【ジャズ後】地響きを立てて進化する爆音系癒やしジャズ|外山安樹子トリオ@JZ Bratを聴き終えて
自宅に帰って湯船につかりながらノホホンと感想を書きとめようかな、という感じのヌル〜いライヴ・レポート。今回は、外山安樹子5th『Tres Trick』発売記念ツアーの皮切りとなる渋谷JZ Brat。
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外山安樹子トリオを北欧系の“ロマンティックなムード派”の範疇に入れていた人がいたら、大いなる誤解があると指摘しておかなければならない。
それはおそらく、このトリオが作品主義であるリーダーの外山安樹子を尊重して制作してきたこれまでアルバムがもたらすイメージによるところが大きいのかもしれないが、すでにライヴを体験している人には新曲でこの新作のアルバム・タイトルの副題にもなっている“トンガリ”という、そのサウンドに対する評価を端的に表現した言葉に「うんうん」と肯きながら、「そう、違うんだよなぁ」と確認済のはずだ。
新作『Tres Trick』はそうしたバンド内の齟齬とバンドとリスナーとの齟齬を大幅に軽減する内容となり、それをステージで披露するこのレコ発ツアーはまさにこのトリオの“トンガリ”にズッポリと浸るべく用意されたものだったわけだか、それに気づくのにオープニングの何秒もかからなかったのが、当夜の第一に挙げるべき衝撃だ。
とにかくオープナーの「Spear or Shield」からいきなりトップギアでの演奏。イントロこそ「ちょっとハシりぎみ?」と感じるところがあったものの、テーマに入るやいなや、3人の意識が「カチッ!」と重なった音がそのまま客席にも響き渡ったかのように誰もが感じたに違いないと思うほど、繰り出される音に厚みと重みが増していく。
外山安樹子のピアノは饒舌ではあるが、音数の多さよりも発する圧力が際立っている。そのため、レガートで弾いても和音を繰り出しても、音が濁らずに重なっていくのだ。これは特筆しておかなければならない。
そしてもうひとつ、このトリオの特筆すべき部分は、彼女の作曲法にも関係しているのだけれど、コード進行がジャス的でもビートルズ系のポピュラー音楽的でもないところ。こうした構成上の特徴を有している曲に対して、例えばベースの関口宗之は、慣れているに違いないルートを禁じられることでフックが生まれ、さらに曲の和声を複雑にするベース・ラインを折り重ねていく。リズムに関しても、ピアノが芯の硬い音を発しているから、秋葉正樹は遠慮なくリムショットを絡めたり、バスドラで被せ返そうとする。こうした“相乗効果”がこのトリオの音の厚さを生み出す源泉になっているように感じた。
終演後の感想は、「日本にこんな“爆音ジャズ”が存在していたとは……」だった。このツアーで、各地のライヴハウスの客席では、ポロポロという“目から鱗”が落ちる音が鳴り止まなくなるに違いない。