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アルゼンチン人コーチが見詰める高校選手権

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
埼玉県予選で敗れた高校が自身を下したライバル校に贈ったメガホン

「京都橘が優勝すると思います。スピードがあって、展開力が素晴らしい。一番、いいサッカーをしていますね。サイドをえぐって、クロスを入れるでしょ。日本のサッカーは、クロスが少ない。代表もそう。細かくパスを繋いで崩す、FCバルセロナのスタイルを意識し過ぎじゃないかな」

10年間、高校サッカーの指導者を務め、埼玉栄高校を何度も全国大会に導いた元浦和レッズのセルヒオ・エスクデロは語った。

「高校サッカーの問題点のひとつは、部員が多過ぎることです。各学年を30人にして、合計90人くらいがいい。90人なら、効率的な競争ができるでしょう。学校は生徒が集まればいいんでしょうが、あまり多くても指導者の目が行き届かない。大学に進学して、いい仕事に就くための高校サッカー、全国大会になっている感じがします。日本の経済を考えればOKなのかもしれないけれど…」

部が大所帯なため、レギュラー争いから漏れると、ろくにボールに触れず3年間を終えてしまう生徒も少なくない。

「全国大会に行くと、応援団が目につきますよね。補欠部員たちです。ピッチにはまったく立てず、スタンドで歌を歌い続けている子は、本当にサッカーをやったって言えますか? サッカー部には所属しているんでしょうが、けっしてサッカーに集中できていない。アルゼンチンではそんなこと、あり得ないです」

世界一になる強豪国から見れば、確かに日本の現実は奇異に映るであろう。

「ピッチで戦うからこそ、勉強になるんです。サッカーの楽しさだって感じられる。もっと、皆にサッカーの喜びを味わわせてあげたい。プロに繋がらなくても、色んなカテゴリーを作って、選手にPLAYする楽しさを与えて欲しい。

アルゼンチンの中学、高校にサッカー部はありません。学校では勉強して、サッカーはクラブで。AからEまでの段階に分かれていて、サッカーを職業とするようなトップレベルの子も、上手じゃない子も、ピッチで真剣に戦います。日本のサッカーはただの試合だけど、アルゼンチンはEランクのリーグも、ストリートサッカーも、ビーチサッカーも“戦争”です。遊びには絶対にならないんですよ。プライドとか、ハングリーさが違いますから」

エスクデロはこんな苦言を呈した。

「何度か目撃しましたが、選手を殴る指導者がまだいますね。それは暴力であり、犯罪です。絶対にやってはいけない。全国大会で勝ち上がるには、指導者だけでなく、学校のサポートも大事です。人工芝のグラウンドがある。筋トレルームがある。本気で勝ちたい子は、環境で高校を選ぶようになっています。だから、埼玉で優秀な選手は、このところ他県を選択する傾向にあるんですよ。そんななかで、勉強で入学した選手たちを育成し、全国大会に引っ張っていった、さいたま市立浦和高校は素晴らしいですね。池田監督には頭が下がります。チャンスがあるということを見せた訳ですから」

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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