猫にも「おしゃぶり期・口唇期」はあるの? 毛布やひもをガブガブする子の原因と育て方
飼い主は、愛猫に幸せで楽しく暮らしてほしいと思って共に生活をしています。
寒い時期なので、フカフカのフリースなどを敷いてあげたいと思いますが、今回、紹介する猫は、なんでも噛んでしまいます。飼い主のK子さんから悲鳴にも似たメールが届きました。
「今朝、ノア(猫の名前)のケージの中が夜中に吐いたもので大変なことになっていました(普段はまったく吐きません)。
この前、フェルトのようなものを無理やり引っ剥がして噛んでしまったのですが、その固まりらしきものがありました。胃液というか、吐いた液体は薄いピンク色で」とK子さん。そして、「ノアは、一瞬、目を離した隙に、電気コードを噛んだかもしれない」と言うメールもK子さんからありました(吐いたものが、ピンクということは、血が混じっているということですね)。
ノアちゃんは、【ウールサッキング】という問題行動を起こしています。これは、以前、「子猫に毛布をかけてあげたら命の危険に 知られざる「ウールサッキング」の恐怖とは?」という記事に書いていますので参考にしてください。
ウールサッキングの症状
ウールサッキングの症状を簡単に説明しておきます。
ウールは「羊毛」、サッキングは「しゃぶる」という意味です。つまり直訳すると、羊毛をしゃぶることです。猫の中には、羊毛だけではなくて、毛布、絨毯、レジ袋、ひも、輪ゴム、段ボール箱など、いろいろなものをしゃぶったり、噛んだり、あげくは食べたりする行動を取る猫がいます(食べた場合は、腸閉塞を起こして、食欲不振になり命を落とすこともあります。こういう場合は、内視鏡で取るか手術になります)。猫の問題行動のひとつです。とくに、不安を感じる、欲求不満などがあるとこのような行動をします。
ウールサッキングの原因
生まれてすぐ子猫は、乳房から母乳を飲みます。
ウールサッキングは、生後4カ月ぐらいまで、しっかり母猫に育ててもらっていなくて、乳房から母乳を飲んでいない子猫に多い傾向があります。
生まれて数カ月は、母乳をもらいながら、母猫の懐の中でまどろんだり、お腹は空いてないけれど、乳房で遊んだりすることが大切なのです。母乳から栄養を得るだけではなく、口に感じる快感や抱かれる安心感などを自然と感じ取っています。子猫は口で何かをくわえること自体が快感と結びついているのです。この行為は、精神的な安堵感をもたらしてくれるのです。
フロイトのいう口唇期(こうしんき)おしゃぶり期に似ている?
もちろん、人と猫とは同じというわけではありません。
臨床現場にいる筆者は、精神医学者のジークムント・フロイトが言う口唇期が猫にも同じようにあるのではないか、と考えています。
フロイトは、「心理性的発達理論」で最初の段階の口が経験する快楽の源として、赤ん坊は本能的に吸うことで、口や唇から快楽を得ているというのです。人の場合は、「おしゃぶり」があります。一般的には、およそ2カ月頃からおしゃぶりを使います。
人は、この口唇期に十分授乳をされていないと、あとあと問題行動を起こすと言われています。なんとかして自分の気持ちを満たそうとして、飲酒、過食、喫煙、また爪を噛むなどをします。
ノアちゃんの口唇期とは?
K子さんは、意識の高い人です。猫を迎えるのなら、保護猫と決めていて、子猫を迎えました。前の猫は、おっとりした猫で、筆者が治療するときもじっとしていました。一方、ノアちゃんは、注射なども嫌がるので洗濯ネットに入れてしています。
ノアちゃんを保護した人は、もちろんボランティアです。成猫は引き取り手が少ないために、不妊手術をした後は、耳カットをしてすぐに外に帰して地域猫として面倒をみるのです。
子猫は、引き取ってミルクをあげながら、里親を探すシステムになっているようです。保護猫活動のひとつに、ミルクボランティアというものがあります。哺乳期の猫を専門に預かって、人工のミルクを飲ませるというものです。こうやって、離乳が終わるぐらいまで(生後2カ月ぐらい)保護活動をしている人が育てるのです。
ノアちゃんは、成猫になり栄養学的には立派に育ちました(不妊手術ができるほどになっています。筆者が手術をしました)。しかし、精神的に満たされていない部分があったので、このような問題行動が出たようです。
子猫の育て方
もちろん、保護猫活動をしている人は、なかなか難しいとは思いますが、子猫の時期に、口の周りの愛情をケアすることは大切です。人のように「おしゃぶり」があれば、いいのですが、猫用はないのですね。だから、ノアちゃんのように、問題行動を起こす子がいることを知ってほしいのです。では実際、どうしたらいいか? ということですね。以下です。
・なるべく母猫と一緒にいる
母猫と子猫をなるべく一緒にしておいてほしいです。
母猫も子猫の面倒を見るのは、たいへんなのは理解しています。一緒にいるだけで、子猫の精神は安定します。
・母猫がいない場合
他の猫で世話焼きの子と、一緒に置いてその子に面倒を見てもらいます。舐めてあげるのが得意な子もいます。雌だけではなく、雄でも面倒見のいい子はいます。
猫が無理な場合は、犬でもいいです。犬は、他の動物に対しても愛情や友情を抱けます。それで、子猫の面倒を見る子もいます。子猫を近づけると、舐めてくれる犬は、育ててくれるかもしれません。母乳が出てなくても猫の世話をする犬もいます。
いちばん、現実的なのは、世話をする人が、哺乳、離乳の時期に、子猫とスキンシップをするとか、よく撫でるのもいいですね。それに加えて、寒い時期だと抱っこひもに入れて、人の体温の温かさを伝えるのもいいかもしれません。
哺乳の時期は、生後1カ月ぐらいで、生後2カ月ぐらいから、子猫の口に小さな歯が生えてきたら、そろそろ離乳の時期です。生まれてから、数カ月間をどう育てられたかで、子猫の人生(猫生)が変わることもあるので、しっかりとした知識を持ってくださいね。
ウールサッキングの猫の飼い方
愛猫がウールサッキングなのか、飼い主にはわかりにくいですね。
よくものを噛む子、ひもなどを食べてしまう、食欲が異常な子は、かかりつけの獣医師にご相談くださいね。なんでも食べて、胃切開などにならないようにすることが大切です。
・ノアちゃんの治療法
K子さんは、ノアちゃんがウールサッキングだということを理解しています。そして、ノアちゃんの症状がひどいときは、抗不安剤やサプリメントを内服させています。その上、なるべくK子さんに、ノアちゃんとスキンシップをするようにしてもらっています。
ずっと内服が必要ではないのですが、おっとりした猫になるまでは、月単位でなく、年単位かかる子もいます。
まとめ
ノアちゃんは、治療をして元気に暮らしています。内服薬が切れて、ケージやフリース、そして抱っこしている飼い主の服まで噛みはじめると、K子さんの心が折れそうになるそうです。
一般の飼い主が、生涯飼育と思って保護猫と暮らしてもこのような問題行動を起こすと、飼育放棄にもつながりかねません。
「このようなウールサッキングをする子は、ノアだけになってほしいです。そして、ノアを放棄したり、保健所に連れて行ったりしません。ノアは、ゆったりできないので、つらいでしょうに」とK子さんは、言われています。猫の行動学も勉強して、問題行動を防ぎたいものですね。