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WTO事務局長選挙 ギブアップしない韓国に起死回生の逆転のシナリオはあるのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
兪明希候補(左)とオコンジョイウェアラ候補(二人のHPからのキャプチャー)

 韓国の兪明希・産業通商資源部通商交渉本部長とナイジェリアのヌコジ・オコンジョイウェアラ元財務相の2人の争いとなっているWTO(世界貿易機関)事務局長選挙は「勝敗」のカギを握っているEUの執行委員会がナイジェリアへの支持に回ったことで韓国は苦しくなった。

 オコンジョイウェアラ候補は16日の記者会見で、アフリカ連合を含めこれまで「79カ国・地域が自身を支持している」と主張していたが、これに27か国のEUが加われば、全加盟国(164か国)の過半数を遥かに上回ることになり、圧倒的に有利となる。EUがオコンジョイウェアラ元財務相への支持を表明したことで中立的な立場を堅持している他の地域の国々にもドミノの現象が起こり、雪崩を打ってオコンジョイウェアラ元財務相の支持に回る可能性も大だ。

 WTO事務局長は投票ではなく、全加盟国のコンセンサス(全会一致)で決まるためこれからWTO理事会議長が各国の考えを個別に聴き、意見を集約し、来月7日までに一人に絞り込むことになる。オコンジョイウェアラ元財務相が過半数以上の支持を集めているのならば、慣例に従い、兪明希候補に身を引くよう求めることになるだろう。兪候補が辞退すれば、それでゲームセットだ。

 しかし、兪候補を全面的にバックアップしている韓国政府はギブアップせずに徹底抗戦する構えだ。EUの意思表示で形勢不利が伝えられた昨日も文在寅大統領はカナダのトルドー首相に電話を掛け、兪候補への支持を呼び掛けていた。カナダは韓国とEU,日本、豪州、ブラジルなどが加盟しているWTOの有志国から成る「オタワ・グループ」の中心国である。

 韓国は大国の中国と米国がまだ態度を表明していないこともあって望みを捨ててないようだが、中国はアフリカへの投資を拡大していることもあってナイジェリア候補を歓迎していると伝えられているのであてにはできそうにもない。そうなると、韓国にとって唯一の頼みは米国ということになる。

 中国との貿易戦争の真っただ中にある米国は中国の影がチラつくナイジェリアの候補に難色を示していると伝えられている。WTOからの脱退を示唆しているトランプ政権に趨勢を変えられるほど影響力があるかは不明だが、米国が仮に最後までオコンジョイウェアラ候補の選出に同意しなければ、WTOにとっての選択は2択しかない。

 一つは、かつて一度も経験したことのない投票、即ち多数決による決着である。

 韓国は日本を除いてアジア・太平洋地域では圧倒的な支持を受けていること、またEU諸国でも東欧諸国を中心に7か国が兪候補への支持を表明していたこと、さらにアフリカ諸国への切り崩しにも成功し、10か国前後が韓国支持に傾いているとして、仮に投票になれば、今後の外交ロビー活動次第ではナイジェリアを支持している国々を翻意させることも可能として決選投票に一縷の望みを持っているようだ。

 もう一つは、両候補への支持票が大差でなく、競っている場合は、WTO内で前例のない投票を避け、1999年の時のように任期を6年とし、両候補に3年交代で事務局長をさせる案が浮上する可能性があることだ。

 1999年の事務局長選挙の時はニュージーランドのマイク・ムーア前首相と開発途上国の支援を受けたタイのスパチャイ・パニチャパック前副総理の一騎打ちとなり、最後まで合意が得られなかったことからWTO理事会はムーア候補に前半の1999年から2002年まで、パニチャパック候補に後半の2002年から2005年まで事務局長に就かせていた。これで妥結ならば、韓国にとっては上出来だ。

 WTO事務局長の任期は2代目(1968-1980年)からは2年ないしは3年、長くても4年間だったが、1999年は6年となり、また、パニチャパック前副総理の後のパスカル・ラミー事務局長は2005年から13年まで、また現在のロベルト・アゼベド事務局長は2013年から事務局長を務めていた。

 どちらにしても、韓国はそう簡単には白旗を上げる気はなさそうだ。韓国政府がかくも必至なのは文大統領の名前で35か国に親書を送り、また大統領自身13の外国の首脳に直接働きかけ、さらに大統領の号令の下、国を挙げてWTOトップの椅子を取りに行った結果、勝てなかったとなると、野党や保守メディアから「外交敗北を喫した」として、「国民に失望と落胆を与えた」として責任を問われるからだろう。

(参考資料:WTO(世界貿易機関)事務局長選挙で韓国が勝てない4つの理由

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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