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新型コロナ感染症:中間宿主は「センザンコウ」か

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)が広がり続けているが、予防に効果的なワクチン開発ではヒトに感染しているウイルスや中間宿主のウイルスの遺伝子解析が重要なキーになる。最新の研究によれば、新型コロナウイルスの中間宿主(媒介生物)はセンザンコウなのではないかという。

中間宿主は何か

 コロナウイルスには新型コロナウイルスの他にもいくつか種類があるが、そのほとんどの自然宿主(最初にウイルスが感染する生物)はコウモリだ。コウモリのコロナウイルスは、別の種類のコウモリを含む他の生物に感染することで遺伝的な変異を繰り返し、ヒトへ感染するウイルスになる。

 2002年に27カ国で蔓延し、死亡者774人を出したSARS(重症急性呼吸器症候群)や死亡者640人を出したMERS(中東呼吸器症候群)の経験から、ウイルス学者はヒトに感染する能力を身につけた新たなコロナウイルスが世界のどこかにいつか出現するのではないかと考えてきた。SARSもMERSもコロナウイルスによる感染症だ。

 SARSはコウモリ(キクガシラコウモリの一種、Rhinolophus sinicus)のSARSウイルスが共通祖先で、その後、中間宿主であるジャコウネコ(ハクビシン)からヒトに感染した(※1)。MERSのウイルスも自然宿主はコウモリで、その後、ヒトコブラクダからヒトに感染したと考えられている(※2)。

 そのため、コロナウイルスを研究しているウイルス学者は、コウモリを自然宿主としたコロナウイルスの変異を注意深く観察してきた。そして、アフリカのコウモリが中南米のコウモリより4倍も多く別の種類のコウモリにコロナウイルスを感染させることを発見している(※3)。

 そして、新たなコロナウイルスは中国でヒトに感染を始めた。新型コロナ感染症だ。新型コロナウイルスはコウモリのコロナウイルスと遺伝子が96%同じで、やはりコウモリが自然宿主とされ(※4)、新型コロナウイルスがヒトに感染する受容体(ACE2)もSARSウイルスと同じと考えられている。

 SARSがコウモリからジャコウネコを経てヒトへ、またMERSがコウモリからヒトコブラクダを経てヒトへ、それぞれ感染能力を持ったように、新型コロナウイルスにも中間宿主がいる可能性が高い。その候補にはヘビ、カメ、そしてセンザンコウが挙げられてきた(※5)。

やはりセンザンコウか

 最近、英国の科学雑誌『nature』に査読なしのプリプリントとして発表された香港大学などの研究グループによる論文(※6)によれば、新型コロナウイルスの中間宿主、つまりコウモリからヒトへ感染する間の媒介生物はセンザンコウ(マレーセンザンコウ、Manis javanica)の可能性が高いという。

 センザンコウは哺乳類で南アジアから中国、台湾、アフリカなどに分布し、中でもマレーセンザンコウは中国南部で食用にされ、そのウロコ(体表をおおう角質)はリウマチに効く漢方薬として珍重される。マレーセンザンコウは、中国市場の需要によって密猟され、個体数が激減して絶滅危惧種に指定されている生物だ。

 この研究グループは、中国南部で密輸摘発されたマレーセンザンコウの個体から遺伝子を採取し、SARSウイルスや新型コロナウイルスと同じヒトの受容体感受性との関係を調べた。ヒト、マレーセンザンコウ、キクガシラコウモリなどのコロナウイルスの遺伝子を比較したところは、ヒトとマレーセンザンコウで84.85%が一致し、SARSの自然宿主であるキクガシラコウモリの80.75%より一致する割合が高かったという。

 新型コロナウイルスを含むコロナウイルスが、アジアに棲息する野生の哺乳類の多くの種の中に存在するのは明らかだ。新たな人獣共通感染症の出現リスクを下げるために、少なくともセンザンコウの商取引を厳しく規制すべきと研究グループは警告している。

※1:Susannna K. P. Lau, et al., "Severe acute respiratory syndrome coronavirus-like virus in Chinese horseshoe bats." PNAS, Vol.102(39), 14040-14045, 2005

※2:Jie Cui, et al., "Origin and evolution of pathogenic coronaviruses." nature reviews microbiology, Vol.17, 181-192, 2019

※3:Simon J. Anthony, et al., "Global patterns in coronavirus diversity." Virus Evolution, Vol.3(1), 2017

※4:Peng Zhou, et al., "A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin." nature, doi.org/10.1038/s41586-020-2012-7, 2020

※5:Zhixin Liu, et al., "Composition and divetgence of coronavirus spike proteins and host ACE2 receptors predict potential intermediate hosts of SARS-Cov-2." Journal of Medical Virology, DOI: 10.1002/jmv.25726, February, 19, 2020

※6:Tommy Tsan-Yuk Lam, et al., "Identifying SARS-CoV-2 related coronavirus in Malayan pangolins." nature, doi.org/10.1038/s41586-020-2169-0, March, 26, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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