イノシシやシカが引き起こす災害とは!ため池決壊と住宅浸水の二重リスク
イノシシやシカなどの野生動物によって、収穫前の野菜や果物を食い荒らす被害は深刻です。農林水産省によると令和4年度の被害は、イノシシ36億円、シカ65億円と、合わせて100億円にも達しています。
一方で、シカやイノシシは災害を引き起こす動物でもあるのです。今回は、筆者が前職でハザードマップを作成する際の体験談から、シカやイノシシが住民への驚異となる現実をお伝えしましょう。
イノシシによる食害は江戸時代に飢饉を起こしている
イノシシは日本民族にとって古くからの付き合いがあり、1万数千年前から既に狩猟が行われていたとされています。
現在もボタン鍋などイノシシを好んで食べる食文化がありますが、昔は現代よりも貴重な食資源であり青森県内の縄文時代の遺跡からは、イノシシ形の土偶が多数出土するほど身近な存在です。
一方で、イノシシは農作物へ被害をもたらす害獣であり、江戸時代にはイノシシの食害による飢饉の発生が記録されています。
シカは胃袋を4つ持つ「はんすう動物」で何でも食べる
シカは4つの胃を持つ動物で、採食して飲み込んだ植物を口に吐き戻してそしゃくし飲み込む「反芻(はんすう)」を繰返します。
簡単にいうと、シカの第一胃内には微生物が生息していて、食べたものに応じて変化するため何でも食べられる動物です。そのため、数多くが生息すればその場所は確実に裸地化してしまいます。
ため池の堤に生息する草をエサにする
イノシシやシカは草や根を好んで食べるため、ため池の堤に生えている草を食べ、根を狙って掘り返しが行われます。
多くの掘り返しが起きると堤の強度が弱まり、漏水が発生するだけでなく大雨によって堤に水圧がかかると、堤が決壊し下流域にある住宅が災害に見舞われます。
ハザードマップ作成時の現地調査で、住民の方が連れて行ってくれたのが正にため池の堤を補修している現場でした。自治体からの補助金が出ないため、住民自身が土を運んで堤を修繕していたのです。
林道や農道のミミズを食べ側溝を土砂で埋める
イノシシやシカは草だけでなく、昆虫や地面の中にいるミミズも好んで食べています。林道や農道など普段あまり人が通らない、道路の法面に生息するミミズを、掘り起こして食べるのです。
この現場も確認しましたが、広範囲にわたって側溝が土砂で埋まっていました。そのため、大雨が降ると上流から側溝を流れてきた雨水が溢れて、すぐ近くの民家へ流れだしてしまうのです。
相当量の雨が降ると雨水だけでなく土砂が流れ込み、住宅が一瞬のうちに床下、最悪のケースでは床上浸水するのだとか。
そのため、台風前や大雨が予想された際には近隣住民が集まり、埋まった土砂を取り除く作業を行っているそうです。
農林水産省が公開している「イノシシ・シカ侵入防止対策の手引き」にも、ため池の堤や側溝付近の法面の掘り返し被害が記載されています。
独自の危険区域としてハザードマップに記載
これらは、国や県が把握していない「地元住民しか知り得ない危険個所」を調査するために、住民ヒアリングを実施した結果で得た知識です。
地域や状況によって特殊な事情で災害につながるケースがあるため、ハザードマップに記載し注意喚起する目的で行いました。
この調査に同行するまでは、イノシシやシカが法面や堤を掘り返し、災害につながる被害を起こすことなど全く知りませんでした。恐らく全国にはイノシシやシカだけでなく、ヌートリアやアライグマなどによる災害につながる被害もあるでしょう。
絶滅させないことと、被害を防ぐことの正反対の対策は、自治体や住民にとって難しい問題のようです。