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先崎学九段、二歩で反則負け 叡王戦九段予選

松本博文将棋ライター
(画像撮影:筆者)

 8月12日。叡王戦九段予選▲島朗九段-△先崎学九段戦で事件が起こりました。

 棋譜は叡王戦の公式ページをご覧ください。

 http://www.eiou.jp/kifu_player/20190812-1.html

 島九段先手で、矢倉模様の立ち上がり。対して後手番の先崎九段は矢倉中飛車の作戦です。5筋の歩を交換した後、5筋の相手陣一段目にと金を作り、このと金を守るために、二段目に歩を打ちました。この連携した2枚の駒は、終局まで残ります。

 本格的な戦いとなった後は、目くるめくような大立ち回りが続きました。先崎九段が大きく優位に立ったかのようにも見えましたが、島九段も粘り、形勢は二転三転します。

 160手目。島九段の玉には△6六龍▲同玉△5五金という、まるで詰将棋のように美しい詰み筋が生じていました。もしその手を読み切れていれば、中盤からずっと残っている歩とと金がいきる展開で、先崎九段の名局となっていたかもしれません。

 先崎九段は代わりに△6六角という攻防手をはなちます。しかし、これがわずかに判断ミスだったか。そこでまた、形勢が入れ替わったようです。

 最後は島九段の勝勢に。先崎玉には、長手数ながら詰みが生じています。しかし、実戦の中で、詰むや詰まざるや、というところ。

 島九段が▲6四角と打ち、4二にいる先崎玉に王手をかけました。対して、先崎九段はどう受けるか。

 184手目。先崎九段は歩を手にします。そして△5三歩と打ちましたした。

「ああー、ダメダメダメ!」

 解説の棋士と女流棋士が悲鳴をあげる中、先崎九段は二歩を打ってしまったのでした。遠く離れた5八の地点に歩がいるため、ついうっかりしそうなところでした。

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棋士でもミスはする

 人間同士の対戦ですから、ミスは起こります。

 筆者は2005年、NHK杯戦で先崎学現九段-松尾歩現八段戦で観戦記を担当したことがありました。その時は松尾さんが二歩を打ってしまい負け。局後、筆者は勝った先崎さんにいろいろ質問しました。松尾さんが二歩を打ってしまったことに関して、先崎さんはほとんど触れず、相手を気遣っていました。そして松尾さんの健闘を称えていたのが印象的でした。

 島九段-先崎九段戦。最後にアクシデントが起こったのは、大熱戦だったゆえでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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