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アトピー性皮膚炎患者の希望の光 - デュピルマブ治療の驚くべき効果

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【デュピルマブがアトピー性皮膚炎患者にもたらす早期効果】

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な炎症性皮膚疾患です。この病気に悩む多くの患者さんにとって、かゆみは最も辛い症状の一つです。かゆみは睡眠の質を低下させ、日常生活や仕事、学業にも大きな影響を与えることがあります。

そんなアトピー性皮膚炎患者さんに希望をもたらす新しい治療薬として注目されているのが、デュピルマブです。今回、スペインの研究チームが行った調査で、デュピルマブの早期効果が明らかになりました。

この調査では、24人の重度アトピー性皮膚炎患者さんを対象に、デュピルマブ治療開始から4週間の効果を詳しく分析しています。その結果、患者さんの症状や生活の質が大幅に改善したことが分かりました。

【数値で見るデュピルマブの驚くべき効果】

デュピルマブ治療を始めてわずか4週間で、患者さんの症状は劇的に改善しました。具体的な数値を見てみましょう。

1. かゆみの程度(NRSかゆみスコア):治療前の中央値8から、4週間後には2.5まで低下

2. 睡眠の質(NRS睡眠スコア):治療前の中央値8から、4週間後には2まで改善

3. 皮膚の状態(EASIスコア):治療前の中央値26から、4週間後には14まで改善

4. 生活の質(DLQIスコア):治療前の平均15.79から、4週間後には8.29まで向上

これらの数値は、デュピルマブがアトピー性皮膚炎患者さんの症状を短期間で大幅に改善させる可能性を示しています。特に注目すべきは、かゆみや睡眠の質といった生活の質に関わる項目が、皮膚の状態を示す指標よりも早く、そして大きく改善している点です。

この結果は、デュピルマブがアトピー性皮膚炎患者さんの生活の質を迅速に向上させる可能性を示唆しており、非常に期待できる治療法だと考えられます。

【デュピルマブ治療の安全性と他の薬との併用】

この調査では、デュピルマブの効果だけでなく、安全性や他の薬との併用についても興味深い結果が得られました。

調査に参加した24人のうち11人(45.8%)は、デュピルマブ治療を開始する時点で他の全身療法(ステロイド薬やシクロスポリンなど)を受けていました。これらの患者さんは、デュピルマブ治療開始後も4週間にわたって従来の治療を継続しました。

結果として、デュピルマブと他の薬を併用しても、アトピー性皮膚炎の症状が悪化したり、安全性に問題が生じたりすることはありませんでした。これは、従来の治療からデュピルマブへの移行をスムーズに行える可能性を示唆しています。

ただし、この調査には限界もあります。参加者数が少なく、観察期間も4週間と短いため、長期的な効果や安全性については更なる研究が必要です。また、個々の患者さんの状態によって、適切な治療法や薬の組み合わせは異なる可能性があります。

アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、まずは皮膚科専門医に相談することをおすすめします。デュピルマブが適切な治療選択肢かどうか、専門医と相談しながら判断していくことが大切です。

デュピルマブは、アトピー性皮膚炎治療に新たな可能性をもたらす薬剤として注目されています。今回の調査結果は、その効果の速さと安全性を示すものですが、さらなる研究によって、より多くの患者さんに希望をもたらす治療法として確立されていくことが期待されます。

アトピー性皮膚炎は、適切な治療と日常生活での注意によって、症状をコントロールすることが可能です。皮膚の保湿や刺激を避けるなどの基本的なケアも忘れずに行いましょう。そして、症状が気になる場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします。

参考文献:

1. Garriga-Martina GG, Suárez-Pérez JA, Martínez-García EA, Herrera-Acosta E. Early Impact of Dupilumab in Disease Severity and Quality of Life of Patients Affected by Moderate-to-severe Atopic Dermatitis: A Prospective Study. Actas Dermosifiliogr. 2024. doi: 10.1016/j.ad.2024.10.041

2. Courtney A, Su JC. The Psychology of Atopic Dermatitis. J Clin Med. 2024 Mar 11;13(6):1602. doi: 10.3390/jcm13061602.

3. Ariëns LFM, van der Schaft J, Spekhorst LS et al. Dupilumab shows long-term effectiveness in a large cohort of treatment-refractory atopic dermatitis patients in daily practice: 52-Week results from the Dutch BioDay registry. J Am Acad Dermatol. 2021 Apr;84(4):1000-1009. doi: 10.1016/j.jaad.2020.08.127

4. Simpson EL, Akinlade B, Ardeleanu M. Two Phase 3 Trials of Dupilumab versus Placebo in Atopic Dermatitis. N Engl J Med. 2017 Mar 16;376(11):1090-1. doi: 10.1056/NEJMc1700366

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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