まるで映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアン?バナナとコーヒーで走るスウェーデンのバス
1985年に公開された映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。その中に、ごみで走る車が登場していた。名前はデロリアン。
当時は夢物語だったが、これが実現に近づいた。2015年10月21日には、日本環境設計株式会社が開発した、衣料品からバイオエタノールを作る技術を使い、ごみ燃料で走る車が登場したのだ。
これは衣料品のリサイクルを利用した車だったが、スウェーデンのマルメ市には、食料廃棄物、すなわち、食べられない部分をリサイクルし、エネルギーにして走るバスがあるという。
スウェーデンのマルメ市は、スウェーデン南部。デンマークのコペンハーゲンから電車に乗り、短時間で着くことができる。
マルメ市は、2020年までに、市営の組織で使われるエネルギーを、100%、再生可能エネルギーに転換することを目指している。2019年、女性誌の『FRaU』(フラウ)でも「食の意識が高い街、マルメ」として紹介された。
マルメ市の出身だという、株式会社ワンプラネット・カフェ取締役のペオ・エクベリさんに、マルメ市を案内していただいた。
マルメはスウェーデン第三の街「小さなニューヨーク」
ペオ・エクベリさん(ペオ):マルメは人口32万人ぐらいの町で、3番目に大きな町です。
―スウェーデンで?
ペオ:はい。私の出身地です。大好きな町。
ペオ:人口の3分の1は外国人。「小さなニューヨーク」と呼ばれています。いろんな国籍の人々がいます。学校には100カ国から来た子どもたちがいて、非常に面白いんです。
ペオ:1970年代にオイルショックがあり、その時、スウェーデンが大きな決断をしました。「将来、同じようなオイルショックが起こる可能性があるから、石油に頼り過ぎないため、石油から離れて再生可能エネルギーを使う方にいきましょう」と決めました。
―早いですね!
ペオ:風力やソーラー(太陽熱)やバイオガスなど、それまで一切使っていなかったのに、そう決めました。
逆に、日本とアメリカは同じような決断をしましたよね?「将来、同じようなオイルショックが起こるかもしれないから、いっぱい石油を集めよう」。逆ですね。そこで(スウェーデンとの)別れ道ができていたんですね。
1980年、世界初の原発を閉鎖するか閉鎖しないかの国民投票がスウェーデンでありました。私も小学生の頃、先生と学校で議論しました。結論としては「寿命まで使い続けて、後は切り替えましょう」ということになりました。その結果、国内12基のうち、マルメにある2基は、既に閉鎖されました。「化石燃料の町から再生可能な町へ切り替えましょう」という新しいビジョンが作られ、世界のサスティナビリティ(持続可能性)のリーダー、sustainable leader city(サステナブル・リーダー・シティ)になろうと、市が決めたんです。
―世界全体で見ても、そのトップを走ってきたんですね。
ペオ:トップには、まだなってないかもしれないけれども、目指しています。
この町には、かつて、貨物船やフェリーを造る造船産業がありました。私が小さな頃は、町のシンボルだった。どこへ行ってもクレーンを見ることができた。でも、韓国や日本との競争で負けて閉鎖されたんです。働いていた6,000人のマルメ人が泣きました。
でも、産業の町からサスティナビリティの町に切り替える決断をしました。たとえば、車より、公共交通機関を選ぶなど。ヨーロッパ初のカーボンニュートラル、CO2ゼロのエネルギーの町になったんです。この高い建物「ターニング・トルソ」は、マルメの新しいシンボルになりました。住宅のエネルギーも、風力で賄います。この町の全ての電力エネルギーは100%再生可能エネルギーで、しかも、遠くから運んでくるのではなく、その場でつくる。風車からも賄うし、海水も取り入れて冷暖房する。本当に素晴らしい、持続可能な町です。
―スウェーデン全体ではどうですか?
ペオ:今、全国で行っています。ストックホルムでも2~3カ所で既に行っているし、全国では2001年から。まだ道半ば。数十年間のプロジェクトです。
―マルメだけではなく、ストックホルムや他のスウェーデンの都市でも同じようにやっているということですね?
ペオ:そう。昔からの200年前、300年前の町がまだ残っているので、それを壊さずに、リフォームしながら町をつくっています。
2020年までにマルメ市営の組織は100%再生可能エネルギーに転換
ペオさんによれば、マルメ市は、2020年までに市営の組織で使うエネルギーを100%再生可能エネルギーにする目標を立てているという。
ペオ:2020年までにマルメ市の市営のもの、病院とか学校とか全てが、来年には100%再生可能エネルギーにしないといけないんです。
―これは法律?それとも条例ですか?
ペオ:マルメ市が出しているオフィシャルな目標です。学校など、市営のもの全て。そして、2025年までには、市営だけでなく、マルメの町全体が「100%再生可能エネルギー」にならないといけない。ホテルなども含めて。
今打ち合わせをしているこのホテルは、既に、風力やバイオマスなど、100%再生可能エネルギーです。
そしてマルメの学校給食の全てを、2020年までにオーガニック(有機栽培)のものにしないといけない。子どもたちの安全・安心のためだけではなくて、農家や自然の安心・安全のためでもあります。
ペオ:日本では自分の安心・安全だけを言うけど、スウェーデンでは、包括的でホリスティックで地球全体の安全・安心を言います。スウェーデン人は、すごく、それを考えているんです。いつも考えている。短期的じゃなくて長期的。
―それは、さっきの石油ショックから始まっているのではなくて、もっと前?
ペオ:ビジョンづくりはそこ(石油ショック)から始まりました。「どんな世界が欲しいか」というバックキャスト。
―バックキャスティングですね。
ペオ:Yes。
ペオ:風力で走る電車で橋を渡ったでしょう?
ペオ:あの橋の建材の一部は、スウェーデン人が分別した缶詰の缶です。必死に分別して集めた缶詰をリサイクルして作った橋。
マルメは、犯罪は他の町よりちょっと多いけど、できるだけ人間に優しい町づくりをしています。スウェーデン人にとっての目標はすごく大事。目標やビジョンを作るのはうまいんです。
飲むコーヒーに使われる豆はコーヒー豆全体のたった2%、残りの98%はコーヒーかす
ペオさんいわく、普段飲んでいるコーヒーのうち、その豆のたった2%しか、抽出液には出ていないとのこと。
ペオ:食品ロスは、スウェーデンでは包括的に考えて2つあります。食品ウェイスト(食品廃棄物:不可食部)と食品ロス(可食部)。この2つは扱い方も違います。でも、使う目的は同じで「環境循環」を達成するためです。使い終わったら活用しないで、ただのごみとして捨てるのは、(循環経済に対して)「一方通行の社会」と呼ばれています。
ペオ:食品ウェイスト(食料廃棄物)は、バナナの皮、卵の殻、コーヒーかすなどを指します。
たとえば、このコーヒーは、豆でできています。
ペオ:このコップに入っているコーヒーは、コーヒー豆のうちの何パーセント(が使われていますか)?
―分からないです。
ペオ:専門家に初めて聞いたときにはびっくりしました。(飲むコーヒーに抽出されている豆は)2%以下です。
―たった2%?!
ペオ:じゃあ、残りの98%はどこへ行く? それ(コーヒーのかす)が、食品ウェイストです。それを集めて発酵して出るガスでバスが走っています。残ったかすは、エネルギーやコンポスト(堆肥)にする。これが環境循環です。
「取り過ぎない、捨て過ぎない」
ペオ:今、全世界の食品の3分の1がロスといわれますよね。
―はい、世界の食料生産量のうち、約3分の1の13億トンが捨てられています。
ペオ:本当にひどい。じゃあ私たちはどうすればいいのか。自然界がどう解決したかというと、取り過ぎない、捨て過ぎない、土に戻すか、自然に戻す。
ペオ:私たちも同じように、地下ではなくて地上の物、自然素材だけを使って、化学物質を使わないで、オーガニックにする。そうすれば、大気汚染にならないし、安心・安全、ハッピーです。
使い終わったらまた送り返して、残った物を捨てずにリサイクル(recycle)、リユース(reuse)、リデュース(reduce)する。
食品ロスは、リデュース、減らしましょう。
スウェーデンは環境配慮の3Rに加えて「返す」の4Rを実施
ペオ:スウェーデン人がよく言うのは、「環境に優しい」というより「環境に正しい」。
バイオサイクルと、テクニカルサイクル。この2つのサイクルだけは、覚えてほしい。
テクニカルサイクルは、社会の中で物を循環させること。
バイオサイクルは、reduce(リデュース)、reuse(リユース)、recycle(リサイクル)。これが「3R(スリーアール)でしょう。
4つ目のRは「返す」、英語でなんていう?
―return(リターン)。
ペオ:return(リターン)。スウェーデンは、3Rに加えて、このリターンを含めた4Rを実施しています。包括的、ホリスティック。地下から地上に切り替えましょう。地下の石油ではなくて、地上の物を使う。そうする限り、取り過ぎなければ環境循環の一環として回すことができます。100万年以上前、人間が生まれる前から地下にあった石油を取り出して、プラスチックを作り過ぎるから、問題になる。
食べられない部分(不可食部)をリサイクルしてエネルギーやコンポストに
ペオ:食品ロスだけでなく、食品廃棄は、できるだけグリーンエネルギーに切り替える。残ったリンゴは傷を取ってジュースを作るじゃない。
ペオ:リンゴの芯はどう?残る。だから、そのりんごの芯を使って、土を作る。その土を売る。コンポスト(堆肥)。
ペオ:食品ロスを減らすだけではなくて、食品ウェイストも、何でもかんでも(活用する)。これは食品ロス削減の鍵だと思っています。
日本では、目の前の食品ロスを考えすぎるような気がします。
いろんな食品ロスを通して、いろんな社会の問題を解決できる。食品ロス(問題を考えること)は、すごく面白いと思います。
映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンが実現!
ペオ:映画の「Back to the future(バック・トゥ・ザ・フューチャー)」に、ごみで走る車が出てきます。ここマルメで、既に走っています。1キログラムの生ごみで、2キロメートル走ります。面白いでしょう?
ペオ:たとえば果物を食べきれなければ、食品ロスにしないために、ジュースや何かを作る。果物の皮も使ってエネルギーを作ったらCO2(二酸化炭素)ゼロになる。温暖化も減らすことができるし、ごみも減らすことができます。
スウェーデン政府が出したリポートによると、スウェーデン全国の食品ロスは、今は毎年130万トン。それを20%、5分の1だけ減らせば、100億クローナ(1,200億円相当)の削減効果があります。
人間の解決と自然の解決、どうすればいい?環境循環型の物を選ぶこと。自然、健康、経済のバランスが取れているかどうかを考えることです。
取材を終えて
ペオさんは、今から10年以上も前の2008年7月19日付のMAINICHI WEEKLYに「Eco Magic: running your car on coffee and wine(コーヒーとワインで走る車?エコ先進国スウェーデン」という記事を投稿している。
(バナナやじゃがいもの皮は食べない。だから、それらをリサイクルすることは、食料廃棄物を活用し地球温暖化を防ぐ上で、賢い方法だ)
スウェーデン取材の冒頭でペオさんからレクチャーを受け、すぐに「バナナとコーヒーで走るバス」を見せてもらった。
最も刺激を受けたのは、食べられない部分(不可食部)をリサイクルしていたことだ。
日本は、もちろん、世界に名だたるリサイクル技術でリサイクルがなされている。が、筆者がこれまで見てきた全国のリサイクルの現場では、まだ十分に食べられるもの、つまり可食部が、家畜のえさや堆肥にリサイクルされていた。本来、リサイクルのあるべき姿は、食べられない部分をより多く活用することであろう。
カナダのトロントでは、生ごみ(ゴミ)から作ったガスで走るごみ収集車の実現が近いという。
集めた生ゴミから生成した天然ガスで走るゴミ収集車、トロントでまもなく実現
日本の京都市では、天ぷら油を使った後、回収してできたバイオディーゼルで、ごみ収集車や市バスの一部を走らせている(参考:筆者監修書籍『楽しい調べ学習シリーズ 食品ロスの大研究 なぜ多い?どうすれば減らせる?』PHP研究所)。
日本でも、世界の国々でも、スウェーデンのマルメのバスのような公共交通機関が実現できたら・・・と願っている。
謝辞
取材に際し、スウェーデン語を日本語に通訳して下さった、株式会社ワンプラネット・カフェの取締役でサステナビリティ・プロデューサーのペオ・エクベリさんと、株式会社ワンプラネット・カフェ代表取締役社長のエクベリ聡子さんに、深く感謝申し上げます。