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【深読み「鎌倉殿の13人」】源頼朝の愛した八重と千鶴丸は実在したのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
源頼朝の愛した八重と千鶴丸は実在したのか?(提供:アフロ)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の1回目では、新垣結衣さんが演じる八重と大泉洋さんが演じる源頼朝が登場した。悲しいことに2人の間の子・千鶴丸が殺されていた。その間の事情とは。

■八重とは

 八重は伊東祐親の娘であるが、残念なことに生没年は不詳である。後述するとおり、実在したのか否かについても不詳である。

 今さらながらであるが、源頼朝の流人時代の生活については、一次史料に記されたものではない(参考までにこちら)。そのすべては、後世に成った二次史料にだけ記されている。

 改めて確認すると、伊豆に流された頼朝は、祐親の娘・八重と恋仲になり結ばれた。その間に誕生したのが、先述した千鶴丸だ。

 千鶴丸が3歳になった頃、京都での大番役を終えた祐親は激怒した。というのも、ことの次第が平氏に露見すると、自らの立場が悪くなるからである。

 そこで、祐親は千鶴丸の殺害を家人に命じた。家人は千鶴丸を柴漬けにして、轟ヶ淵で殺害したと伝わっている。

 柴漬けとは、体に柴を巻いて縛り付け、さらに重りをつけて水に沈める処刑の方法である。

■『曽我物語』と『源平闘諍録』

 八重と頼朝の結婚、千鶴丸殺害のことを書いているのは、後世に成った『曽我物語』と『源平闘諍録』という軍記物語である。真名本(漢字で書かれた本)と仮名本がある。

 『曽我物語』は、おおむね13世紀末頃に成立したと考えられている。建久4年(1193)における、曽我兄弟による工藤祐経への仇討ちを描いた文学作品である。

 曽我兄弟の仇討ちに関しては史料が乏しいので、同書は文学作品とはいいながらも、史料批判をして用いられることがある。とはいえ、すべてが史実とはみなし難いので、注意が必要だ。

 『源平闘諍録』は源平争乱を描いた軍記物語で、南北朝時代初期には成立したといわれている。こちらも、あくまで文学作品なので、書かれていることすべてを史実とみなすわけにはいかない。

■関係する史跡

 八重と千鶴丸の存在を裏付けるたしかな史料(一次史料)がない以上、本当に2人が実在したのか不明である。しかし、静岡県伊豆の国市には、2人に関係する史跡が残っている。

①真珠院―八重を祀る。

②音無神社―頼朝と八重が密会したという神社。

③最誓寺-八重が千鶴丸を祀った寺。

 一説によると、八重は入水して自殺したといわれ、その地を示す説明板すらある。2人の実在は不確かだが、その存在をうかがわせる史跡は残っているのだ。

■むすび

 八重と千鶴丸の実在を裏付けるたしかな史料はないが、史跡は残っている。

 それは、逸話や伝承がその地に伝わり、人々がそれを信じて史跡とし、さらに後世に伝わったということになろうか。こうしたことは、ありがちなことである。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『蔦屋重三郎と江戸メディア史』星海社新書『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房など多数。

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