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金足農・吉田輝星がマークした152キロ。扇風機の音は聞こえたか?

楊順行スポーツライター
いいボールが行くとき。吉田の耳には独特の音が聞こえる(写真:岡沢克郎/アフロ)

 自己最速をマークしたのは、2回1死。常葉大菊川の打者・漢人友也に対して投じた外角低めの速球が152キロに達し、金足農のエース・吉田輝星はマウンド上で笑みをこぼしたという。

"という"と書いたように、実際には取材に行ったわけではないことをお断りしたうえで、以下も新聞報道によると、その1球で見逃し三振を喫した漢人は、

「まるでアニメ。低め(のボール)だと思ったけど、浮き上がってきました。高校生では打てません」

 とお手上げだった。そういえば吉田のまっすぐに対して、甲子園で対戦した各打者たちも、

「低い、と思って見逃せばひざ元に伸びてくる。真ん中、と思って振りに行けば顔のあたりにくる」

 と、その規格外の伸びに目を丸くしていたものだ。吉田はこの菊川戦、5回を4安打無失点で奪った三振はなんと毎回の11。「疲れもしっかり抜けていた」と、本来のデキじゃなかったU18アジア選手権とは見違える投球だった。結局吉田は、夏の秋田大会から甲子園、アジア選手権、そしてこの日と、計14試合109イニングを投げ、奪った三振は137に達している。

リリース音が、扇風機のように"シーッ"ならいい

「アニメみたい……」という漢人の語彙もなかなかだが、実は吉田自身も、甲子園でおもしろい表現をしていた。自分の調子のバロメーターを問われたときだ。

「重視しているのは、球の回転です。リリース音が、"ゴーッ"と聞こえるときはダメで、扇風機の音のように"シーッ"ならいい」

 ボールが指先を離れるときの音に着目している感性もいいが、それを扇風機の音にたとえるとはね。取材陣に囲まれるなかでのこの発言、その後カナノー・フィーバーが盛り上がっても、あまり採り上げられなかったのが不思議だが……。

 それはともかく、吉田のストレートが150キロの大台に突入したのは、秋田大会初戦の秋田北鷹戦だった。自己最速を3キロ更新する数字に捕手の菊地亮太は、「もともと、ミットのひもがすぐ切れるほどの球のキレでした」、一塁を守る高橋佑輔は、「殺しにくるけん制球は、怖いです」と、その威力を表現していたものだ。甲子園でも、横浜との3回戦で150キロをマーク。そして高校野球締めくくりの国体で、それは152キロに達したわけだ。

 本人も「これは出たな」と感じた自己最速更新の1球。指にしっかりとかかり、リリース時にはおそらく扇風機の音がしたことだろう。

 これで吉田は高校野球を終え、気になるのはその進路だ。八戸学院大への進学が既定路線と見られているが、吉田本人は、

「後悔しないような道を選びたい。両親としっかり話し合い、(金足農・中泉一豊)監督さんにも、自分の能力を客観的に見てもらい、周りの意見を聞いて決めたい」

 と語ったという。進学か、それとも……プロ志望届を出した場合、運命のドラフト会議は10月25日である。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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