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五輪代表メンバー選考が大詰め。ラスト2カ月、なでしこに勢いをもたらす切り札は現れるか

松原渓スポーツジャーナリスト
2019年W杯メンバーが軸を固める。鮫島も最終ラインを束ねるキーマンの一人(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 5月11日から17日にかけて、なでしこジャパンが福島県のJヴィレッジで1週間の合宿を行った。

 今年4月中旬に行われた東京五輪の組み合わせ抽選会で、日本はカナダ、イギリス、チリと同グループに入ることが決まった。メンバー選考も大詰めを迎えており、今回は海外組を除く国内組23名が招集されている。

女子サッカーリーグ「WEリーグ」は9月開幕で現在はプレシーズンだが、選手たちは自主練習や体のケアにかけられる時間が増え、五輪に向けてコンディションを高めている。

参考記事:ウクライナ、メキシコとの対戦が決定。東京五輪2カ月前、なでしこジャパンの現在地

 合宿の3日目と6日目には、地元のふたば未来学園高校、いわきFC U-18との合同練習とトレーニングマッチを行い、前者は3-1で勝利、後者は2-4で敗れた。

 合宿時に、高倉麻子監督と選手たちに話を聞いた。

(※)取材はすべてオンライン会議ツール「Zoom」で行いました。

高倉麻子監督
高倉麻子監督写真:長田洋平/アフロスポーツ

高倉麻子監督

ーー今回の合宿の位置付けと、東京五輪に向けた選手選考の見通しについて教えてください。

ある程度、私の頭の中ではメンバーと形は決まってきています。そのなかで、どの選手がそこにフィットしてくるかということもありますし、プレー精度を含めて調子を上げてきている選手を見逃したくないと思っています。チームのやり方を理解し、それをグラウンド上で表現できることが重要なので、その辺を見ながら最終的なところを絞り込んでいきたいと思います。ここから急激に伸びてくる選手が、もしかしたら東京五輪のキープレーヤーになる可能性は十分にあると思います。

ーー五輪の対戦相手はカナダ、イギリス、チリに決まりましたが、具体的に、相手を想定した練習も考えておられますか。

日本が世界のトップレベルの国際大会に出た時の課題は大きく変わらないので、そうしたことを想定して練習しています。対戦相手の分析はしているので、選手たちに伝えながら、チームとしての狙いを共有したいと思います。今回の合宿では、選手と映像を共有して、自分たちのやるべきことに対してより深く取り組みました。

ーーふたば未来学園高校(○3-1)と、いわきFC U-18(●2-4)とのトレーニングマッチ2試合のテーマと成果を教えてください。

スピードや強さがある男子選手の強いプレッシャーの中でも、うしろから組み立てて、相手のパワーをいなせるようなポゼッションやビルドアップにトライしました。1試合目は相手のプレッシャーを(パスワークで)外せた場面が多かったのですが、2試合目は組織的な守備の中で奪われることも多く、ポジション取りや判断のスピードは上げていかなければいけないと思いました。守備のスイッチをどこで入れるか、共有することに取り組んできましたが、選手の共通認識は高まってきましたし、エラーが起きた原因を理解しながらやれているので、課題の出方もポジティブなものだったと思います。

ーー18人のメンバーの中で、控え選手は複数ポジションをこなせる選手が良いのか、それともスペシャリストタイプの選手を考えていますか?

難しいところですが、先発と途中から出る選手の力が遜色なくなってきていると感じています。プラス、得点感覚で秀でたものを持っていたり、スペシャリストとして秀でている選手もいます。五輪は短期決戦で5人交代なので、先発の選手を変えながら戦っていくこともできると思います。その中で、選手が変わった時に、チームの戦術面にも変化を加えることが可能になってきたなと感じます。ただ、人数を考えていくと、どうしても18人では足りないんですよ。もう1人か2人(枠が)欲しいところです。インターナショナルマッチデーで(海外組も含めて)集まった時に、(国際試合で)計算できる選手を優先することになると思います。

平尾知佳
平尾知佳

GK 平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)

1年2ヶ月ぶりに代表に復帰したのですが、メンバーがガラッと変わって、初めてプレーする選手もいるので、たくさんコミュニケーションを取っていきたいです。参加できなかった時期は、「やるしかない」と考えながらも、気持ち的には焦りを感じていました。合宿は自分の成長を見せられる機会なので、アピールしながらも、チームのために何ができるかを常に考えながらプレーしていきたいです。

去年からキックの精度を高めるために練習してきて、いろいろな球質を蹴れるようになった手応えがあって、シュートストップや1対1も徐々にレベルが上がってきた感触があります。海外の選手は寄せるスピードがすごく速いので、サイドハーフに低い軌道の強いボールを蹴って、攻撃の起点になりたいですね。

(WEリーグになってからの変化について)私は昨シーズンからプロとしてチームに雇っていただいています。今はまだそこまで大きな変化はありませんが、7月からはチームの練習時間が早くなる予定なので、生活も変わると思います。

土光真代
土光真代

DF 土光真代(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)

復帰して間もない中で合宿に呼ばれたことや、チームが送り出してくれたことに感謝していますし、復帰するまでに関わってくれたすべての人に感謝の気持ちでいっぱいです。この合宿でしっかりプレーして、その先に繋げていくことで恩返しできると思っています。他のチームの選手からも「代表で待っているよ」と声をかけてもらい、支えになりました。リハビリ中は、ベレーザの永田雅人ヘッドコーチが考えた技術練習や、ボールを使った基礎練習、攻撃のフィードや守備の対応など、細かく取り組みました。一人でもできて、個の部分を高められる練習も多く、濃い時間を過ごしました。

復帰して五輪を目指せる位置まで戻ってきて、ケガをする前よりもさらに(メンバー入りへの)気持ちは強くなりましたし、今まで支えてくださった方に恩返しするためにも、絶対にメンバーに入りたいと思います。

昨年のシービリーブスカップでの経験は、いい意味でも悪い意味でも記憶に残っています。五輪の対戦相手はフィジカルやスピードがあるので、準備のところや球際はもっと磨いていかなければいけないと思います。パスの質は日本の生命線なので、右足に出すか左足に出すかというように細かいところにもこだわっていきます。

小林里歌子(右は塩越柚歩)
小林里歌子(右は塩越柚歩)

FW 小林里歌子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)

長い間、合宿に行けなかったので、自分をアピールすることと、チームに入っていけるように意識しています。久しぶりだったので、最初はそれぞれの特徴を思い出しながらやっています。初めて一緒にプレーする選手のことを自分からもっと知らなければいけないし、浜田遥さんはFW同士なので、お互いにプレーを理解しながらやっていきたいです。

チームと代表では求められることも違いますし、自分がやるべきことも変わるので、プレーの中で意識することは完全に分けて考えています。私は前線の選手なのでゴールやチャンスメイクには強くこだわっていきたいですし、裏の抜け出しや、体をゴールに向けることや相手との駆け引き、ゴールにつながるポジショニングは常に意識しています。

代表の試合は特別です。国際試合の雰囲気や相手の威圧感も含めて、楽しみながら試合をしたいですし、五輪に向けてはワクワクしています。(組み合わせについては)イギリスは、以前対戦した時はイングランドでしたが、個々が強くて速くて、戦術もしっかりしている印象です。でも、どこが相手でも、まずは自分たちのやるべきことをしっかりやっていきたいと思います。

塩越柚歩
塩越柚歩

MF 塩越柚歩(三菱重工浦和レッズレディース)

ふたば未来学園高校とのトレーニングマッチでは、代表で初めてFWで出場しましたが、普段のポジションに近いので戸惑うことなくプレーできました。2トップを組んだ菅澤選手とは同じチームでプレーしているのでやりやすく、相手と相手の間でボールを受けてチームに流れを生み出す自分の良さは出せましたが、シュートを打ちきれないシーンがあり、もっと貪欲にゴールを狙っていかなければいけないところでした。初めて一緒にプレーする選手もいますが、代表は気遣いができる選手が多く、周りを見てプレーを変えてくれるので、試合中にパッと目を合わせてプレーすることが多いです。トレーニングマッチでは近い位置でプレーした(木下)桃香も、そういう選手でした。

(浦和の)チーム練習は今までは夕方でしたが、午前中に変わって、コンディションは整えやすくなりましたね。東京五輪が近づいた中で、毎回、合宿に呼んでもらえていることが自信につながりますし、チームの戦い方や選手のプレースタイルを理解して、自分の良さも出せるようになってきました。W杯や五輪を経験した選手が多くいる中で、五輪は18 人の狭き門ですが、自分の良さを出し切る部分で後悔はしたくないです。いろいろな選手のいいところを盗んで自分自身が成長することが、東京五輪のメンバーに選ばれるための一番の近道だと思います。

山下杏也加
山下杏也加写真:長田洋平/アフロスポーツ

GK 山下杏也加(INAC神戸レオネッサ)

WEリーグのプレシーズンマッチが始まって、まだ数試合ですが、代表の選手は(五輪に向けて)もっと高いコンディションを作らなければいけない難しさがあります。大きいケガをしたらチャンスはなくなると思うので、体づくりやコンディション調整には去年よりも気を遣っています。小さなことですが、ストレッチの時間を長くしたり、休める時に休むようにしていますし、五輪に向けて自分のリカバリー能力を高めたいです。東京五輪は厳しい組み合わせですが、(2019年の)W杯で同じグループだったイングランドが(イギリスとして)同じ組なので、勝てば勢いがつくと思いますし、W杯の時より、なでしこのサッカーは良くなってきていると思います。

DFラインがプレーしやすいようにするのもGKの仕事ですし、セットプレーやクロスの失点が多いので、自チームに戻ってもセーブ率を上げられるように意識して練習したいと思っています。

プレーの参考にしているのは、マンチェスターシティのGKエデルソン選手です。同じ左利きで、少ないステップで味方のゴールに絡むようなプレーができる選手ですし、彼のように、相手ディフェンダーが怖がるようなプレーがしたいですね。

菅澤優衣香
菅澤優衣香写真:長田洋平/アフロスポーツ

FW 菅澤優衣香(三菱重工浦和レッズレディース)

(いわきFC U-18とのトレーニングマッチの)1点目は、相手DFラインとの駆け引きで、タイミングよく裏に抜け出すことができました。(清水)梨紗とは、これまでもトレーニングの中で目を合わせてタイミングのいいボールが来ることが何度もあって、今回もいいボールが来たので、落ち着いてトラップして、前に出ていたGKの上を浮かせて決めました。どのタイミングで守備のスイッチを入れるかは、自分たちFWがもっとはっきり決めなければいけないと感じます。

(所属がアマチュアリーグのなでしこリーグから)プロのWEリーグになって、チームの練習が午前になったことで、自主練習ができる時間が増えました。個人的にはケガが多かったので、体のケアを重点的にしています。コンディションを上げるために走ったり、筋トレもしています。コンディションはだいぶ上がってきて、体格の良いいわきFC U-18の選手に対しても体を入れて、ボールを収めることができました。海外の選手にも通用するぐらいのコンディションに戻ってきたと思います。五輪に向けては、攻守の予測に磨きをかけて、最終的に自分自身がシュートを決められるように取り組んでいきたいと思います。

鮫島彩
鮫島彩写真:長田洋平/アフロスポーツ

DF 鮫島彩(大宮アルディージャVENTUS)

(いわきFC U-18とのトレーニングマッチでは)3本目(○1-0)に出場して、30分間でチームとして力を出し切ろうということで、試合開始から前からの積極的な守備をしました。ビルドアップがうまくいかなくても、相手を裏返して守備からリズムを作っていこうとみんなで話し合っていた中で、チームとしてやりたかったことはできたと思います。

守備の面では、攻守が切り替わった瞬間に奪い返しにいくことを徹底したり、前線がどこからプレッシャーをかけるかというところを突き詰めていきたいと思っていましたが、トレーニングマッチではそれができた回数が増えたので、積み重ねられている部分だと思います。

五輪では、4-4-2だけでなく、4-3-3や、攻撃的にいく場合は3バックも含めて、いろいろなシステムをやれるようにしておくことが大事だと考えて取り組んでいます。(形が変わっても)守備の意識は変えず、FWが追い始めるラインと、攻守が切り替わった瞬間にいくのか、いかないのか。それからラインを上げるスピードとタイミングの3点をいつも意識しています。

選手同士でかける声はもう少し、全体的にうるさくしてもいいのかな、と思いますし、自分は鬱陶しいぐらい声を出せたらいいなと思っていますね。そういう勢いや雰囲気も大事ですし、今回は今までの五輪とは違って無観客の可能性があって、声はいつもよりも通る状況だと思いますから。とことん声を出し合って、細部にこだわりたいです。

※表記のない写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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