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やっぱり強い豊島将之JT杯覇者(31)日本シリーズ2連覇達成! 藤井聡太竜王(19)の最年少優勝阻止

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月21日。千葉県千葉市・幕張メッセ国際展示場において第42回将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦決勝▲豊島将之JT杯覇者(九段、31歳)-△藤井聡太竜王(19歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 17時22分に始まった対局は18時36分に終局。結果は95手で豊島JT杯の勝ちとなりました。豊島JT杯は2連覇達成、通算3回目の優勝を達成しました。

 豊島JT杯には昨年に引き続き、純銀のJT杯、賞金500万円、テーブルマークのパックごはん1年分が贈られました。

 藤井竜王は準優勝。賞金150万円が贈られました。

 藤井竜王は本棋戦における史上最年少優勝達成は、今期はなりませんでした。また藤井竜王は全棋戦を通じ、トーナメント形式の決勝に進んで初の敗退となりました。

 藤井竜王にここのところ7連敗と押されていた豊島JT杯。大きな舞台で、大きな1勝を返しました。両者の対戦成績は、これで豊島10勝、藤井13勝となりました。

豊島JT杯覇者、2年連続日本一

 野球における日本シリーズといえば、プロ12球団の頂点を決する七番勝負です。筋金入りのスワローズファンである渡辺明名人にとっては、初戦は不本意な結果だったようです。

 将棋における日本シリーズといえば、各地を転戦する将棋の早指し公開対局。12人のトップ棋士の中からトップ・オブ・トップが決まる最終決戦は、幕張メッセにおいて、多くのファンを前にしておこなわれました。

 振り駒によって、先手は豊島JT杯に。戦型は角換わりとなりました。

 25手目。豊島JT杯は早くも仕掛けていきます。対して藤井竜王も手が止まることなく、すらすらと応じていきました。本棋戦が早指しの設定とはいえ、両者の事前研究がなければ、ここまで早く指すことはできません。加えて、そこは人間同士の実戦。気合という側面もあったようです。

豊島「考えたことはあったんですけど、そこまで深く研究できていたわけではなくて。でも途中で考えると気合い負けかなという気もしたので。まあ、難しい将棋なのかな、という認識はあったんですけど。できるだけ前に出るような手を選んでいこうかなというふうには思いました」

藤井「特に想定していたというわけではないんですけど、一応難しい変化なのかな、というふうに思ってました」

 藤井竜王が前線に飛車を進め、横歩を取った52手目で、対局はいったん休憩。豊島JT杯覇者の53手目が封じ手とされ、次の一手問題として出題されました。

 体操の内村航平選手は次の手を飛車取りに打つ角打ちと予想します。はたして、正解はその通りでした。

 藤井竜王が7筋最下段に飛車を引いて逃げたあと、55手目、豊島JT杯は飛車の頭に歩を打って、どこに行くのかを問います。

藤井「▲7二歩と打たれて飛車の逃げ場所が悩ましいと思っていたんですけど」

 ここは難解きわまりないところ。6筋から2筋まで、4か所の移動場所があって、その比較は難しいとしか言いようがありません。しかし早指しなので、すぐに決断を迫られることになります。

 56手目。藤井竜王は3筋に飛車を逃げました。局後の感想戦では本局のポイントとして、このあたりが検討されています。

藤井「おそらく本譜(△3一飛)の3一よりは2一の方がよかったのかと思います。本譜、ちょっとそのあと、▲2三飛車成と飛車を成られてしまったので、△2一飛車でその筋を防いでおくべきだったかな、という気がします」

 豊島JT杯は打った角を主軸とし、藤井玉の上部に歩を進めていく自然な攻めを見せました。

藤井「(61手目)▲4五歩から▲4四歩というのが予想外に厳しい手で。ちょっとこちらの△8八歩からの攻めは手抜かれてしまったので、▲4四歩取り込まれた局面がすでに苦しいのかなあ、と思いました。▲4五歩のときにもう少し、なにか受けに回ってがんばる手を指さなければいけなかったのかなあ、という気がします。▲4四歩と取り込まれた局面まで進んでしまうと、けっこう手段が難しい気がします」

 豊島JT杯は藤井玉の頭に銀を打ち込んで、好調な攻めが続きました。

豊島「ちょっとわからなかったんですけど(69手目、金取りに)▲4四歩と叩くところは単に(▲2三飛成と)飛車成るか迷ったんですけど、単に飛車成って7七叩かれる(金取りに△7七歩)とちょっといやな形なんで、先に叩いて」

 豊島JT杯の判断は的確だったようで、形勢は次第に豊島よしへと進んでいきました。そして戦型の性質上、一気に終盤戦へと入ります。

豊島「よくなった(と思った)のは(75手目)△3三龍と銀を取って(藤井玉が)詰めろなので。一応、先手玉(豊島玉)も大丈夫なつもりではいたんですけど。そこで読み抜けがなければいけそうな気はしていました」

 藤井玉は受けなしに追い込まれ、最後は豊島玉が詰むや詰まざるや。しかし豊島JT杯が正確に見切った通り、詰みはありません。

 95手目。豊島JT杯は玉を3筋下段に引いて逃げます。

「・・・10秒。・・・20秒。1、2、3」

 そこまで秒を読まれたところで、藤井竜王は深く一礼。投了の意思を告げて、終局となりました。会場からは大きな拍手。豊島JT杯覇者が強敵中の強敵を相手に見事な勝利を飾り、2年連続日本一の座に輝きました。

 ここ最近、すさまじい勢いで勝ち進んでいた藤井竜王。対豊島戦の連勝は7、公式戦の連勝は9で止まることになりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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