もこんなことをするなんて、びっくりしました。私は大丈夫ですよ。安心してください』と言われました。しかしそれは真っ赤な嘘でした」と被害を訴える女性は憤りながら話をされます。
70代の生保レディの佐藤(仮名)と知り合ったのは、今から20年ほど前にさかのぼります。
「長年、彼女は母親の保険契約の担当者でしたので、紹介されて、家に来てもらい、手続きをしてもらうことになりました。長く母の担当だったということもあり、契約内容はよくわかりませんでしたが、信用しきっていました。テーブルにはたくさんの書類を並べられて、ほとんど説明がないままに『ここにハンコを押して』とか『ここにサインをして下さい』など、佐藤の話す通りの契約をしていました」
ところが、それらの書類には、彼女が同意した覚えのないものが多数、紛れ込んでいました。その結果、25件以上もの契約をさせられていました。それ以上に深刻なのは「こちらで契約の手続きをしておくから」と言われて、銀行で引き落としたお金をその場で佐藤に手渡したこともあり、これについては詐取されている可能性もあるといいます。その額は1000万円を超える金額になっています。
佐藤が使った手口は、どのようなものだったのでしょうか?
それは「契約者貸付」を利用した手口です。
もしかすると、「契約者貸付」と聞くと、すでに「それなに?」となって、思考が停止した方がいるかもしれませんが、それ自体、危険な兆候かもしれません。簡単にいえば、これはお金を保険契約者が借りる仕組みです。つまり、現在契約している保険契約を解約した時に払い戻されるお金(解約返戻金)を担保にして、解約返戻金の一定の範囲内で保険会社からお金を借りることになります。
勝手に代筆された「契約者貸付に関する請求書」が多数
「私の家に、契約者貸付に関するハガキがよく家に届くので、生保レディの佐藤に『これはいったい何ですか?』と尋ねますが、『あなたのために組み立てていることなので、何も心配しないで』とだけ言われていました。ですが、先の第一生命保険の事件もあり心配をしていました。そんななかで、昨年末に佐藤の上司から『コロナ禍なので営業職員の訪問を控えています。何かお困りの事はありませんか?』との電話があったので、以前から、心に引っ掛かっていた契約者貸付について尋ねてみました。それをきっかけに、保険会社の調査となりました」
彼女は、保険会社から受け取ったという多数の「契約者貸付に関する請求書」をカバンから取り出しました。
「私はこんな契約者貸付を依頼した覚えがないのです。佐藤にただ手続きだからと言われて、いろんな申込書などにサインや押印をしました。そのなかにこれがあったのです」
その数は、20枚以上になります。
本人に十分な説明がないままに、契約者貸付に申込書の記入やハンコを押させていたことも問題なのですが、ここには、彼女以外の人物が書いたものがあるといいます。
「数えると、10枚以上の私以外の筆跡のものあります」
つまり、本人の同意を取らずに、社内で契約している保険を担保に勝手に金を借りる手続きをとっていたのです。
代筆されたと思われる書類に、彼女の実印が押されたものもありました。
「おそらく、沢山の書類をテーブルに並べて、こうした書類をしのばせて、ハンコをおさせていたのでしょうね」
契約者貸付で入金されたお金には2つの流れがあった
被害女性と保険会社からの振り込み及び、彼女の銀行口座への入出金状況を見比べてみました。
すると、2つの流れがあることが分かりました。
1つは、契約者貸付により被害女性の口座に入ったお金を、その後、本人が契約している別な保険への支払いに回しています。
生保レディの佐藤は、自分の保険契約の営業実績をあげるために、被害女性から十分な同意を取り付けないままに、25件以上の数多くの契約をさせていましたが、その際、その不正行為が発覚しないようにするため、契約者貸付で払われたお金を別な保険の代金にあてて、自転車操業のようにお金を回していたのではないかと考えています。
ある年に、保険契約を担保にした約100万円の契約者貸付がなされて、彼女の口座に入金があります。その数日後にお金を引き出し、後日、払い込み用紙にて、ほぼ同額の入金が保険会社にあります。
その翌年には150万円以上の契約者貸付が彼女の口座に入金され、一週間後に出金されて、何度か振り込みがあり、ほぼ同額が被害女性の保険契約への支払いに充てられています。
その後も、こうしたことが繰り返されて、全部で25件以上の過剰な保険契約がなされていたとみています。
もう一つの流れは、現金手渡し、振り込み
しかし、もう1つのお金の流れがありました。
同年の春に100万円以上の貸付金が彼女のもとにあり、お金は2回にわたって引き出していますが、このお金は保険契約の支払いにはあてられてはいません。
この点について、「銀行には必ず、佐藤がつきそいます。振り込みを指示する時もありますが、『私が手続きをしておく』と言う時もあり、直接渡したことも多くあります。おそらくはそのお金を佐藤に渡したものの保険には充当されなかったということかもしれません」と彼女は話します。
さらにその翌年にも、何度も契約者貸付がなされて、合計で150万円が彼女の口座に入金されています。しかしこれらは保険の代金に支払われた形跡はなく、それどころか、そのうち100万円が佐藤の個人口座に振り込まれています。
「この時は、私と佐藤の予定が合わないので、彼女が『自分の口座に振り込んでくれれば、手続きをする』と言われて、佐藤の口座に振り込みました」
同じ年には、150万円ほどの契約者貸付がされています。そのうち50万円が引き出されて、同額に近いお金が佐藤の口座への振り込みになっています。
この後も、お金が入ると、お金の振り込みや引き出しが続きます。彼女が今、手元に持つ資料から計算すると、2020年までの期間で、佐藤に振り込みや手渡しをして、保険代金には当てられず、不明になっている金額は1000万円を超えています。
もちろん、彼女自身が出金した可能性もないとはいえません。
ですが、彼女は契約者貸付に同意した覚えはないうえに、保険会社からの振り込みを知っていたのは、佐藤のみです。しかも、彼女の口座に入金されたタイミングで「保険の契約手続きに必要だから」と、ほぼ毎回のように、佐藤はお金の引き出しに同行していますので、彼女自身の意思での引き出しの可能性は低いと考えています。
しかも、保険会社への入金はないとすれば、佐藤自身が個人的に詐取した可能性が出てくるわけです。
他にも彼女の口座からの高額な引き出しはありますが、あくまでも、保険会社からの振り込み直後に行われた、疑わしい引き出しにのみフォーカスしてみてみました。1000万円以上の金額に加えて、長年にわたる25件以上の過剰契約を含めれば、被害は甚大になります。
「どうやら、佐藤は同社では長年、優秀な営業成績をおさめた社員だったようですので、私と同じのような被害を受けている人たちは多くいるのではないかと心配しています」
これが事実とすれば、第一生命保険会社の89歳の生保レディに続き、年齢は10歳下がりますが、佐藤による被害金額は大きな金額に上る恐れすらも出てきます。
もう一度、保険契約をさかのぼって見返して
過去に営業担当に付き添われて、銀行から引き出したお金を渡した覚えのある方、また契約者貸付の書類を知らぬ間に代筆されていないかなどの再確認をお願いします。
「すでに、佐藤は他の顧客への過剰契約の問題が発覚して、退職したと聞いています」
彼女によると、今回の件に関しては、いまだ保険会社は公表しておらず、刑事告訴などの話も聞いていないといいます。
おそらくいまだ、調査中だと思われますが、今、保険会社の不祥事が次々に明らかになっている状況ですので、しっかりとした調査結果の公表を彼女は望んでいます。
「私自身、数字に弱くて…。つい、誰かに任せてしまいます。そうしたところに付け込まれたように思います。私と同じような被害に遭った他の方と話すと、同じことを言っていました」と、彼女は振り返ります。
保険契約は確かにわかりづらいものです。そこで「あなた(営業社員)にお任せ」になると思います。しかしすべての営業社員が善良ではなく、なかにはそこにつけ入って騙しの行為を行おうとするもいることを知って、身を守る必要があります。