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百折不撓・木村一基王位(47)低い陣形で藤井聡太挑戦者(18)の動きを待つ 王位戦第3局2日目開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月5日。兵庫県神戸市・中の坊瑞苑において第61期王位戦七番勝負第3局▲藤井聡太棋聖(18歳)-△木村一基王位(47歳)戦、2日目の対局が始まりました。

 本日も対局の模様はABEMAで中継されています。その中継が始まる前にABEMAをつけると、ちょうど昨年の王位戦第7局、木村新王位誕生のシーンが放映されていました。

 46歳にして初めてタイトルを取った木村王位。その快挙は多くの人に感動を与えました。

 本日ABEMAで解説を務める増田康宏六段は次のように語っています。

「昨年のシリーズは豊島竜王・名人(当時王位)が序盤戦をかなり有利に進めていってる将棋が多かったんですけど、そこを中終盤、受けて受けて逆転するっていう将棋が多かったので。なかなか豊島先生を相手にそういう勝ち方をできる方っていませんから。今回ちょっと苦しい展開になってますけど、去年の再現を見せられる方なので、ここからの反撃が期待されますね」

 また、増田六段は藤井新棋聖について次のように語っています。

「デビューからすでにタイトル取れる実力あったと思うんですけど。ここ最近はもう、さらに進化して。そして『やっと取ったか』っていう感じです」

 木村王位、藤井棋聖ともに、その実力を考えれば、タイトル獲得は「やっと」と感じる人も多いのでしょう。

 本局がおこなわれるのは王位戦の定宿である、有馬温泉・中の坊瑞苑。

 8時45分頃に藤井挑戦者、49分頃に木村王位が入室。それぞれの席に着きました。

 両対局者が駒を並べ終えたあと、記録係の井田明宏三段(23歳、小林健二九段門下)が声を発します。

「1日目の指し手を読み上げます。先手、藤井棋聖▲7六歩。後手、木村王位△8四歩。・・・」

 戦型は相矢倉。そして途中までは藤井猛九段創案「藤井矢倉」を思わせる進行でした。

 進んで、藤井陣は堅さよりもバランス重視の現代風。そして端で香車と飛車を縦に並べました。「雀刺し」(すずめざし)と呼ばれる矢倉の攻め形のバリエーションの一つです。どこでこの二段ロケットが発射されるのかが、本局の見どころの一つかもしれません。警戒され続けるのならば、また違う攻め方になるのか。

 木村王位は低い姿勢で手堅く備え、受けの姿勢を貫きます。

 45手目。藤井挑戦者が角交換を避けて四段目に角を引いた局面まで並べられ、1日目の指し手がすべて再現されました。

「それでは封じ手を開封します」

 立会人の淡路仁茂九段が3通の封筒にはさみを入れます。中から取り出された封じ手用紙には赤いペンで、持ち駒の歩に丸がつけられ、自陣の銀の頭に向けて、長い矢印が引かれていました。用紙を両対局者によく見せながら、淡路九段が木村王位の46手目を読み上げます。

「封じ手は△2三歩です」

 カチリといい音をさせながら、木村王位は歩を銀の頭に打ちました。

 木村王位の△2三歩は、低い姿勢でじっと受けに回る姿勢です。もうひとつ上に歩を打ってから銀を立ち銀冠を目指すか、あるいはすぐに銀を立つか、という順も予想されていました。下に歩を打てば、角筋を通ったままなので、すぐに端から攻められることはありません。

 9時、対局再開。藤井挑戦者はここで少し考えます。△2三歩はどれぐらい予想していたのでしょうか。

 10分ほどして、藤井挑戦者は端1筋の飛車を一段目に引きます。

「いやあ・・・」

 木村王位はひたいに手をやり、小さくつぶやきます。木村王位もまた、この手はどれほど予想していたのか。

 木村王位は7分を使って、じっと6筋の歩を突きます。自陣をにらむ藤井挑戦者の角の利きを二重に止めながら、じっと藤井玉にプレッシャーをかけます。

 藤井挑戦者は27分考えたあと、飛車を1筋から2筋に戻しました。増田六段によればこの手は「意外」のようです。

 10時3分頃、木村王位は50手目、二段目に引いた銀を三段目に戻しました。雀刺しを警戒する必要がなくなったので、一般的には悪形とされる壁銀を解消できました。

 50手目が指された時点で持ち時間8時間のうち、残り時間は藤井3時間11分、木村4時間3分。盤上の形勢はほぼ互角で、時間は藤井挑戦者の方が少し多く使っています。

 王位戦、2日目の対局は昼食休憩をはさんだあと、夕食休憩はなく終局まで指し進められます。第1局は17時37分、第2局は19時40分に終局しました。

 本日はB級2組3回戦の一斉対局が東西の将棋会館でおこなわれます。B級2組に所属する藤井棋聖は王位戦第3局と重なるため、日程前倒しで鈴木大介九段と対戦。勝ってB2でも開幕3連勝と走っています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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