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中国が台湾人男性を政治犯として逮捕。台湾市民への脅しが目的か?

宮崎紀秀ジャーナリスト
台湾メディアは中国国営テレビの映像で事件を報じた(2023年4月26日筆者撮影)

 中国が身柄拘束していた台湾人の33歳の男性を国家の分裂に関わった疑いがあるとして逮捕した。来年予定されている台湾の総統選挙を標的に、中国が台湾市民を威嚇し世論に影響を与えようとしているとの指摘もある。

中国国営テレビは手錠の映像を

 中国の最高人民検察院は25日、台湾出身の男性、楊智淵氏について浙江省温州市の検察が正式な逮捕を承認した、と発表した。同市の国家安全局による捜査が終わり、楊氏には国家分裂に関わった容疑がかけられているという。

 中国国営テレビは同日、このニュースを、顔にぼかしを入れているものの手錠をかけられている楊氏の映像と共に報じた。

 楊氏は、台湾の台中市出身の33歳。学生の頃から政治活動に参加し、2011年に台湾独立を主張する台湾民族党を立ち上げたメンバーの一人。現与党の民進党に在籍した経験もある。

 中国は去年8月、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問に猛反発した。中国国営テレビは、ペロシ氏が台湾を去った同月3日、温州市国家安全局が楊氏の身柄を拘束したと報じていた。台湾独立の理念を鼓吹し、長期に亘って台湾独立による国家分裂活動に関わったなどの理由だった。

実はすでに政治から手を引いていた?

 正式逮捕を台湾メディアは大きく報じているが、26日付けの「聯合報」紙は、楊氏はすでに政治に関わっておらず、中国に行ったのは囲碁を教えるためだったという友人の話を伝えた。

 また「自由時報」紙は、中国側が来年の台湾総統選挙への圧力を狙っているという専門家の見解を伝えた。同紙に対し、中国との関係に詳しい台湾の専門家、呉瑟氏は「恣意的に台湾の市民を逮捕、罪をでっちあげて起訴することで中国側は政治的な恫喝を加え、台湾人の政治上の選択を変更させようとしている」と指摘する。また同氏は、いわゆる「台湾独立思想」は中国側が一方的に定義しているものなので、過去のネットや公開の場での発言が逮捕や起訴の口実にされるという点を指摘して、台湾の市民が観光やビジネスで中国を訪問した際に政治工作のための人質になり得る可能性があると警鐘を鳴らしている。

中国が台湾出版関係者への調べを認める

 中国側が台湾市民への恫喝を強める動きはこれだけではない。

 今年3月に中国を訪問して以来、連絡が取れなくなっていた台湾の出版社の総編集長、李延賀氏も中国当局の調べを受けていることが明らかになった。中国側で台湾関係を担当する台湾事務弁公室の報道官が、本日26日午前の記者会見で認めた。国家の安全に危害を加える活動に関わった疑いがあるとして中国当局が李氏の調べを進めているという。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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