チタン製の燃料タンクはメリットいっぱい? クルマにも採用される日はくるか
クルマを含めた工業製品に使われる最新の素材情報の展示会、高機能素材WEEK(12月7〜9日、幕張メッセ)を取材した。クルマの軽量化や電動化に関する最新技術を一堂に集めており、エンジニアや技術営業職に就かれている方だけでなく、筆者のようにクルマのメカニズムを素材レベル、構造レベルからも追いかけているジャーナリストにとっては、こうしたイベントはモーターショーに匹敵するほど興味深い。
各ブースの展示物を眺めながら会場を歩いていたら製鉄大手、日本製鉄のブースを通りがかった。そこで目についたのはチタン活用の提案だった。製鉄、という社名であるから扱うのは鉄鋼がメインであり、鉄鋼同様品質の高い非鉄金属も得意分野だというのは知っているが…。
そこに展示されていたのは、チタン製の自動車部品たち。エンジンの吸気バルブやコンロッド、マフラーと一緒に金属製の燃料タンクも並べられている。この燃料タンクはチタン製の試作品だろうか?
「これはオートバイ用の燃料タンクで、すでに実用化されているものです」と説明員。しかし隣にはほぼ同じ形状の樹脂製の燃料タンクも置いてある。鉄製より軽量で、錆にも強いという点は樹脂製も同じはず。そうなると製造コストの点で不利なチタン製には、あまりメリットはないように感じるのだが…。
まずチタン製の燃料タンクを持たせてもらい、その軽さを確認してから樹脂製の燃料タンクを持って驚いた。想像とは違い、樹脂製の方が明らかに重いのだ。
「樹脂製のタンクは気化したガソリンが透過してしまうのを防ぐために、一定以上の厚みが必要なんですよ」と同社の説明員が理由を説明してくれた。
樹脂製は圧力に対する強度ではなく、透過してしまうのを防ぐために厚みが必要なのだとか。それに対してチタン製は強度さえ確保できれば薄肉化できるので、より軽くできるのだ。持ち比べて分かるほど軽いのだから、軽量化の効果は2、3割はありそうだ。
チタンといえば、強く軽いだけでなく耐食性にも優れた金属として軍用や競技用の素材としてだけでなく、人工関節やインプラントなどにも利用されている素材。実は純粋なチタンと合金ではかなり特性が異なり、強度や加工性などもかなり違いがある。
今回の燃料タンクの場合は、純チタンを利用しているそうだ。圧延性が高く、鉄製燃料タンクと同じ金型でプレス成形が可能なのもメリットなのだとか。純チタンでも中国製などと比べると国産は品質が高いので、こうした加工をしても歩留まりが高いようだ。
すでに樹脂製化が進みきった感のある乗用車用の燃料タンクも、チタン製に置き換えられることも夢物語ではなさそうではないか。
なぜなら実燃費で30km/Lを記録するハイブリッドが登場している以上、燃料タンクは小型軽量化がこれからも進むことは間違いない。燃料タンクの容量が25から30L前後となれば、大型バイク用とそれほど大きさが変わらなくなってくる。
そうなってくると、更なる軽量化のために燃料タンクをチタン製にすることは考えられない話ではなくなりそうだ。ハイブリッド車で燃料タンクの小型軽量化を図るのであれば、チタン製化は有効だろう。リサイクル性も高いことで、ある程度コストを吸収することもできそうだ。
昔からクルマの部品の素材を見てきた者、しかもチタン製パーツの特殊性を知っている者にとって、乗用車の燃料タンクがチタン製になることは想像できないかもしれない。それくらいチタン製のパーツは高価で特殊なカテゴリーであるものだ。
「普通の乗用車にチタン製の燃料タンクなんて贅沢すぎる!」という声も聞こえてきそうだし、当初は筆者もそう思った。けれども今後はエンジン生き残りのために、あらゆる手段を講じて効率を高める必要がある。であれば、燃料タンクの軽量化も今までとは違う次元で考える必要があるだろう。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】