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今年は220名が参加! 野球道具を一切使わない生駒市体育協会主催の小中野球選手向け講習会の中身とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
講習会では子どもたちに身体を扱う基本動作を学ばせていた(筆者撮影)

【生駒市体育協会主催の小中野球選手向け講習会】

 去る1月12日のことだが、生駒市内の体育館に奈良県内の小中学校の野球チームの選手及び指導者たちが集結した。この日生駒市体育協会が主催で、野球選手向け講習会が開催されたためだ。

 この講習会は今年で5回目を数え、毎年のように参加者が拡大している。今回は募集人員150名だったのだが、応募が殺到したため、最終的に約220名が参加している。

講習会の様子(筆者撮影)
講習会の様子(筆者撮影)

【講習会最大の目的は選手たちの障害予防と育成】

 この講習会の正式名称は、「野球選手の障害予防、育成プロジェクト」。その最大の目的は、小中野球選手たちを如何に障害、故障から守り、育成していくかにある。

 そのため講習会は野球選手を対象にしながらも、野球に特化した技術指導は一切行わないため、バットやグローブなどの野球道具を一切使用していない。

 参加者はバランス測定を行った後、野球というよりも自分の身体をしっかり扱うことができるかを確認する実技指導を受けるというものだ。

 この講習会で指導に当たっているのは、治療家の集まりである『キネティック・フォーラム』に所属する面々だ。

 彼らは柔整師、鍼灸師、トレーナー、理学療法士等々、医療、治療分野で活躍する人たちの集まりで、彼らは普段もそれぞれのフィールドでアスリート達の治療に従事している。そうした専門家たちがフォーラムを通して意見交換を行いながら、日々障害予防に取り組んでいる。

講習会の様子(筆者撮影)
講習会の様子(筆者撮影)

【きちんと身体を扱える方法を基本動作から学ぶ】

 講習会で行われた実技メニューは、ブリッジ、前転、後転、開脚等々の基本動作ばかりで、バッティングやピッチングのフォームの確認などは一切行っていない。あくまでその根本にあるのは、子供たちのバランス感覚を整え、身体の扱い方をしっかり習得させることだ。

 それができるようになれば、野球に限らずどんな競技に携わっても負傷や障害を軽減できるというわけだ。つまりこの講習会は野球選手のみならず、どんな競技に携わっている子供たちにとっても有効だということだ。

 実際『キネティック・フォーラム』では、昨年スポーツ選手ではなく吹奏楽部を集めて同様の講習会を実施するなど、様々な取り組みにもチャレンジしている。

 前述通りこの講習会の参加者が年々増えているのも、彼らの地道な取り組みが確実に効果を上げ、講習会に参加したチームの選手たちの障害が着実に減少しているからに他ならない。

講習会の様子(筆者撮影)
講習会の様子(筆者撮影)

【背景にあるのは子どもたちの体力低下と運動不足】

 こうした講習会を実施しなければならない背景には、昨今の子どもたちの体力低下と運動不足があるからだ。

 文部科学省は子供たちの体力低下傾向について、以下のように説明している。

 「少子化が進み、兄弟姉妹の数が減って、スポーツや外遊びの仲間となる身近にいる子どもが減少した。また、学校外の学習活動などで子どもが忙しく、平日の放課後に遊びたくても、自由な時間が取れなかったり、友達と時間が合わないことで仲間がつくりにくい」

 実は講習会で実施した実技メニューは、昔の子どもたちならば放課後の外遊びなどで自然と身につけてきた動作なのだ。昨今の子どもたちはそうした動作を身につけないまま、野球などのスポーツに携わるため、障害を起こす可能性がより高くなってしまうわけだ。

 残念ながら子どもたちの生活を昭和時代に戻すことは不可能だ。現代の子どもたちに外遊びの代わりの場を提供する意味でも、こうした講習会の意義はますます大きくなっていくはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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