「誰も来ないのです」でバズった愛知のプロレス図書館。本日も利用者ゼロ(!?)
切ない投稿に17万超のインプレッションが
あるマニアックな私設図書館の館長のX(旧Twitter)のつぶやき。これが思わぬ反響を呼びました。
この投稿にたちまち17万を超すインプレッションが! 「行きたい!」「どこにあるんですか?」など返信も数多く寄せられました。
図書館は設立30余年のプロレス団体の道場に併設
「これまでのSNS投稿で一番バズりました」と苦笑いするのはアマチュアプロレス団体・JWA東海代表の脇海道(わきかいどう)弘一さん。くだんの図書館は、愛知県津島市の同団体の道場内にあるのです。
“アマチュアプロレス”とは何だか矛盾した言葉のように思えますが、社会人や学生が選手としてリングに上がるプロレスのこと。JWA東海は1991年設立で、プロ選手も輩出している老舗団体です。
名古屋・愛知を拠点として毎月興行を開催していますが、コロナ禍以降、選手も観客も激減する苦境に。苦肉の策である異種格闘技路線を昨年、当サイトで取り上げたところ、超ニッチな話題にもかかわらず意外や多くの人に読まれるヒット記事になりました。(「旗揚げ戦の観客たった4人。名古屋のプロレス団体の剣道興行がシュールすぎた!」/2022年9月17日)
SNSでバズった後も「誰も来ません!」
観客4人の興行の次は、利用者ゼロの図書館の取材。ちょうど1年ぶりに脇海道さんを訪ねました。
――「誰も来ないのです」の投稿が話題になりました
脇海道弘一さん(以下「脇海道」)「ふふふ。何かバズりましたね」
――「行きたい!」とう返信も多数ありましたが、その後、誰か来ましたか?
脇海道「誰も来ません!」
――バズったのに、リアルに足を運んでくれる人はいないのですか?
脇海道「もともと年に1人か2人しか来ないですから。オープンして数カ月でコロナ禍になってしまったので、以来ほとんど人がよりつかなくなり、今もその状態が続いています」
4000冊の貴重なコレクション、実はほとんどが…
――コレクションは貴重なものなのですよね?
脇海道「プロレス雑誌を中心におよそ4000冊。『週刊プロレス』『週刊ゴング』『月刊ゴング』『月刊プロレス』…。最も古いのは『週刊プロレス』の前身にあたる1956年の『プロレス』です。歯抜けもあってコンプリートはできていませんが、プロレス雑誌のバックナンバーがこれだけ揃っているのは、ここ以外では国会図書館くらい。それを自由に見られる場所は他にないと思います」
――すべて個人で蒐集したのですか?
脇海道「実は自分でお金を出して手に入れたものは1割もないくらい。中学生の頃はプロレス雑誌を買っていたのですが、20代の時に大半を処分してしまいました。2003年に開設したこの道場で、手元に残っていたものを並べてみたら、選手やファンの人たちが、手持ちの雑誌などを少しずつここに置いていってくれるようになった。“この調子で増えていったらプロレス図書館になるな”と思って、廃材を使って本棚をつくったら、さらにどんどん寄贈してくれる人が増えていきました。『プロレス図書館』と正式に名乗るようになったのは2019年10月。これが新聞で報道されたため、1000冊以上の雑誌を譲ってくれる人や、ワゴン車に何百冊か積んでアポなしで持ってくる人など、大量に寄贈してくれる人が何人も現れたんです」
――コレクターはたくさんいるけれど、持て余している人もまた多いのでしょうか?
脇海道「ここの蔵書よりもたくさん所有している人もいると思います。でも、並べる場所がなく押入れの奥にしまい込んだまま、というケースも多い。それでも、プロレスマニアはプロレス雑誌を捨てられないんですよ。プロレスってどこか神がかったところがあるじゃないですか。マニアになればなるほど、手元にある雑誌やグッズを捨てるとバチが当たる…みたいな心理が働いてしまうんです」
道場飲み会を開催。雑誌をめくりながらプロレス談義に花が咲く
――プロレス図書館のシステムは?
脇海道「HPから予約して来館してもらえれば自由に閲覧できます。会員登録も図書カードもなく、利用料は三時間3000円。“持ち帰ってじっくり読みたい”という場合は、モノにもよりますが貸し出しも可能です」
――マニアにとっては夢のような場所ですね。でも、誰も来ない…
脇海道「まずここへ来るきっかけづくりが必要だと思い、10月に『道場飲み会』を開催します。試合がある第2週以外のほぼ毎週土日に行い、もちろん図書館の蔵書も読み放題です。昭和40年代生まれの僕らの世代のプロレスファンは、若い頃に友だちの下宿に集まってプロレス談義をした経験があると思うんです。あの空気をもう一度ここで体験してもらいたいんです」
プロレス図書館をきっかけにプロレス観戦へ!
――プロレス図書館の利用はもちろんですが、それをきっかけに興行の集客にもつなげたいところです。最近の動員の状況は?
脇海道「観客は昨年8月のJWA剣道旗揚げ戦が4人、取材に来てもらった9月が8人。でも今年はひとケタになったことはありません。動員数は毎月10~15人で推移しています。」
――それでもコロナ禍以前とはほど遠い?
脇海道「コロナ禍前は少なくても30名、多い時は100人くらい動員していましたから、それと比べるとまだ全然元には戻っていません。いきなり試合を観に来るのはハードルが高い、という人は、まずは図書館に遊びに来てもらえればと思っています!」
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“密”が不可避のプロレスは、コロナ禍によって大打撃を受けました。何より選手がリングから離れてしまい、それが集客の落ち込みにつながり、いまだ元通りにはなっていない状況です。しかし、昨年の拙記事は超マイナーな話題にもかかわらず予想以上に多くの人に読まれ、プロレスファンの層の厚さをあらためて感じました。
観光の分野では、コロナ禍以前の水準に戻っているところもある一方、人出の回復はメジャーなところから。エリアでいえば「東京や京都はずい分よくなったが、それに比べると名古屋はまだまだ」といった声も耳にします。マイナー、ニッチな分野になるほど客足の戻りは遅れているのかもしれません。
そんな中、ファンを呼び戻そうとあの手この手で話題づくりに励んでいる名古屋のアマチュアプロレス団体。他の分野、さらには観光地としては決してメジャーではない名古屋も、その活動から何かヒントを得られるのではないか…? そんな思いで、ささやかながらも応援しつつ、今後もその動向に注目していきたいと思います。
(写真撮影/筆者。巻末の脇海道さんの写真はJWA東海提供)